24 / 87
6.一瞬の邂逅
一瞬の邂逅⑤
しおりを挟む
「あら……」
そして、満足げに頷く。
「そうでなくてはね。あの子は……浅緋は父親が周りを振り回していると感じていたかもしれませんけれど、それでも、彼は浅緋をとても愛していました」
「はい。それは存じています。もしも、奥様で僕が浅緋さんには無理なのだと感じたら、このお話は断っていただいて構いません」
片倉は顔を上げキッパリと言い切った。
奥さんは驚いた顔をしていた。
こうしてみると、やはり親子で奥さんと浅緋の面差しはとても似ていると片倉は思うのだ。
そうして奥さんはふふ……っと笑い声を漏らした。
「私はあなたが浅緋は無理だと思うんじゃないか、って考えていたんですけど」
「僕が……?」
片倉は片倉自身が浅緋のことを無理だと思うことなんて、あり得なかった。
「そんなことはない、と思いますが」
「どうして? 普通ならそう思うでしょう? 彼女の父親からの無理な遺言で強引に押し付けられたようなものよ? しかもあなたはお金持ちで、とても素敵なお顔立ちをされてる。全てを持っている方なのだから、とても女性におモテになると思うのよ?」
「確かにきっかけは園村さんに言われたことですが、僕自身は望んでもいなかったような光栄です。僕は最初から浅緋さんに惹かれています。だからこそ、無理強いはしたくない。今回のお話をお断りされたとしても、僕は責任を持ってお2人をお守りします」
「なるほどね……」
奥さんは上品な仕草でお茶を飲んだ。
とても柔らかい雰囲気の人なのに、一本芯の通ったところを感じる。
園村もそういうところに惹かれたのかもしれない、と思うような人だった。
「私は園村の見る目を疑ったことはありません。あの人、見る目だけは間違いない人だったわ。それはワンマンなところもありましたけれど、男性なんて大なり小なりそういうものです。特に彼は一国一城の主でもあったのですもの。なおさらです」
片倉は頷く。
すると奥さんはころころと笑い出した。
「それにしても、確かに園村の言う通りだわ。あの子、こうでもしなきゃ一生結婚なんてしないもの。そうこうしているうちに流されてどなたかのところにお嫁に行くのは明白ですわ」
そうして片倉の方をまっすぐ向いた。
「あなたもよ? 片倉さん。素敵な方なのに今までご縁がなかったのはそういうことなのではなくて?」
片倉は手で口元を覆って大きくため息をついた。
それを見て笑っている奥さんは確かに園村の伴侶なのだと思う。
「おっしゃる通りです」
「お幸せになりなさい。きっと、浅緋も大事にしていただけるでしょう」
そうして奥さんは席を立った。
片倉も時間を察して、席を立つ。
玄関には綺麗に揃えられた靴と、先日のお手伝いさんがいた。
「片倉さん……」
片倉が靴を履いて、帰ろうかとしていた時に奥さんに声をかけられる。
「はい」
「浅緋がどう思っているかは分かりませんけれど、私は確かに大事にされていましたし、私も園村をとても大切に思っていました。間違いなく幸せでした。浅緋のこと、くれぐれもよろしくお願いいたします」
そうして奥さんは深く腰を折ったのだ。
胸がぐっと熱くなった。
その時片倉は、強く浅緋を大事にして幸せにしたい、と思ったのだ。
そして、満足げに頷く。
「そうでなくてはね。あの子は……浅緋は父親が周りを振り回していると感じていたかもしれませんけれど、それでも、彼は浅緋をとても愛していました」
「はい。それは存じています。もしも、奥様で僕が浅緋さんには無理なのだと感じたら、このお話は断っていただいて構いません」
片倉は顔を上げキッパリと言い切った。
奥さんは驚いた顔をしていた。
こうしてみると、やはり親子で奥さんと浅緋の面差しはとても似ていると片倉は思うのだ。
そうして奥さんはふふ……っと笑い声を漏らした。
「私はあなたが浅緋は無理だと思うんじゃないか、って考えていたんですけど」
「僕が……?」
片倉は片倉自身が浅緋のことを無理だと思うことなんて、あり得なかった。
「そんなことはない、と思いますが」
「どうして? 普通ならそう思うでしょう? 彼女の父親からの無理な遺言で強引に押し付けられたようなものよ? しかもあなたはお金持ちで、とても素敵なお顔立ちをされてる。全てを持っている方なのだから、とても女性におモテになると思うのよ?」
「確かにきっかけは園村さんに言われたことですが、僕自身は望んでもいなかったような光栄です。僕は最初から浅緋さんに惹かれています。だからこそ、無理強いはしたくない。今回のお話をお断りされたとしても、僕は責任を持ってお2人をお守りします」
「なるほどね……」
奥さんは上品な仕草でお茶を飲んだ。
とても柔らかい雰囲気の人なのに、一本芯の通ったところを感じる。
園村もそういうところに惹かれたのかもしれない、と思うような人だった。
「私は園村の見る目を疑ったことはありません。あの人、見る目だけは間違いない人だったわ。それはワンマンなところもありましたけれど、男性なんて大なり小なりそういうものです。特に彼は一国一城の主でもあったのですもの。なおさらです」
片倉は頷く。
すると奥さんはころころと笑い出した。
「それにしても、確かに園村の言う通りだわ。あの子、こうでもしなきゃ一生結婚なんてしないもの。そうこうしているうちに流されてどなたかのところにお嫁に行くのは明白ですわ」
そうして片倉の方をまっすぐ向いた。
「あなたもよ? 片倉さん。素敵な方なのに今までご縁がなかったのはそういうことなのではなくて?」
片倉は手で口元を覆って大きくため息をついた。
それを見て笑っている奥さんは確かに園村の伴侶なのだと思う。
「おっしゃる通りです」
「お幸せになりなさい。きっと、浅緋も大事にしていただけるでしょう」
そうして奥さんは席を立った。
片倉も時間を察して、席を立つ。
玄関には綺麗に揃えられた靴と、先日のお手伝いさんがいた。
「片倉さん……」
片倉が靴を履いて、帰ろうかとしていた時に奥さんに声をかけられる。
「はい」
「浅緋がどう思っているかは分かりませんけれど、私は確かに大事にされていましたし、私も園村をとても大切に思っていました。間違いなく幸せでした。浅緋のこと、くれぐれもよろしくお願いいたします」
そうして奥さんは深く腰を折ったのだ。
胸がぐっと熱くなった。
その時片倉は、強く浅緋を大事にして幸せにしたい、と思ったのだ。
2
お気に入りに追加
453
あなたにおすすめの小説
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
冷血弁護士と契約結婚したら、極上の溺愛を注がれています
朱音ゆうひ
恋愛
恋人に浮気された果絵は、弁護士・颯斗に契約結婚を持ちかけられる。
颯斗は美男子で超ハイスペックだが、冷血弁護士と呼ばれている。
結婚してみると超一方的な溺愛が始まり……
「俺は君のことを愛すが、愛されなくても構わない」
冷血サイコパス弁護士x健気ワーキング大人女子が契約結婚を元に両片想いになり、最終的に両想いになるストーリーです。
別サイトにも投稿しています(https://www.berrys-cafe.jp/book/n1726839)
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
お前を必ず落として見せる~俺様御曹司の執着愛
ラヴ KAZU
恋愛
まどかは同棲中の彼の浮気現場を目撃し、雨の中社長である龍斗にマンションへ誘われる。女の魅力を「試してみるか」そう言われて一夜を共にする。龍斗に頼らない妊娠したまどかに対して、契約結婚を申し出る。ある日龍斗に思いを寄せる義妹真凜は、まどかの存在を疎ましく思い、階段から突き落とす。流産と怪我で入院を余儀なくされたまどかは龍斗の側にはいられないと姿を消す。そこへ元彼の新が見違えた姿で現れる。果たして……
私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~
景華
恋愛
顔いっぱいの眼鏡をかけ、地味で自身のない水無瀬海月(みなせみつき)は、部署内でも浮いた存在だった。
そんな中初めてできた彼氏──村上優悟(むらかみゆうご)に、海月は束の間の幸せを感じるも、それは罰ゲームで告白したという残酷なもの。
真実を知り絶望する海月を叱咤激励し支えたのは、部署の鬼主任、和泉雪兎(いずみゆきと)だった。
彼に支えられながら、海月は自分の人生を大切に、自分を変えていこうと決意する。
自己肯定感が低いけれど芯の強い海月と、わかりづらい溺愛で彼女をずっと支えてきた雪兎。
じれながらも二人の恋が動き出す──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる