フォンダンショコラな恋人

如月 そら

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14.「おれおれって……詐欺ですか?」

「おれおれって……詐欺ですか?」③

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沢口、それは以前に翠咲を訴えた男の名前だった。

翠咲は電話でしか対応していないので、その姿を知らないけれど、陽平は裁判でその姿を見ている。

あいかわらずチャラチャラとした姿だったけれど、その目だけがやけにぎらついていた。
「お前……あの時の弁護士か?!」

「何をしようという?まさか彼女に危害を加えようとしているんじゃないだろうな?」
「こいつのせいで!何かもダメになりそうなんだよ!お前、死ねよ!」

そう言って沢口は陽平と翠咲がいる方に走ってきた。ナイフか包丁でも持っているのかと思いきや、なんと拳で、その手を掴んだ倉橋はその手を握って、そのまま背負い投げをする。

翠咲は目の前で人が舞ったのを見た。
──え?!

投げられた方もそんなことになるとは思っていなかったようで、道路に尻餅をついたまま呆然としている。
そのまま背中を蹴った陽平は男の両手を後ろで掴んだ。

なんか、ぐえっとか声が聞こえたような気がしたけれど、翠咲は気にしないことにする。

そんなに力があるように見えないのに、先ほどから陽平がやけに強い。

しばらくして、パトカーの音が聞こえ、制服の警察官が何人かやってきた。
そして、その男の有様を見て、一瞬首を傾げたのだ。

「あの……女性が付けられていると……通報されたのは……」
「あ、私です。というか電話していた私の同僚ですけど」

警察官が陽平から男を受け取る。翠咲は片手を挙げて自己申告した。

「この方は、通りすがり……?」
そう言った警察官は、陽平の方を見る。陽平はそれにいつものように淡々と応じた。

「いえ。彼女の交際相手です。帰ってきたら不穏な感じだったので」

──このカップル、襲われたっぽいのに、なんでどっちもこんなに冷静な訳?!

「通報?」
陽平が翠咲に向かって首を傾げる。

「あ、隼人と電話していて」
その携帯は今のゴタゴタで地面に落ちていた。翠咲はその携帯をひょいっと拾い上げて、画面を確認する。

「あ、画面とか割れてない」
「良かったな」

「壊れていたら、あいつに請求するところよ」
そう言って、翠咲はちらりと沢口の方を見た。

「そうしてくれ。それより、同僚との電話とか通報って?」
「あ、ちょうど隼人と電話していて……」

──そう言えば忘れてたわ。
携帯からは『大丈夫か?!』という北条の声が聞こえていた。

翠咲の電話を取り上げた陽平が話しかける。
「大丈夫だ。礼を言う。あとは僕が対応するんで」

『え?!倉橋さん?!え、ちょっと……』
陽平は割と乱暴にブチッと携帯を切った。
そうして、携帯を翠咲に渡す。

「ちょ……」
「何かあいつと話したい?」
「いや……いいけど……」

現場にいた警察官は戸惑っていた。
いや……あの事情聴取とかしてもいいかな?

男はその後連行されて、警察には翠咲と陽平にも事情を聞きたいと言われた。
翠咲が陽平を見ると陽平がこくん、と頷くので、翠咲は了承する。

後で到着した刑事課の捜査車両で、翠咲と陽平は警察署に行くことになったのだ。

陽平が全く動揺していない様子なのが、警察官にも気になったらしい。

「あの……ご職業は……?」
「弁護士です」
「ああ……なるほど……」

業務終わりで外していた弁護士バッジを陽平は胸ポケットから取り出して、車の中で付けていた。

その横顔はいつも通りで、冷静さを欠くことはない。翠咲は安心して、ふう……と息をついた。
そして先程から気になっていた事をこっそり陽平に聞く。

「ねえ、何か武道やっていたの?」
「いや?何も。ただあいつ猪突猛進だったから、力則に合わせただけ。体でぶつかるより向こうの力を利用して背中で投げた方が間違いないと思ったから」

「すご……。よくあんな一瞬でそんな判断したわね」
「ん……でも、翠咲を守りたかったし」

そう言った陽平が翠咲に手を伸ばしたので、翠咲はその手を握った。
やけに冷たい。

相変わらず表情に変化はないけれど、緊張が解けて血の気が引いてきているのかも知れなかった。

きゅっと翠咲は安心させるようにその手を強く握る。

それに気づいた陽平は翠咲に向かって微笑んだ。ゆっくり繋いだ手に力を入れる。
その力強さが翠咲にも嬉しかった。
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