フォンダンショコラな恋人

如月 そら

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14.「おれおれって……詐欺ですか?」

「おれおれって……詐欺ですか?」①

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事前からの警戒通り、日本列島を横断した台風は各地にかなりの被害を及ぼし、翠咲達はその対応に追われた。

電話も通常なら各課に直接つながるだけなのだが、今は台風被害の対応をしている火災新種課の電話も翠咲のところには回ってきている。

電話が鳴って、パソコンに引っ掛けてあるヘッドセットを装着しながら、翠咲は画面上で受信ボタンを押した。

「はい。火災新種課、宝条です」
『あ、翠咲か、ごめん外線から。俺、俺』
それは同期の北条の声だった。

「オレ、オレって……外線から詐欺みたいな電話してこないでくれる?」

受信番号は携帯だ。
ふふっとイヤホンからは笑い声が聞こえる。受電直後は硬い声だったが、力が抜けたようにも感じた。

『悪いな、忙しいのに。確認したいことがあって。今災害対応で現地に来ていて……』

本来なら営業担当者である北条なのだが、今は現地で被害に遭われている人たちのために、保険請求に必要な書類などの手配を現地でしているんだと言っていた。

一通《ひととお》りの話を聞くと、翠咲でも回答できる内容なので、説明してゆく。

『オッケ。サンキュ、さすが、頼りになるな』
「いいえ。いつでも連絡して。こんな時くらいしか、役に立てないし」

『いや。頼りになる同僚だよ』
「大丈夫?」

いつもは不必要なまでに元気な北条の声に、元気がないのが翠咲は気になった。

少し間が空いて、電話口から北条の落ち込んだような声が聞こえる。
『……ん。現地の代理店さん、自分も被災してるのにお客様のところを回るんだよ。俺が代わりに行きますって言ったんだけど、自分を信頼して掛けてもらってたから、って。頭が下がる……』

──ああ、それは……。
尊敬すべきプロフェッショナルはどこにでもいる。
それに触れた時、感動したり、頭が下がるような思いをすることは、翠咲にも分かるから。

「現地応援、初めてだった?」
翠咲は努めて柔らかい声を出す。

『うん。なんか、いつも翠咲が支払いのために頑張ってくれてるの、こういうところに来て初めて実感した。お前、すごいな』

「ううん。かわいそうって思っても、掛けてくれていないと役に立てない。それをしてくれてるのは隼人じゃない。俺の仕事が役に立ってる。こういう時役に立てるんだって、もっと誇りに思っていいよ」

困った時に、困った人に。
実際にそれができるのは、北条たち営業が頑張ってくれているからだと翠咲は分かっている。

『そう言ってもらえるとなんだか、頑張れるな。翠咲って……なんかどんどんいい感じになっていくよな』
「いい感じ?何言ってんだか、もう」

『いや!マジでさ。俺……ちょっと前から聞きたいことあったんだけど』
「ん?」

『翠咲ってあの弁護士と付き合ってんの?無表情の』
ごほッ!!!

──こいつは仕事中になんてことを?!

「いやっ、えー?うん。まあ、一応」
『ふーん?あいつ、花火大会んときも、すげーモテてたじゃん?』

それに関しては本人からも自己申告があった。
あの綺麗な顔に、弁護士というスペックがついてくるのだ。ある意味当然なのだろう。

「そうねー。モテるみたいよ?」
『余裕だな。それってあいつのことどうでもいいから?それとも私が彼女って自信があるから?』

北条の背後が先ほどまで人の気配でざわついていたのに、電話の後ろがしんとしている。
人のいないところに場所を移したんだな、ということが分かった。

「なるようにしかならないからよ。隼人、ログが残る」

電話はすべて『対応品質向上のために録音されている』からだ。
係長という役席である翠咲のログを勝手に聞かれることはないけれど、今、ここでプライベートな話をしたくはない。

『しごおわで連絡する』
「はい。お疲れ」

翠咲はそう言って電話を切って、外したヘッドセットをパソコンに引っ掛ける。

あいつ……急に何言い出すのよ。

一瞬翠咲は動揺したけれど、気持ちを入れ替えるように仕事に向かう。

通常業務に災害対応、決裁やイレギュラーの上申書の作成などをしていたら、気づくと21時を超えていた。

22時にはビルが閉まるので、出なくてはいけない。
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