73 / 74
おまけのお話:その2
見たことのないあなたも③
しおりを挟む
「論破してみろ」
「事実には逆らわない」
挑戦的な発言にも事実であれば逆らわない、というのは陽平らしかった。
全員毒気が抜けたようになる。
その時だった。
陽平の携帯が振動しているのに気づく。
陽平は画面をタップした。
「翠咲? んー、……え? ああ、すごく酔ってしまったかも……」
その携帯をひょいっと取り上げたのが、以前法廷で一緒になった真田だ。
「おい!」
「翠咲さん初めまして! 同期の真田と言います。倉橋、すごく酔ってしまったんで、良かったらご自宅までお送りしますよ。いいえ ~! とんでもない。飲ませすぎたわけじゃないんですけど、どうやら翠咲さんの代理人が出来なくて、拗ねて悪酔いしたみたいです」
へらりとそんな風に真田がいうのを、悔しそうな顔で陽平が見ている。
「えー本当ですかあ? じゃあ、遠慮なく、お邪魔しますー。住所は……ああ! あのマンション! いいところにお住まいなんですねえ。はーい! では後ほど……」
そうしてさっさと電話を切った真田が満面の笑みで、陽平を振り返った。
「翠咲さん、いい人だな~! ぜひお寄りくださいって!」
「社交辞令も分かんないのか」
「いやー、ぜひお寄りくださいって……」
2回言うな!そんなに大事か!?
抵抗したい陽平だが、先ほどから今度は頭が痛くなってきていて判断力が鈍っていることを感じる。
──くっそ、面白がりやがって!!
時折足元までふらつくので、にやにやしている真田が手を貸すのも腹立たしい。
陽平は本当にこんな風になったことはなく、けれど、今後こいつらの前では酒量は制限する!と固く心に決めたのだった。
「そうと決まったら、さっさと行こうぜ!」
まさかこいつ、最初からそのつもりだったんじゃないだろうな!?
マンションに帰ってきた、よろよろの陽平を見た翠咲は驚いていた。
「陽平さん!? うわ! 本当に酔ってる。大丈夫? 皆さん、すみません。陽平さんリビング行ける?」
「いいですよー、運びますから!」
「行けるっ!」
けど、よろりとした陽平は翠咲に抱きついてしまう始末だ。
「あらら。リビング、行きましょうね?」
「ん……」
「皆さんも良かったらどうぞ?」
「いや~こんな時間に申し訳ないし」
リビングに入った陽平はダイニングテーブルを見て、玄関に向かって声をかけた。
「ここまで来たんだから、上がっていけばいいだろう? それに終電もないし、雑魚寝でよければ泊まっていけば」
「えー!? 本当に? 悪いな倉橋」
全く悪いなど気配を感じさせない真田に、陽平は心底イライラする。
「どうぞ。ごめん翠咲」
「いいえ? どうぞー。皆さんお疲れでしょうし」
ダイニングテーブルには、おにぎりがたくさん置いてあったのだ。
「わー、手作りのおにぎり?」
「スープもありますので、良かったら。陽平さんもいるよね?」
「うん……」
少しづつ、酔いは醒めていていたけれど、翠咲が甘やかしてくれるのが嬉しくて、つい、そんな返事になってしまう。
同期がドン引いてても知るか……と思った。
実際のところは引くどころか皆はテーブルの上のおにぎりとスープに釘付けになっていたわけなのだが。
鶏ガラの優しい味のスープは2人で飲酒した後や、夜食に翠咲がいつも出してくれるものだ。
ネギと卵と、少しだけ生姜の風味。
ほっとする味で、陽平のお気に入りでもある。
温かいそのスープを飲んだら、ますます酔いは醒めてきた気がした。
「陽平さん、お水も飲んでね」
「分かった」
翠咲からコップを受け取った陽平は素直にそれをこくこくと飲む。
おにぎりを平らげて、スープまで飲み干した真田達は席を立った。
「事実には逆らわない」
挑戦的な発言にも事実であれば逆らわない、というのは陽平らしかった。
全員毒気が抜けたようになる。
その時だった。
陽平の携帯が振動しているのに気づく。
陽平は画面をタップした。
「翠咲? んー、……え? ああ、すごく酔ってしまったかも……」
その携帯をひょいっと取り上げたのが、以前法廷で一緒になった真田だ。
「おい!」
「翠咲さん初めまして! 同期の真田と言います。倉橋、すごく酔ってしまったんで、良かったらご自宅までお送りしますよ。いいえ ~! とんでもない。飲ませすぎたわけじゃないんですけど、どうやら翠咲さんの代理人が出来なくて、拗ねて悪酔いしたみたいです」
へらりとそんな風に真田がいうのを、悔しそうな顔で陽平が見ている。
「えー本当ですかあ? じゃあ、遠慮なく、お邪魔しますー。住所は……ああ! あのマンション! いいところにお住まいなんですねえ。はーい! では後ほど……」
そうしてさっさと電話を切った真田が満面の笑みで、陽平を振り返った。
「翠咲さん、いい人だな~! ぜひお寄りくださいって!」
「社交辞令も分かんないのか」
「いやー、ぜひお寄りくださいって……」
2回言うな!そんなに大事か!?
