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7.浅緋の泣く場所
浅緋の泣く場所③
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「浅緋さん、泣きましたか?」
「え?」
園村は浅緋のことをとても大切に思っていた。
片倉はそれを知っている。
奥さんは浅緋はどう思っているか分からないけれど、と言っていたのだ。
こんなことでも慰めになれば、と片倉は園村から聞いた桜の話をした。
そのエピソードは微笑ましくて、聞いていた時片倉も可愛らしくて笑ってしまって、さらに浅緋を愛おしく思ったエピソードだ。
そんなことを……と言っていた浅緋だったが、急にぽろぽろっと涙を零し始めた。
「浅緋さん……」
「ごめんなさい。なんでかしら?」
堰を切ったように涙を流す浅緋に、片倉は驚いたけれど、当然の事だと思う。
子供のようにぽろぽろと涙をこぼす浅緋が綺麗で儚げで、こんな時だけれど、抱きしめたくなって仕方なくなった。
立ち上がった片倉は、浅緋にハンカチを差し出す。
「どうぞ」
「あの……でもっ、」
浅緋はとても戸惑った様子だ。
「泣いている婚約者をそのままになんてしておけません」
『婚約者』ハッキリと明確にそれを口にすることによって、浅緋に片倉の立場を知っておいてほしかった。
浅緋は驚いた顔はしていたけれど、その表情には嫌悪はない。
けれど、言われたその言葉を一生懸命噛み砕いて、考えているようにも見えた。
急に押し寄せただろう思い出に対する涙はまだ止まってはいない。
けれど、婚約者ではないという否定の言葉も出ない。
「失礼します」
そう言って、片倉は泣いている浅緋の頭をそうっと胸に抱き寄せた。
先ほど浅緋に言った『婚約者だから放っておけない』そんな気持ちも間違いはないのだけれど、本当は浅緋を一人でなんて泣かせるのは嫌だったから。
泣くのなら自分の胸の中でだけ泣いてほしい。
そこでなら、思い切り泣いたって構わない。
「思い切り泣くのも、悪くないですよ。ハンカチがわりだと思って。どうぞ」
そう言ったら、浅緋は安心したように声を上げて泣き出した。
「っふ……うぇ……」
薄い肩を震わせて泣く浅緋を、ただ黙って片倉は、静かにそっと抱いていた。
このまま泣き止まないのではないかと思ったのだが、いつしかその声が止まる。
そうしたら、浅緋はどうしたらいいのか分からなくなってしまったようで、そのまま動きを止めているのが分かった。
今の今まで胸の中で泣いていたのに、戸惑っているその様子が可愛らしい。
「泣き止みましたか?」
そっと聞いたら、
「……はい」
と答えが返ってきた。
「大丈夫?」
片倉が顔を覗き込んだら、ありがとうございますと言って俯いてしまった。
確かに泣いたばかりの顔なんて、女性はきっと見られたくないだろう。
だから、ふと顔を逸らして、泣くことについての効果を伝える。
「泣くと副交感神経が働くそうです。それによって、気持ちが落ち着いて、リラックス効果を得られるそうですよ。今日は、しっかり寝てくださいね」
だから、悪いことじゃないんだ、と分かってくれたらいい。
くすっと笑い声が聞こえて、浅緋が笑顔になった。
初めて片倉に向けてくれた笑顔だ。
それに一瞬見惚れてしまう。
──なんて可愛いのか。
少しずつで構わない。
片倉のことを認めてくれたら。
「え?」
園村は浅緋のことをとても大切に思っていた。
片倉はそれを知っている。
奥さんは浅緋はどう思っているか分からないけれど、と言っていたのだ。
こんなことでも慰めになれば、と片倉は園村から聞いた桜の話をした。
そのエピソードは微笑ましくて、聞いていた時片倉も可愛らしくて笑ってしまって、さらに浅緋を愛おしく思ったエピソードだ。
そんなことを……と言っていた浅緋だったが、急にぽろぽろっと涙を零し始めた。
「浅緋さん……」
「ごめんなさい。なんでかしら?」
堰を切ったように涙を流す浅緋に、片倉は驚いたけれど、当然の事だと思う。
子供のようにぽろぽろと涙をこぼす浅緋が綺麗で儚げで、こんな時だけれど、抱きしめたくなって仕方なくなった。
立ち上がった片倉は、浅緋にハンカチを差し出す。
「どうぞ」
「あの……でもっ、」
浅緋はとても戸惑った様子だ。
「泣いている婚約者をそのままになんてしておけません」
『婚約者』ハッキリと明確にそれを口にすることによって、浅緋に片倉の立場を知っておいてほしかった。
浅緋は驚いた顔はしていたけれど、その表情には嫌悪はない。
けれど、言われたその言葉を一生懸命噛み砕いて、考えているようにも見えた。
急に押し寄せただろう思い出に対する涙はまだ止まってはいない。
けれど、婚約者ではないという否定の言葉も出ない。
「失礼します」
そう言って、片倉は泣いている浅緋の頭をそうっと胸に抱き寄せた。
先ほど浅緋に言った『婚約者だから放っておけない』そんな気持ちも間違いはないのだけれど、本当は浅緋を一人でなんて泣かせるのは嫌だったから。
泣くのなら自分の胸の中でだけ泣いてほしい。
そこでなら、思い切り泣いたって構わない。
「思い切り泣くのも、悪くないですよ。ハンカチがわりだと思って。どうぞ」
そう言ったら、浅緋は安心したように声を上げて泣き出した。
「っふ……うぇ……」
薄い肩を震わせて泣く浅緋を、ただ黙って片倉は、静かにそっと抱いていた。
このまま泣き止まないのではないかと思ったのだが、いつしかその声が止まる。
そうしたら、浅緋はどうしたらいいのか分からなくなってしまったようで、そのまま動きを止めているのが分かった。
今の今まで胸の中で泣いていたのに、戸惑っているその様子が可愛らしい。
「泣き止みましたか?」
そっと聞いたら、
「……はい」
と答えが返ってきた。
「大丈夫?」
片倉が顔を覗き込んだら、ありがとうございますと言って俯いてしまった。
確かに泣いたばかりの顔なんて、女性はきっと見られたくないだろう。
だから、ふと顔を逸らして、泣くことについての効果を伝える。
「泣くと副交感神経が働くそうです。それによって、気持ちが落ち着いて、リラックス効果を得られるそうですよ。今日は、しっかり寝てくださいね」
だから、悪いことじゃないんだ、と分かってくれたらいい。
くすっと笑い声が聞こえて、浅緋が笑顔になった。
初めて片倉に向けてくれた笑顔だ。
それに一瞬見惚れてしまう。
──なんて可愛いのか。
少しずつで構わない。
片倉のことを認めてくれたら。
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