61 / 74
14.「おれおれって……詐欺ですか?」
「おれおれって……詐欺ですか?」②
しおりを挟む
書類を片付け、手元を片付けて外に出ると、電話が鳴った。
着信を見ると北条である。
そう言えば仕事終わりで電話をする、と言っていたな、と翠咲は通話ボタンを押した。
『お疲れ』
「お疲れ様。今終わったの?」
『うん、そっちは?』
「私も今終わった」
『で、昼間の話なんだけど、付き合ってんの?』
なぜそんなことを何度も確認したがるのだろう。
「なんで?隼人に関係ある?」
『あるよ。だから言ったじゃん、お前を最近いいなって思うことが多いんだよ』
そんな気配は見えなかったような気がするのだが。
「そんなこと、なかったでしょう?」
翠咲は疲れていたので、会社前からタクシーに乗って帰ることにする。
通話をしたままで、タクシーに手を挙げた。
運転手に行き先を告げて、通話に戻る。
「ごめん、今帰り道だから」
『心配だから、家に帰るまで通話する』
北条のこういうところはとてもいいところだと思う。
同期の研修の時も彼の機転に助けられたことが何回かあった。
「ありがとう」
受話器からは軽いため息の音が漏れてきた。
『お前、本当にそうやって、誰にでも優しいの、どうかと思うよ?』
自分ではそうは思わない。
割り切ったり、距離を作ったりすることもあるからだ。
「買い被りすぎだよ」
10分程度の移動でタクシーを降り、コンビニに入った翠咲は、食べ物をカゴの中に入れていく。
『こっちがしんどいな……って思うときに欲しい言葉をくれるのは優しさだと思う』
そんな風にしたつもりはない。
思い当たることがあるとするならば、お客様に対応するときはそうだ。
辛い思いをしているだろう先方にかける言葉なんて、優しくあるべきだと思うから。
翠咲は軽くため息をついた。
「あのね、最初の質問に答えるね。今、お付き合いしてる。あの無表情な弁護士と」
『ハッキリ言うんだな』
「本当なら言わなくていいことだと思うけど、隼人が聞くから」
『あーもうマジかよ、本当に翠咲と付き合いたいって思ったのに』
話をしながらも、翠咲は商品をどんどんカゴに入れていく。
「何言ってんのよ。今までそんなこと言わなかったくせして。いい?今は災害対策本部にいて心が弱ってるの。そういう時は本当に気をつけなさいね」
『何に……?』
「付け込まれるわよ。そうして結婚してきた先輩をいーっぱい知ってるから」
損保会社も金融機関と呼ばれる企業である。
特に北条はその本社での法人担当なのだし、普通に考えれば、それなりのエリートなのだ。
電話の向こうが一瞬しん、としたあと、低い北条の声が受話器から漏れてきた。
『翠咲のそういうところが頼り甲斐があるというか、怖いというか。お前のリスク管理は本当に恐れ入る。だから、あんな弁護士と気が合うんだな』
「そうね」
話しながら会計を済ませ、外に出る。
マンションに向かって歩きながら、ふと、翠咲は背後からの足音に気づいた。
「隼人……なんか、怖いかも……」
『ん?どうした?』
「誰か後ろにいるかも知れない……」
『通報する。今どこだ?』
翠咲の言葉に北条の声が緊迫感を帯びる。
「新陽町のコンビニを出たところ」
『通話、絶対切るなよ』
翠咲は後ろの人の気配を感じて、歩くスピードを早めたり遅くしたりしてみた。
後ろの人物はそれにも合わせてついてくる。
間違いなくつけられていると感じた。
時間も遅いせいか、歩いている人も少ない。怖くて、翠咲は心臓が大きく音を立て、どくどくという音が耳元でするのを感じた。
「どうしよう……すごく怖い」
『今通報してる。大丈夫だから翠咲』
電話の向こうで繋がったらしき警察と北条の話し声がする。
もうすぐマンションだ。
気づいたら、早足になっていることに翠咲は気づいた。
それでも後ろから足音はついてくる。
怖い……!!