抵抗したい陽平だが、先ほどから今度は頭が痛くなってきていて判断力が鈍っていることを感じる。
──くっそ、面白がりやがって!!
時折足元までふらつくので、にやにやしている真田が手を貸すのも腹立たしい。
陽平は本当にこんな風になったことはなく、けれど、今後こいつらの前では酒量は制限する!と固く心に決めたのだった。
「そうと決まったら、さっさと行こうぜ!」
まさかこいつ、最初からそのつもりだったんじゃないだろうな!?
マンションに帰ってきた、よろよろの陽平を見た翠咲は驚いていた。
「陽平さん!? うわ! 本当に酔ってる。大丈夫? 皆さん、すみません。陽平さんリビング行ける?」
「いいですよー、運びますから!」
「行けるっ!」
けど、よろりとした陽平は翠咲に抱きついてしまう始末だ。
「あらら。リビング、行きましょうね?」
「ん……」
「皆さんも良かったらどうぞ?」
「いや~こんな時間に申し訳ないし」
リビングに入った陽平はダイニングテーブルを見て、玄関に向かって声をかけた。
「ここまで来たんだから、上がっていけばいいだろう? それに終電もないし、雑魚寝でよければ泊まっていけば」
「えー!? 本当に? 悪いな倉橋」
全く悪いなど気配を感じさせない真田に、陽平は心底イライラする。
「どうぞ。ごめん翠咲」
「いいえ? どうぞー。皆さんお疲れでしょうし」
ダイニングテーブルには、おにぎりがたくさん置いてあったのだ。
「わー、手作りのおにぎり?」
「スープもありますので、良かったら。陽平さんもいるよね?」
「うん……」
少しづつ、酔いは醒めていていたけれど、翠咲が甘やかしてくれるのが嬉しくて、つい、そんな返事になってしまう。
同期がドン引いてても知るか……と思った。
実際のところは引くどころか皆はテーブルの上のおにぎりとスープに釘付けになっていたわけなのだが。
鶏ガラの優しい味のスープは2人で飲酒した後や、夜食に翠咲がいつも出してくれるものだ。
ネギと卵と、少しだけ生姜の風味。
ほっとする味で、陽平のお気に入りでもある。
温かいそのスープを飲んだら、ますます酔いは醒めてきた気がした。
「陽平さん、お水も飲んでね」
「分かった」
翠咲からコップを受け取った陽平は素直にそれをこくこくと飲む。
おにぎりを平らげて、スープまで飲み干した真田達は席を立った。
0
お気に入りに追加
232
あなたにおすすめの小説
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

タイプではありませんが
雪本 風香
恋愛
彼氏に振られたばかりの山下楓に告白してきた男性は同期の星野だった。
顔もいい、性格もいい星野。
だけど楓は断る。
「タイプじゃない」と。
「タイプじゃないかもしれんけどさ。少しだけ俺のことをみてよ。……な、頼むよ」
懇願する星野に、楓はしぶしぶ付き合うことにしたのだ。
星野の3カ月間の恋愛アピールに。
好きよ、好きよと言われる男性に少しずつ心を動かされる女の子の焦れったい恋愛の話です。
※体の関係は10章以降になります。
※ムーンライトノベルズ様、エブリスタ様にも投稿しています。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。
真守 輪
恋愛
年下の恋人を持つ図書館司書のわたし。
地味でメンヘラなわたしに対して、高校生の恋人は顔も頭もイイが、嫉妬深くて性格と愛情表現が歪みまくっている。
ドSな彼に振り回されるわたしの日常。でも、そんな関係も長くは続かない。わたしたちの関係が、彼の学校に知られた時、わたしは断罪されるから……。
イラスト提供 千里さま

ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません
如月 そら
恋愛
旧題:隠れドS上司はTL作家を所望する!
【書籍化】
2023/5/17 『隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません』としてエタニティブックス様より書籍化❤️
たくさんの応援のお陰です❣️✨感謝です(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎)
🍀WEB小説作家の小島陽菜乃はいわゆるTL作家だ。
けれど、最近はある理由から評価が低迷していた。それは未経験ゆえのリアリティのなさ。
さまざまな資料を駆使し執筆してきたものの、評価が辛いのは否定できない。
そんな時、陽菜乃は会社の倉庫で上司が同僚といたしているのを見てしまう。
「隠れて覗き見なんてしてたら、興奮しないか?」
真面目そうな上司だと思っていたのに︎!!
……でもちょっと待って。 こんなに慣れているのなら教えてもらえばいいんじゃないの!?
けれど上司の森野英は慣れているなんてもんじゃなくて……!?
※普段より、ややえちえち多めです。苦手な方は避けてくださいね。(えちえち多めなんですけど、可愛くてきゅんなえちを目指しました✨)
※くれぐれも!くれぐれもフィクションです‼️( •̀ω•́ )✧
※感想欄がネタバレありとなっておりますので注意⚠️です。感想は大歓迎です❣️ありがとうございます(*ᴗˬᴗ)💕
シンデレラは王子様と離婚することになりました。
及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・
なりませんでした!!
【現代版 シンデレラストーリー】
貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。
はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。
しかしながら、その実態は?
離婚前提の結婚生活。
果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる