フォンダンショコラな恋人

如月 そら

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14.「おれおれって……詐欺ですか?」

「おれおれって……詐欺ですか?」②

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書類を片付け、手元を片付けて外に出ると、電話が鳴った。
着信を見ると北条である。

そう言えば仕事終わりで電話をする、と言っていたな、と翠咲は通話ボタンを押した。

『お疲れ』
「お疲れ様。今終わったの?」

『うん、そっちは?』
「私も今終わった」

『で、昼間の話なんだけど、付き合ってんの?』
なぜそんなことを何度も確認したがるのだろう。

「なんで?隼人に関係ある?」
『あるよ。だから言ったじゃん、お前を最近いいなって思うことが多いんだよ』

そんな気配は見えなかったような気がするのだが。
「そんなこと、なかったでしょう?」

翠咲は疲れていたので、会社前からタクシーに乗って帰ることにする。
通話をしたままで、タクシーに手を挙げた。
運転手に行き先を告げて、通話に戻る。

「ごめん、今帰り道だから」
『心配だから、家に帰るまで通話する』

北条のこういうところはとてもいいところだと思う。
同期の研修の時も彼の機転に助けられたことが何回かあった。

「ありがとう」
受話器からは軽いため息の音が漏れてきた。
『お前、本当にそうやって、誰にでも優しいの、どうかと思うよ?』

自分ではそうは思わない。
割り切ったり、距離を作ったりすることもあるからだ。

「買い被りすぎだよ」
10分程度の移動でタクシーを降り、コンビニに入った翠咲は、食べ物をカゴの中に入れていく。

『こっちがしんどいな……って思うときに欲しい言葉をくれるのは優しさだと思う』

そんな風にしたつもりはない。

思い当たることがあるとするならば、お客様に対応するときはそうだ。
辛い思いをしているだろう先方にかける言葉なんて、優しくあるべきだと思うから。

翠咲は軽くため息をついた。
「あのね、最初の質問に答えるね。今、お付き合いしてる。あの無表情な弁護士と」

『ハッキリ言うんだな』
「本当なら言わなくていいことだと思うけど、隼人が聞くから」

『あーもうマジかよ、本当に翠咲と付き合いたいって思ったのに』
話をしながらも、翠咲は商品をどんどんカゴに入れていく。

「何言ってんのよ。今までそんなこと言わなかったくせして。いい?今は災害対策本部にいて心が弱ってるの。そういう時は本当に気をつけなさいね」

『何に……?』
「付け込まれるわよ。そうして結婚してきた先輩をいーっぱい知ってるから」

損保会社も金融機関と呼ばれる企業である。
特に北条はその本社での法人担当なのだし、普通に考えれば、それなりのエリートなのだ。

電話の向こうが一瞬しん、としたあと、低い北条の声が受話器から漏れてきた。

『翠咲のそういうところが頼り甲斐があるというか、怖いというか。お前のリスク管理は本当に恐れ入る。だから、あんな弁護士と気が合うんだな』
「そうね」

話しながら会計を済ませ、外に出る。

マンションに向かって歩きながら、ふと、翠咲は背後からの足音に気づいた。

「隼人……なんか、怖いかも……」
『ん?どうした?』

「誰か後ろにいるかも知れない……」
『通報する。今どこだ?』
翠咲の言葉に北条の声が緊迫感を帯びる。

「新陽町のコンビニを出たところ」
『通話、絶対切るなよ』

翠咲は後ろの人の気配を感じて、歩くスピードを早めたり遅くしたりしてみた。

後ろの人物はそれにも合わせてついてくる。
間違いなくつけられていると感じた。

時間も遅いせいか、歩いている人も少ない。怖くて、翠咲は心臓が大きく音を立て、どくどくという音が耳元でするのを感じた。

「どうしよう……すごく怖い」
『今通報してる。大丈夫だから翠咲』
電話の向こうで繋がったらしき警察と北条の話し声がする。

もうすぐマンションだ。
気づいたら、早足になっていることに翠咲は気づいた。
それでも後ろから足音はついてくる。

怖い……!!
ちょうどその時にマンションの前にタクシーが止まった。中から出てきたのは陽平だった。
「翠咲……?」

「陽平さんっ!」
翠咲は陽平に駆け寄った。

尋常ではない翠咲の様子を察して、陽平は翠咲の背後に目をやる。

「彼女に何か用か?」
背後に翠咲を庇って後ろの人物に陽平は声をかける。

「……っ!この女が!金を払わないから……!!」
「お前……、沢口か」
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