ちょうどその時にマンションの前にタクシーが止まった。中から出てきたのは陽平だった。
「翠咲……?」
「陽平さんっ!」
翠咲は陽平に駆け寄った。
尋常ではない翠咲の様子を察して、陽平は翠咲の背後に目をやる。
「彼女に何か用か?」
背後に翠咲を庇って後ろの人物に陽平は声をかける。
「……っ!この女が!金を払わないから……!!」
「お前……、沢口か」
着信を見ると北条である。
そう言えば仕事終わりで電話をする、と言っていたな、と翠咲は通話ボタンを押した。
『お疲れ』
「お疲れ様。今終わったの?」
『うん、そっちは?』
「私も今終わった」
『で、昼間の話なんだけど、付き合ってんの?』
なぜそんなことを何度も確認したがるのだろう。
「なんで?隼人に関係ある?」
『あるよ。だから言ったじゃん、お前を最近いいなって思うことが多いんだよ』
そんな気配は見えなかったような気がするのだが。
「そんなこと、なかったでしょう?」
翠咲は疲れていたので、会社前からタクシーに乗って帰ることにする。
通話をしたままで、タクシーに手を挙げた。
運転手に行き先を告げて、通話に戻る。
「ごめん、今帰り道だから」
『心配だから、家に帰るまで通話する』
北条のこういうところはとてもいいところだと思う。
同期の研修の時も彼の機転に助けられたことが何回かあった。
「ありがとう」
受話器からは軽いため息の音が漏れてきた。
『お前、本当にそうやって、誰にでも優しいの、どうかと思うよ?』
自分ではそうは思わない。
割り切ったり、距離を作ったりすることもあるからだ。
「買い被りすぎだよ」
10分程度の移動でタクシーを降り、コンビニに入った翠咲は、食べ物をカゴの中に入れていく。
『こっちがしんどいな……って思うときに欲しい言葉をくれるのは優しさだと思う』
そんな風にしたつもりはない。
思い当たることがあるとするならば、お客様に対応するときはそうだ。
辛い思いをしているだろう先方にかける言葉なんて、優しくあるべきだと思うから。
翠咲は軽くため息をついた。
「あのね、最初の質問に答えるね。今、お付き合いしてる。あの無表情な弁護士と」
『ハッキリ言うんだな』
「本当なら言わなくていいことだと思うけど、隼人が聞くから」
『あーもうマジかよ、本当に翠咲と付き合いたいって思ったのに』
話をしながらも、翠咲は商品をどんどんカゴに入れていく。
「何言ってんのよ。今までそんなこと言わなかったくせして。いい?今は災害対策本部にいて心が弱ってるの。そういう時は本当に気をつけなさいね」
『何に……?』
「付け込まれるわよ。そうして結婚してきた先輩をいーっぱい知ってるから」
損保会社も金融機関と呼ばれる企業である。
特に北条はその本社での法人担当なのだし、普通に考えれば、それなりのエリートなのだ。
電話の向こうが一瞬しん、としたあと、低い北条の声が受話器から漏れてきた。
『翠咲のそういうところが頼り甲斐があるというか、怖いというか。お前のリスク管理は本当に恐れ入る。だから、あんな弁護士と気が合うんだな』
「そうね」
話しながら会計を済ませ、外に出る。
マンションに向かって歩きながら、ふと、翠咲は背後からの足音に気づいた。
「隼人……なんか、怖いかも……」
『ん?どうした?』
「誰か後ろにいるかも知れない……」
『通報する。今どこだ?』
翠咲の言葉に北条の声が緊迫感を帯びる。
「新陽町のコンビニを出たところ」
『通話、絶対切るなよ』
翠咲は後ろの人の気配を感じて、歩くスピードを早めたり遅くしたりしてみた。
後ろの人物はそれにも合わせてついてくる。
間違いなくつけられていると感じた。
時間も遅いせいか、歩いている人も少ない。怖くて、翠咲は心臓が大きく音を立て、どくどくという音が耳元でするのを感じた。
「どうしよう……すごく怖い」
『今通報してる。大丈夫だから翠咲』
電話の向こうで繋がったらしき警察と北条の話し声がする。
もうすぐマンションだ。
気づいたら、早足になっていることに翠咲は気づいた。
それでも後ろから足音はついてくる。
怖い……!!
ちょうどその時にマンションの前にタクシーが止まった。中から出てきたのは陽平だった。
「翠咲……?」
「陽平さんっ!」
翠咲は陽平に駆け寄った。
尋常ではない翠咲の様子を察して、陽平は翠咲の背後に目をやる。
「彼女に何か用か?」
背後に翠咲を庇って後ろの人物に陽平は声をかける。
「……っ!この女が!金を払わないから……!!」
「お前……、沢口か」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
224
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる