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おまけのお話:その2
見たことのないあなたも②
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情報を漏らすようなことは皆話さないし、そこは十分理解しているけれど、個別案件の話ではなくても、話の内容で法曹関係者だと知られることは望ましくないからだ。
しかも今日会うのは同期で、それぞれの立場が全員違う。
だからこその会話の面白さや法に対する解釈も勉強になったりするから、陽平はこの会がある時は積極的に参加することにしていた。
しかも公判中は言えなかったけれど、裁判官の一人が陽平の同期でもあったので。
終わったら、食事に行こうとは言われていたのだ。
陽平が個室に案内されると、同期の二人がすでに席にいた。
「倉橋!元気そうだな」
「さっき、法廷で見ただろうが」
「まあ、そうなんだけど。一応挨拶としてな……」
白い大きな皿に綺麗に盛られた前菜は、野菜とソースの彩りが華やかで翠咲を連れてきたら喜びそうだなと陽平は思うと、口元に笑みが浮かぶ。
その笑みを見て、同期が引いていることには気づいていない。
「で、あの子が彼女なんだ?」
「はあ?」
裁判中に何を見ているのか。
「真面目に仕事して欲しいな」
「仕事は真面目にやったって。数少ないってか、今日みたいにほとんど誰もいない傍聴席に可愛い子がいて、倉橋を熱心に見ていたら、ああって思うだろう」
「熱心に見ていた?」
「ああ……」
倉橋も裁判に集中するようにはしていたけれど、裁判中も傍聴席を気にしていたから。裁判官はなんだ?と傍聴席を確認して分かったことだけれども。
「熱心……そうか」
いたく陽平が満足そうなのが、他の同期から見ても驚きだ。
陽平はその綺麗さから、かなりモテていたけれども、今までどんな美女にも靡かなかった。
いや、本人的には靡いていたこともあったのかもしれないが、あまりにも表情筋が死にすぎていて、理解を得ることができなかったのだろうと思われる。
その陽平の口元を引き上げるだけとはいえ、笑顔と満足げという無表情ではない表情の動きにみんな驚いてしまったのだ。
「そうかー、良かったなあ……」
まあ飲めよと言われて注がれたお酒を訳もわからず、陽平は飲む。
「で、どんな感じなんだ? 今?」
「一緒に暮らしてる。彼女のところも挨拶に行ったし」
「早っ!」
「時間を無駄にする意味が分からない」
同期の誰もそんな話は聞いていなくて、あまりの急展開に早いと反応すると、淡々と陽平にそう返されたのだ。
「まあ、そうかも知れないけれど……」
「結婚式は? するんだろう? 同期呼ぶなら早めに言っておかないとスケジュールが難しくなるぞ」
「ああ、結婚式……そうだな」
気づいていなかったが、実はこの頃、陽平はかなり酔っていた。
あまりにも顔に出ないため、同期にも気づかれていなかったのだ。
だから結婚式なんて言われて、ほんわ……と翠咲のドレス姿などを思い浮かべてしまったりしていた。
──いや……ドレスもいいけど、白無垢……絶対似合うだろう。どっちが……いや両方か?
「倉橋……大丈夫か?」
「相当本気なんだろ。まあ結婚するって言ってるくらいだし、あの倉橋が同棲だぞ?」
陽平が誰かに心を許すなど考えられない。
淡々と誰かを追い詰める姿なら何度も見てきているけれど。
「どういうところが良かったんだ?」
「翠咲はぁ……すごく一生懸命で頑張り屋なんだ。僕の肩書きなんて目もくれなかった。誤解されたくないって初めて思っ……吐く」
「わー!! バカ! ここで吐くんじゃねーよ!! 顔色を変えろ! お前は~~!!」
個室は一瞬にして阿鼻叫喚の世界になった。
なんとか、個室での放出を免れた陽平は、真っ青な顔でお手洗いから出てくる。
「なんか、すげー酔った」
「そんな風になるのも初めて見た」
「愛しの翠咲ちゃんの代理人が出来なくて拗ねてたからな。判決が出てほっとしたんだろ」
陽平は同期の顔をキッと睨む。
しかも今日会うのは同期で、それぞれの立場が全員違う。
だからこその会話の面白さや法に対する解釈も勉強になったりするから、陽平はこの会がある時は積極的に参加することにしていた。
しかも公判中は言えなかったけれど、裁判官の一人が陽平の同期でもあったので。
終わったら、食事に行こうとは言われていたのだ。
陽平が個室に案内されると、同期の二人がすでに席にいた。
「倉橋!元気そうだな」
「さっき、法廷で見ただろうが」
「まあ、そうなんだけど。一応挨拶としてな……」
白い大きな皿に綺麗に盛られた前菜は、野菜とソースの彩りが華やかで翠咲を連れてきたら喜びそうだなと陽平は思うと、口元に笑みが浮かぶ。
その笑みを見て、同期が引いていることには気づいていない。
「で、あの子が彼女なんだ?」
「はあ?」
裁判中に何を見ているのか。
「真面目に仕事して欲しいな」
「仕事は真面目にやったって。数少ないってか、今日みたいにほとんど誰もいない傍聴席に可愛い子がいて、倉橋を熱心に見ていたら、ああって思うだろう」
「熱心に見ていた?」
「ああ……」
倉橋も裁判に集中するようにはしていたけれど、裁判中も傍聴席を気にしていたから。裁判官はなんだ?と傍聴席を確認して分かったことだけれども。
「熱心……そうか」
いたく陽平が満足そうなのが、他の同期から見ても驚きだ。
陽平はその綺麗さから、かなりモテていたけれども、今までどんな美女にも靡かなかった。
いや、本人的には靡いていたこともあったのかもしれないが、あまりにも表情筋が死にすぎていて、理解を得ることができなかったのだろうと思われる。
その陽平の口元を引き上げるだけとはいえ、笑顔と満足げという無表情ではない表情の動きにみんな驚いてしまったのだ。
「そうかー、良かったなあ……」
まあ飲めよと言われて注がれたお酒を訳もわからず、陽平は飲む。
「で、どんな感じなんだ? 今?」
「一緒に暮らしてる。彼女のところも挨拶に行ったし」
「早っ!」
「時間を無駄にする意味が分からない」
同期の誰もそんな話は聞いていなくて、あまりの急展開に早いと反応すると、淡々と陽平にそう返されたのだ。
「まあ、そうかも知れないけれど……」
「結婚式は? するんだろう? 同期呼ぶなら早めに言っておかないとスケジュールが難しくなるぞ」
「ああ、結婚式……そうだな」
気づいていなかったが、実はこの頃、陽平はかなり酔っていた。
あまりにも顔に出ないため、同期にも気づかれていなかったのだ。
だから結婚式なんて言われて、ほんわ……と翠咲のドレス姿などを思い浮かべてしまったりしていた。
──いや……ドレスもいいけど、白無垢……絶対似合うだろう。どっちが……いや両方か?
「倉橋……大丈夫か?」
「相当本気なんだろ。まあ結婚するって言ってるくらいだし、あの倉橋が同棲だぞ?」
陽平が誰かに心を許すなど考えられない。
淡々と誰かを追い詰める姿なら何度も見てきているけれど。
「どういうところが良かったんだ?」
「翠咲はぁ……すごく一生懸命で頑張り屋なんだ。僕の肩書きなんて目もくれなかった。誤解されたくないって初めて思っ……吐く」
「わー!! バカ! ここで吐くんじゃねーよ!! 顔色を変えろ! お前は~~!!」
個室は一瞬にして阿鼻叫喚の世界になった。
なんとか、個室での放出を免れた陽平は、真っ青な顔でお手洗いから出てくる。
「なんか、すげー酔った」
「そんな風になるのも初めて見た」
「愛しの翠咲ちゃんの代理人が出来なくて拗ねてたからな。判決が出てほっとしたんだろ」
陽平は同期の顔をキッと睨む。
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