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15.フォンダンショコラな恋人
フォンダンショコラな恋人 ④
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そんな陽平の言葉を聞いて、えへへーと翠咲は笑った。
翠咲の家族も宝条家も、とても平和で、とても大事にされていたのだと言うことが陽平にも分かった。
アルバムを置いて、お茶を飲みながら話を始める。
「倉橋さんは独立しているの?」
「いえ、雇われですね。大きい事務所ではないですけど、やりがいはあるところです」
そこで、翠咲は先日の襲われた時の話をした。両親はとても驚いていたけれど、陽平が守ってくれた件やその後の対応の件を聞いてかなりホッとした様子だ。
「何事もなくてよかったわ。倉橋さん、ありがとうございます」
「いえ。僕もあの場にいることができてよかったと安心しているところです」
陽平はすう……と大きく息を吸った。
「宝条さん、僕は翠咲さんをとても大事に思っています。この肩書きにすり寄ってくる女性も多い中、彼女はそういうステイタスには目もくれなかった。仕事中に知り合ったのですが、とても真面目で、困っている人を助けることをいつも考えていて、信念を曲げない。そんなところに惹かれたんです」
そう言って、陽平は翠咲を愛おしげに見た。
仕事中の表情のない陽平ではなくて、プライベートな姿だ。
翠咲はそんな陽平の姿に、胸がきゅんとしたのを感じた。
そして、自分のことをよく分かっていてくれることもとても嬉しい。
「事件の後は僕が彼女を一人にしておくことが心配でマンションに来てもらっていたのですが、利便の良いところを見つけたのと、翠咲さんとは一緒にいて心地いいと言うことをとても感じました。僕は正直他人といることが難しい面倒な人物だと思うんですが、彼女はそれにも対応できる稀有な人です」
「面倒で言ったら私も多分面倒だわ」
陽平の言葉に翠咲も応える。
「いい子だけど真面目すぎだものねー」
母の言葉に父もうんうんと頷いていた。
「そんな訳だからね、そんな翠咲を受け入れてくれる方がいると言うのは親としてとても嬉しいんだよ」
「そう言っていただけて嬉しいです。僕は幸せにしますという言葉は陳腐で好きではないんですが、今後彼女と一緒ならとても楽しく過ごしていけそうだと思うんです」
嬉しそうな母がそれを聞いて、涙ぐんだのを翠咲は見てしまって、もらい泣きしそうになったのだ。
「そうね……本当にそう。一緒に楽しく過ごしていきなさいね」
「うん。楽しいことばかりではないけれど、翠咲はこう……先を見過ぎるところがあるから、それにも倉橋さんなら充分ご理解いただけそうだし」
父にも気の合う2人だと言ってもらえて、翠咲と陽平は顔を見合わせて笑顔になった。
「結婚を前提に一緒に暮らしたいと思います」
「まあ、翠咲もいい年だしねえ。何か言うようなことはないよ。しかも倉橋さんはとてもしっかりしておられるし」
「お父さん、陽平さんはね『お前みたいなやつに翠咲はやらん!』って言われたらどうしよう、なんて言ってたのよ」
「翠咲……それ、言わないでよ……」
誰が見ても整っている陽平の顔が赤くなって、その場にいた全員の胸を鷲掴みにしたのは、秘密の話である。
出会いは確かに最悪だった。
けれど、そんな苦くて固い人が、付き合っていくうちに、甘くて熱い人なのだと知った。
それはまるでフォンダンショコラのようで。
──私、フォンダンショコラは好きなんだよね。
翠咲の恋人は『フォンダンショコラな恋人』だったということなのだ。
✽+†+✽―END―✽+†+✽
翠咲の家族も宝条家も、とても平和で、とても大事にされていたのだと言うことが陽平にも分かった。
アルバムを置いて、お茶を飲みながら話を始める。
「倉橋さんは独立しているの?」
「いえ、雇われですね。大きい事務所ではないですけど、やりがいはあるところです」
そこで、翠咲は先日の襲われた時の話をした。両親はとても驚いていたけれど、陽平が守ってくれた件やその後の対応の件を聞いてかなりホッとした様子だ。
「何事もなくてよかったわ。倉橋さん、ありがとうございます」
「いえ。僕もあの場にいることができてよかったと安心しているところです」
陽平はすう……と大きく息を吸った。
「宝条さん、僕は翠咲さんをとても大事に思っています。この肩書きにすり寄ってくる女性も多い中、彼女はそういうステイタスには目もくれなかった。仕事中に知り合ったのですが、とても真面目で、困っている人を助けることをいつも考えていて、信念を曲げない。そんなところに惹かれたんです」
そう言って、陽平は翠咲を愛おしげに見た。
仕事中の表情のない陽平ではなくて、プライベートな姿だ。
翠咲はそんな陽平の姿に、胸がきゅんとしたのを感じた。
そして、自分のことをよく分かっていてくれることもとても嬉しい。
「事件の後は僕が彼女を一人にしておくことが心配でマンションに来てもらっていたのですが、利便の良いところを見つけたのと、翠咲さんとは一緒にいて心地いいと言うことをとても感じました。僕は正直他人といることが難しい面倒な人物だと思うんですが、彼女はそれにも対応できる稀有な人です」
「面倒で言ったら私も多分面倒だわ」
陽平の言葉に翠咲も応える。
「いい子だけど真面目すぎだものねー」
母の言葉に父もうんうんと頷いていた。
「そんな訳だからね、そんな翠咲を受け入れてくれる方がいると言うのは親としてとても嬉しいんだよ」
「そう言っていただけて嬉しいです。僕は幸せにしますという言葉は陳腐で好きではないんですが、今後彼女と一緒ならとても楽しく過ごしていけそうだと思うんです」
嬉しそうな母がそれを聞いて、涙ぐんだのを翠咲は見てしまって、もらい泣きしそうになったのだ。
「そうね……本当にそう。一緒に楽しく過ごしていきなさいね」
「うん。楽しいことばかりではないけれど、翠咲はこう……先を見過ぎるところがあるから、それにも倉橋さんなら充分ご理解いただけそうだし」
父にも気の合う2人だと言ってもらえて、翠咲と陽平は顔を見合わせて笑顔になった。
「結婚を前提に一緒に暮らしたいと思います」
「まあ、翠咲もいい年だしねえ。何か言うようなことはないよ。しかも倉橋さんはとてもしっかりしておられるし」
「お父さん、陽平さんはね『お前みたいなやつに翠咲はやらん!』って言われたらどうしよう、なんて言ってたのよ」
「翠咲……それ、言わないでよ……」
誰が見ても整っている陽平の顔が赤くなって、その場にいた全員の胸を鷲掴みにしたのは、秘密の話である。
出会いは確かに最悪だった。
けれど、そんな苦くて固い人が、付き合っていくうちに、甘くて熱い人なのだと知った。
それはまるでフォンダンショコラのようで。
──私、フォンダンショコラは好きなんだよね。
翠咲の恋人は『フォンダンショコラな恋人』だったということなのだ。
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