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6.一瞬の邂逅

一瞬の邂逅⑤

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「あら……」

 そして、満足げに頷く。
「そうでなくてはね。あの子は……浅緋は父親が周りを振り回していると感じていたかもしれませんけれど、それでも、彼は浅緋をとても愛していました」

「はい。それは存じています。もしも、奥様で僕が浅緋さんには無理なのだと感じたら、このお話は断っていただいて構いません」

 片倉は顔を上げキッパリと言い切った。

 奥さんは驚いた顔をしていた。
 こうしてみると、やはり親子で奥さんと浅緋の面差しはとても似ていると片倉は思うのだ。

 そうして奥さんはふふ……っと笑い声を漏らした。
「私は浅緋は無理だと思うんじゃないか、って考えていたんですけど」

「僕が……?」
 片倉は片倉自身が浅緋のことを無理だと思うことなんて、あり得なかった。
「そんなことはない、と思いますが」

「どうして? 普通ならそう思うでしょう? 彼女の父親からの無理な遺言で強引に押し付けられたようなものよ? しかもあなたはお金持ちで、とても素敵なお顔立ちをされてる。全てを持っている方なのだから、とても女性におモテになると思うのよ?」

「確かにきっかけは園村さんに言われたことですが、僕自身は望んでもいなかったような光栄です。僕は最初から浅緋さんに惹かれています。だからこそ、無理強いはしたくない。今回のお話をお断りされたとしても、僕は責任を持ってお2人をお守りします」

「なるほどね……」
 奥さんは上品な仕草でお茶を飲んだ。

 とても柔らかい雰囲気の人なのに、一本芯の通ったところを感じる。
 園村もそういうところに惹かれたのかもしれない、と思うような人だった。

「私は園村の見る目を疑ったことはありません。あの人、見る目だけは間違いない人だったわ。それはワンマンなところもありましたけれど、男性なんて大なり小なりそういうものです。特に彼は一国一城の主でもあったのですもの。なおさらです」
 片倉は頷く。

 すると奥さんはころころと笑い出した。
「それにしても、確かに園村の言う通りだわ。あの子、こうでもしなきゃ一生結婚なんてしないもの。そうこうしているうちに流されてどなたかのところにお嫁に行くのは明白ですわ」

 そうして片倉の方をまっすぐ向いた。
「あなたもよ? 片倉さん。素敵な方なのに今までご縁がなかったのはそういうことなのではなくて?」
 片倉は手で口元を覆って大きくため息をついた。

 それを見て笑っている奥さんは確かに園村の伴侶なのだと思う。
「おっしゃる通りです」

「お幸せになりなさい。きっと、浅緋も大事にしていただけるでしょう」
 そうして奥さんは席を立った。
 片倉も時間を察して、席を立つ。

 玄関には綺麗に揃えられた靴と、先日のお手伝いさんがいた。
「片倉さん……」

 片倉が靴を履いて、帰ろうかとしていた時に奥さんに声をかけられる。

「はい」
「浅緋がどう思っているかは分かりませんけれど、私は確かに大事にされていましたし、私も園村をとても大切に思っていました。間違いなく幸せでした。浅緋のこと、くれぐれもよろしくお願いいたします」
 そうして奥さんは深く腰を折ったのだ。

 胸がぐっと熱くなった。
 その時片倉は、強く浅緋を大事にして幸せにしたい、と思ったのだ。
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