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2.桜の思い出
桜の思い出④
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片倉が保有しているマンションは、いわゆる高層マンションで、エントランスはガラス張りになっている。
シンプルでいながら豪華なロビーには、コンシェルジュが常駐していて、ルームサービスも充実しているようなところだった。
浅緋はずっと日本家屋の実家暮らしであり、見上げても上の方が見えないようなこんなマンションに、憧れはあったけれど、実際自分が住むことになるとは思わなかった。
「本日からよろしくお願いいたします」
そう頭を下げた浅緋に、いつものように片倉は優しく笑った。
「ご自分の家と同じように寛いでくださいね。とは言っても最初は難しいかもしれませんが」
「ありがとうございます」
まだ数回しか会っていないのだし、多少はぎこちなくても仕方のないことだろう。
緊張していた浅緋に、片倉は家の中を案内してくれた。
「こちらがリビング、そっちがダイニングとキッチンです。週に二度、お手伝いさんが来てくださるので、部屋の掃除や家事などは任せています」
「あ……」
「あなたはお手伝いさんではないので、そのまま引き続きお願いする予定です。お仕事は辞めても構いませんよ?」
確かに大した仕事はしていなかったとは思うけれど、浅緋は会社で仕事をすることは嫌いではなかった。
むしろ、そのまま続けて構わないのであれば、続けたい。
「お仕事は、可能ならば続けたいです」
片倉は少し考える様子だ。
「お父様のお手伝いをされていたのでしたっけ?」
こくん、と浅緋は頷く。
「あの、けれど簡単なお仕事しかしていませんけれど」
「来週からはうちのものが園村ホールディングスに伺って仕事をする予定なのですが、その人についていただきましょうか」
「いいですか?」
「あなたがそうしたいのなら。それにそちらに伺うのは信頼できる者ですから」
「はい」
「こちらがあなたの部屋です」
そう言って、片倉がキッチンの隣の部屋のドアを開ける。
実家の部屋とさほど大きさの変わらない部屋に、ベッドやドレッサー、チェストが置かれていた。お揃いの家具のようだ。
「家具は足りなかったら入れましょう。気に入らなかったら買い替えても構いません」
「はい」
白いドレッサーやチェストは女性らしくて可愛らしくて、浅緋はひと目見て気に入った。カーテンも淡いベージュに落ち着いた花柄が素敵だ。
「片倉さん」
「はい」
「お部屋、ありがとうございます。とても素敵で買い替える必要なんてありません」
「良かったです。ベッドは……ここでよかったのかな?」
耳元で、急に低い声で囁かれて浅緋はびくん、としてしまう。
「え!? あ、あ……」
ベッド……そう言えば、考えていなかった。
部屋を用意してくれていて、そこにベッドがあるのだから、違和感などなくここに住むんだ、と思っていただけで。
けれど冷静に考えたら片倉は浅緋の婚約者であり、結婚する以上はそういう事だって当然ある、となぜ考えなかったのか。
「あの……私……」
動揺した浅緋はうつむくことしかできない。
顔がとても熱いし、どうしたらいいのか分からなかった。
「冗談ですよ。無理しなくていいんです」
「すみません」
浅緋はずっと女子校を進学してきて、卒業してからも父の会社に入社してしまったので、交際の経験がないのだ。
素敵だと思える人がいても、あの父とやっていけるのだろうかと思うと交際に踏み切ることはできず、そのまま来てしまった浅緋である。
片倉のことは怖くもないし、素敵だと思う。
けれど、その先をどうしたらいいのか浅緋には分からないのだ。
「浅緋さん」
そうやって呼ばれることはとても嬉しいのに。
「バスルームをご案内しますね」
片倉の穏やかで優しい笑みはいつもと変わらない。
まるで、さっきの一瞬のことなどなかったみたいだ。
「はい」
浅緋はバスルームを案内するという片倉の後ろについていった。
シンプルでいながら豪華なロビーには、コンシェルジュが常駐していて、ルームサービスも充実しているようなところだった。
浅緋はずっと日本家屋の実家暮らしであり、見上げても上の方が見えないようなこんなマンションに、憧れはあったけれど、実際自分が住むことになるとは思わなかった。
「本日からよろしくお願いいたします」
そう頭を下げた浅緋に、いつものように片倉は優しく笑った。
「ご自分の家と同じように寛いでくださいね。とは言っても最初は難しいかもしれませんが」
「ありがとうございます」
まだ数回しか会っていないのだし、多少はぎこちなくても仕方のないことだろう。
緊張していた浅緋に、片倉は家の中を案内してくれた。
「こちらがリビング、そっちがダイニングとキッチンです。週に二度、お手伝いさんが来てくださるので、部屋の掃除や家事などは任せています」
「あ……」
「あなたはお手伝いさんではないので、そのまま引き続きお願いする予定です。お仕事は辞めても構いませんよ?」
確かに大した仕事はしていなかったとは思うけれど、浅緋は会社で仕事をすることは嫌いではなかった。
むしろ、そのまま続けて構わないのであれば、続けたい。
「お仕事は、可能ならば続けたいです」
片倉は少し考える様子だ。
「お父様のお手伝いをされていたのでしたっけ?」
こくん、と浅緋は頷く。
「あの、けれど簡単なお仕事しかしていませんけれど」
「来週からはうちのものが園村ホールディングスに伺って仕事をする予定なのですが、その人についていただきましょうか」
「いいですか?」
「あなたがそうしたいのなら。それにそちらに伺うのは信頼できる者ですから」
「はい」
「こちらがあなたの部屋です」
そう言って、片倉がキッチンの隣の部屋のドアを開ける。
実家の部屋とさほど大きさの変わらない部屋に、ベッドやドレッサー、チェストが置かれていた。お揃いの家具のようだ。
「家具は足りなかったら入れましょう。気に入らなかったら買い替えても構いません」
「はい」
白いドレッサーやチェストは女性らしくて可愛らしくて、浅緋はひと目見て気に入った。カーテンも淡いベージュに落ち着いた花柄が素敵だ。
「片倉さん」
「はい」
「お部屋、ありがとうございます。とても素敵で買い替える必要なんてありません」
「良かったです。ベッドは……ここでよかったのかな?」
耳元で、急に低い声で囁かれて浅緋はびくん、としてしまう。
「え!? あ、あ……」
ベッド……そう言えば、考えていなかった。
部屋を用意してくれていて、そこにベッドがあるのだから、違和感などなくここに住むんだ、と思っていただけで。
けれど冷静に考えたら片倉は浅緋の婚約者であり、結婚する以上はそういう事だって当然ある、となぜ考えなかったのか。
「あの……私……」
動揺した浅緋はうつむくことしかできない。
顔がとても熱いし、どうしたらいいのか分からなかった。
「冗談ですよ。無理しなくていいんです」
「すみません」
浅緋はずっと女子校を進学してきて、卒業してからも父の会社に入社してしまったので、交際の経験がないのだ。
素敵だと思える人がいても、あの父とやっていけるのだろうかと思うと交際に踏み切ることはできず、そのまま来てしまった浅緋である。
片倉のことは怖くもないし、素敵だと思う。
けれど、その先をどうしたらいいのか浅緋には分からないのだ。
「浅緋さん」
そうやって呼ばれることはとても嬉しいのに。
「バスルームをご案内しますね」
片倉の穏やかで優しい笑みはいつもと変わらない。
まるで、さっきの一瞬のことなどなかったみたいだ。
「はい」
浅緋はバスルームを案内するという片倉の後ろについていった。
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