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1.雪降る夜に

雪降る夜に③

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 とても気遣いのできる人なんだな、と浅緋は感じた。
 澄子さんが予備の椅子を用意してくれたので、3人で椅子に腰掛ける。

「片倉さん……とおっしゃるのね」
 先程の名刺を母が確認している。
「はい。片倉慎也かたくらしんやと申します」

「こちらは主人があなたにお渡ししたもの、ということでしょうか?」
 母は澄子さんが預かった封筒を、手元に取り出す。

「はい。園村社長には……入院される少し前にお会いして、ビジネスのお話をさせていただいていました」
 一瞬俯いた彼は再度顔を上げて、真っ直ぐに浅緋と母を見た。
 そのキリリとした顔に、浅緋は場違いなことにドキン、としてしまったのだ。

「あの……ごめんなさい。お仕事のお話なら今は取締役も、秘書もいなくて、私では分からないのです」
「はい。そのため、そのお手紙を」

「お母様、開けてみましょう」
「そうね」

 少し震える手で母がそれを開けて、何枚かに綴られた便箋に目を通していく。
 そうして読んでいくうちにみるみるその瞳に涙がたまっていった。

「そうね……。お父様の仰るとおりだわ」
 一体何が書いてあったのだろう。

「片倉さんはこの内容についてご存知なのね」
 顔を上げた母は確認した。

「はい。園村社長は僕の目の前でそれをお書きになったので。入院されたと聞いて、お見舞いに伺った時でした。君、書くものはあるか、と言われてメモ代わりに持っていたレポート用紙をお渡ししました」

 その時のことを思い出すようにゆっくりと、彼は話した。
 優しいその雰囲気に合った低くて柔らかな声だ。

 その時のことが、浅緋は目に浮かぶようだった。いかにも父が取りそうな行動。
 浅緋は申し訳ないような気持ちになる。

「目の前で封をされたんです。そうして、万が一のことがあったら、奥様にお渡しするように、と僕が預かっていました。そんな日は来なければいい、と思っていましたが」

 しん、とした玄関にストーブのチリチリ……という音だけが、その小さな部屋に響いた。
 時間だけが静かに流れる。

 母が口火を開く。
「そうですか……。会社についてのことは分かりました。私は経営のことは全く分かりません。ですから、この文書に基づいてしかるべき手続きをお願いいたします。それは弁護士さんとも打ち合わせを」

「かしこまりました」
「それからもう一つ、浅緋の件も、よろしくお願いいたします」
「私……?」

 浅緋は父親の会社に勤めていた。
 だから、会社に何かあってもクビにはしないように、とかそういう話だと思ったのだ。

「ええ。浅緋ちゃん、あなたはこちらの方にお嫁に行きなさい」

 え!?この方に?
 目を見開いて、つい片倉を見てしまった浅緋を片倉は穏やかな瞳で見つめ返していた。
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