フォンダンショコラな恋人

如月 そら

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15.フォンダンショコラな恋人

フォンダンショコラな恋人③

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「もー、陽平さんてば業務みたいなんだもの。笑ってしまったよ」
「すごく緊張した」
「陽平さんでも緊張することなんてあるんだね」

そんな話をしていたら、あのー、と営業担当者が入ってくる。
「お部屋はいかがでしょうか?」

「うん、気に入った。彼女も気に言ってくれたようだし。買うよ」

ポンと決めてしまうところも陽平らしくて、翠咲は笑ってしまう。

即決に営業担当者は一瞬ポカンとして、それから嬉しそうになって、
「ありがとうございます!」
とペコリと頭を下げたのだった。

そうしてやってきたのが次の週末だ。

「翠咲、ネクタイ曲がってないか?おかしくない? 紺のスーツって地味だろうか?いや、でも黒ではちょっと……」
「陽平さん、大丈夫だから。ちゃんと素敵だよ」

このやりとりは朝から数回は繰り返されている。

その都度、翠咲は大丈夫だと繰り返すのだけれど、また陽平は大丈夫だろうか、と翠咲に聞くのだ。

こんな陽平の姿は見たことがなくて、翠咲もくすくす笑ってしまった。

「彼女の家に行くのも、こんな挨拶も初めてなんだからな。緊張するよ。お前みたいなやつに翠咲はやらんと言われたら、どうしようかと思うと夜しか寝れない」

「夜充分寝てるじゃない。夜寝てれば充分だから。面白いこと言ってないで、行くわよ」
「ん……」

陽平の運転する車で、翠咲の実家に向かった。マンションからはほんの30分くらいの距離である。

郊外に程近い場所の一軒家で、なかなかに立派な家だ。
ごく普通の家庭のやや上の方、という感じだった。

門を開けて中に入るとポーチには花壇が作られており、可愛い花がたくさん植えられている。
いかにも幸せな家庭、という感じだ。

翠咲は玄関の呼び鈴を押した。
「ただいまー」
中からは父親と母親が一緒に出てくる。

「おかえり。えーと……」
「倉橋陽平と申します」

陽平は頭を下げてきっちり挨拶をして、父には名刺を渡していた。

「え?弁護士さん?」
「はい」

「あら、弁護士さんなの?すごいわね」
二人ともびっくりしている。

どうぞどうぞと言われて中に入り、陽平はお土産のお菓子を渡していた。
翠咲は先程からなんだかくすぐったいような感じだ。

みんなでリビングに向かうことにする。
リビングには家族で海外旅行に行った時の写真や、翠咲が学生の時の部活の写真なども飾られているのだ。
陽平はそれを物珍しげに見ていた。

「翠咲……チアとかしていたんだ」
「うん。高校の時だけね」
「可愛い……」

ぽそっと陽平が言うのに、母が嬉しそうに
「倉橋さん、他にも翠咲の写真ならあるわよ。見る?」
そう聞かれて、「見たいです!」と即答する陽平だ。

「うわー、恥ずかしいじゃん」
「この前ほら、二人で来ると言っていたから、お父さんと整理していたのよ、ね?」
父もうん、と頷いた。

幼稚園に入る前くらいの庭でビニールプールで遊んでいるものや、小学校の運動会での笑顔や中学校の入学式の制服姿などがあり、写真によっては一言添えてあったりもした。

「これはどこ?」
「家族で北海道に行った時のかなあ……」
「いや、翠咲それは長野だろう」
「あ、本当だ馬に乗っているのもあるから、そうだね」

「全然怖がったりしていないのが君らしい」
「怖くないよ。おとなしいもん」

とても微笑ましい気持ちでアルバムを見ていたら、母が紅茶を入れて持ってきてくれた。先程、陽平が持参したお菓子も一緒だ。

「お持たせで悪いんですけど」
「食べてみたかったから、ちょうどよかったわ」
翠咲がそれを見て喜ぶ。

「だから、さっきあんなに真剣に選んでいたのか」
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