フォンダンショコラな恋人

如月 そら

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おまけのお話:その2

見たことのないあなたも③

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「論破してみろ」
「事実には逆らわない」
挑戦的な発言にも事実であれば逆らわない、というのは陽平らしかった。

全員毒気が抜けたようになる。
その時だった。
陽平の携帯が振動しているのに気づく。

陽平は画面をタップした。
「翠咲? んー、……え? ああ、すごく酔ってしまったかも……」

その携帯をひょいっと取り上げたのが、以前法廷で一緒になった真田だ。
「おい!」

「翠咲さん初めまして! 同期の真田と言います。倉橋、すごく酔ってしまったんで、良かったらご自宅までお送りしますよ。いいえ ~! とんでもない。飲ませすぎたわけじゃないんですけど、どうやら翠咲さんの代理人が出来なくて、拗ねて悪酔いしたみたいです」

へらりとそんな風に真田がいうのを、悔しそうな顔で陽平が見ている。

「えー本当ですかあ? じゃあ、遠慮なく、お邪魔しますー。住所は……ああ! あのマンション! いいところにお住まいなんですねえ。はーい! では後ほど……」

そうしてさっさと電話を切った真田が満面の笑みで、陽平を振り返った。
「翠咲さん、いい人だな~! ぜひお寄りくださいって!」

「社交辞令も分かんないのか」
「いやー、ぜひお寄りくださいって……」
2回言うな!そんなに大事か!?

抵抗したい陽平だが、先ほどから今度は頭が痛くなってきていて判断力が鈍っていることを感じる。

──くっそ、面白がりやがって!!

時折足元までふらつくので、にやにやしている真田が手を貸すのも腹立たしい。

陽平は本当にこんな風になったことはなく、けれど、今後こいつらの前では酒量は制限する!と固く心に決めたのだった。

「そうと決まったら、さっさと行こうぜ!」
まさかこいつ、最初からそのつもりだったんじゃないだろうな!?

マンションに帰ってきた、よろよろの陽平を見た翠咲は驚いていた。

「陽平さん!? うわ! 本当に酔ってる。大丈夫? 皆さん、すみません。陽平さんリビング行ける?」

「いいですよー、運びますから!」
「行けるっ!」

けど、よろりとした陽平は翠咲に抱きついてしまう始末だ。
「あらら。リビング、行きましょうね?」
「ん……」

「皆さんも良かったらどうぞ?」
「いや~こんな時間に申し訳ないし」

リビングに入った陽平はダイニングテーブルを見て、玄関に向かって声をかけた。

「ここまで来たんだから、上がっていけばいいだろう? それに終電もないし、雑魚寝でよければ泊まっていけば」

「えー!? 本当に? 悪いな倉橋」
全く悪いなど気配を感じさせない真田に、陽平は心底イライラする。

「どうぞ。ごめん翠咲」
「いいえ? どうぞー。皆さんお疲れでしょうし」
ダイニングテーブルには、おにぎりがたくさん置いてあったのだ。

「わー、手作りのおにぎり?」
「スープもありますので、良かったら。陽平さんもいるよね?」

「うん……」
少しづつ、酔いは醒めていていたけれど、翠咲が甘やかしてくれるのが嬉しくて、つい、そんな返事になってしまう。

同期がドン引いてても知るか……と思った。
実際のところは引くどころか皆はテーブルの上のおにぎりとスープに釘付けになっていたわけなのだが。

鶏ガラの優しい味のスープは2人で飲酒した後や、夜食に翠咲がいつも出してくれるものだ。
ネギと卵と、少しだけ生姜の風味。

ほっとする味で、陽平のお気に入りでもある。
温かいそのスープを飲んだら、ますます酔いは醒めてきた気がした。

「陽平さん、お水も飲んでね」
「分かった」

翠咲からコップを受け取った陽平は素直にそれをこくこくと飲む。
おにぎりを平らげて、スープまで飲み干した真田達は席を立った。
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