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5.宝物
宝物④
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「浅緋さん……」
「娘の名前だよ。茜で薄く染めた緋色のことだ。薄い緋色だよ」
「お似合いの名前ですね」
「気に入ったか?」
「素敵なお名前だと思います」
「名前じゃないよ。浅緋のことだ」
園村の意図するところを感じて、片倉は苦笑する。
「大事なお嬢さんではないんですか?」
「大事だ。だから信頼できるものに託したい。会社も、浅緋も」
片倉が起業したころなら、園村ホールディングスに片倉が関わることなど考えられなかった。
けれど、今のグローバル・キャピタル・パートナーズならそれも不可能ではないはずだ。
今まで、散々園村に助けてもらった。
だから、会社の事をよろしく頼むと言われた時も、二つ返事とはいかなかったけれども、検討した結果引受けることにしたのは、ひとえに今までの恩があったからである。
それに今の片倉ならできなくはない、という判断をしたからだ。
会社の経営は義理だけではできない。それでもやっぱり世話になった人に何か返したいとは思った。
奇しくも昔、園村が言っていた通りになったわけである。
「託すってどういう事なんです?彼女は会社のようにはいかないでしょう?」
「君には今そういう相手はいるのか?」
「今はいませんね」
「だろうな。でなかったらこんな死に損ないのところに足繁く通うわけもないからな」
園村の毒舌は昔からで、片倉はそれにも慣れている。
「箱入りで育てすぎてて……素直でいい子なんだが、純粋すぎて心配なんだ」
園村の、それは経営者とは違う父親の顔だった。
「人見知りもあって、積極的ではないけれども、落ち着いて物事をしっかり見ることのできる子だと思う。思慮深い子なんだ。先を見通す冷静な君とは似合いなんじゃないかと思ったんだが」
片倉自身も、積極的で騒がしい女性はあまり好みではない。どちらかと言うと落ち着いていて、物静かな女性が好みだ。
そういう意味でも、浅緋は好みではあるのだが……。
「彼女の気持ちもあるでしょうに」
「浅緋はおそらく誰とも付き合ったことはない」
片倉は思わず手で口元を抑えてしまった。
片倉好みの落ち着いていて物静かな女性が、誰の手もつかずにそこにいる、というのか。
「それ、僕に託していいんですか?」
「もし君じゃなかったら、いつの日か見も知らないやつのものになる、ということなんだろうな」
それを想像すると片倉はなんだか業腹な気もする。
「いいんでしょうか?こんなことを僕らで決めてしまって」
「浅緋は積極性はあまりないと言っただろう。こっちがちょっと強引なくらいに決めなかったら、あいつ永遠に結婚なんてしないんじゃないか。ただでさえ、人見知りなのに。君が嫌なら諦めるが」
「そんなことはないです」
思わず即答してしまったら、園村が笑っているのが目に入って、片倉はため息をついた。
若造のころから知られている園村には、片倉も逆らいがたいし、こんな風に見抜かれてしまっても別に気分は悪くない。
それに園村は、誰でも彼でもそういう提案をする人物ではない。
だから、こんな風に少しふざけたような様子で言ってはいるけれど、おそらくは本気なのだろう。
それに……片倉は先程の写真の浅緋の笑顔を思い出す。
あんな風にあの彼女が、自分に向かって笑ってくれたら嬉しいだろうし、あの笑顔を自分が守るということは、悪くないように思うのだ。
「娘の名前だよ。茜で薄く染めた緋色のことだ。薄い緋色だよ」
「お似合いの名前ですね」
「気に入ったか?」
「素敵なお名前だと思います」
「名前じゃないよ。浅緋のことだ」
園村の意図するところを感じて、片倉は苦笑する。
「大事なお嬢さんではないんですか?」
「大事だ。だから信頼できるものに託したい。会社も、浅緋も」
片倉が起業したころなら、園村ホールディングスに片倉が関わることなど考えられなかった。
けれど、今のグローバル・キャピタル・パートナーズならそれも不可能ではないはずだ。
今まで、散々園村に助けてもらった。
だから、会社の事をよろしく頼むと言われた時も、二つ返事とはいかなかったけれども、検討した結果引受けることにしたのは、ひとえに今までの恩があったからである。
それに今の片倉ならできなくはない、という判断をしたからだ。
会社の経営は義理だけではできない。それでもやっぱり世話になった人に何か返したいとは思った。
奇しくも昔、園村が言っていた通りになったわけである。
「託すってどういう事なんです?彼女は会社のようにはいかないでしょう?」
「君には今そういう相手はいるのか?」
「今はいませんね」
「だろうな。でなかったらこんな死に損ないのところに足繁く通うわけもないからな」
園村の毒舌は昔からで、片倉はそれにも慣れている。
「箱入りで育てすぎてて……素直でいい子なんだが、純粋すぎて心配なんだ」
園村の、それは経営者とは違う父親の顔だった。
「人見知りもあって、積極的ではないけれども、落ち着いて物事をしっかり見ることのできる子だと思う。思慮深い子なんだ。先を見通す冷静な君とは似合いなんじゃないかと思ったんだが」
片倉自身も、積極的で騒がしい女性はあまり好みではない。どちらかと言うと落ち着いていて、物静かな女性が好みだ。
そういう意味でも、浅緋は好みではあるのだが……。
「彼女の気持ちもあるでしょうに」
「浅緋はおそらく誰とも付き合ったことはない」
片倉は思わず手で口元を抑えてしまった。
片倉好みの落ち着いていて物静かな女性が、誰の手もつかずにそこにいる、というのか。
「それ、僕に託していいんですか?」
「もし君じゃなかったら、いつの日か見も知らないやつのものになる、ということなんだろうな」
それを想像すると片倉はなんだか業腹な気もする。
「いいんでしょうか?こんなことを僕らで決めてしまって」
「浅緋は積極性はあまりないと言っただろう。こっちがちょっと強引なくらいに決めなかったら、あいつ永遠に結婚なんてしないんじゃないか。ただでさえ、人見知りなのに。君が嫌なら諦めるが」
「そんなことはないです」
思わず即答してしまったら、園村が笑っているのが目に入って、片倉はため息をついた。
若造のころから知られている園村には、片倉も逆らいがたいし、こんな風に見抜かれてしまっても別に気分は悪くない。
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だから、こんな風に少しふざけたような様子で言ってはいるけれど、おそらくは本気なのだろう。
それに……片倉は先程の写真の浅緋の笑顔を思い出す。
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