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13.インフルエンサー

インフルエンサー①

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「コーヒー……はこの時間ダメよね。ロイヤルミルクティーにしましょうか?」
陽平がこの前パンケーキを作った時の残りのミルクがあったはずだ。

陽平が冷蔵庫を開けて、牛乳パックを出すのでキッチンで翠咲がそれを受け取る。 
陽平の妹だという愛梨沙はその様子をダイニングテーブルに肘を付いて見ていた。

「なにそれ。そんな素敵なものが出てくるだけでも価値があるわ」
価値がある、とは翠咲のことだろうか。

「愛梨沙」
「なによ」

厳しく妹を注意する陽平がお兄ちゃんになっていて、翠咲から見ると、とても微笑ましくて笑ってしまう。

すると、それを目敏く見つけた陽平に憮然とされてしまった。
「なんだ、翠咲まで」
「だって、陽平さんがお兄ちゃんなんだもの」

「躾がなっていなくて、本当に申し訳ない」
「仕方ないわよ。まだ若いんでしょうし」

そう言って、ミルクパンで作ったミルクティをカップに移して、翠咲は愛梨沙に差し出した。

それを受取りながら、愛梨沙は翠咲に言う。
「私21歳よ」

翠咲はそれを聞いて思わず目を見開いた。
あまりに可愛らしいけれど、成人していたとは驚きだ。高校生くらいかと思っていた翠咲である。

「若く見える……大学生なの?」
「ううん。モデルとインフルエンサーをやってる」

モデルはまあ分かるけれど、インフルエンサーとはどういうことなのだろうか……?

「SNSで情報を発信しているの」
「それってお仕事なの?」

「お金をもらっているからお仕事だと思うわ」
「お前は言葉が足りない」
それを聞いて、翠咲は吹き出してしまった。

「こ……言葉が足りないって……」
散々言葉が足りなくて、翠咲に誤解させていた人の言葉とはとても思えない。

「翠咲、後でお仕置きな?」
翠咲に向かって綺麗に笑った陽平の目が笑っていなくて、翠咲は固まってしまったのだった。

「え?」
「僕は風呂に入ってくるが……」
と陽平が愛梨沙を見た。

ダイニングテーブルで翠咲の隣に座った愛梨沙は表情をあまり現さず、けれど翠咲にぴったりくっついて首を傾げている。
「翠咲さん、モデルの写真見る?」

その様子を見て陽平は苦笑した。
「翠咲、悪いが相手してやってくれるか?」
「ええ」

翠咲は愛梨沙の表情が薄いところは陽平に似ているなあと先ほどから思っていて、とても可愛く感じる。

「モデルの写真、見せてくれる?」
翠咲がそう言うと、愛梨沙は翠咲にタブレットを差し出した。

写真は愛梨沙のイメージにいかにもピッタリのガーリーなものや、ゴスっぽいものの他に、出勤などでも着られそうな普段着の写真などもあったが、どれも魅力的でとても可愛い。

「可愛いわね。愛梨沙ちゃん、お人形さんみたいに可愛いけれど、モデルって身長が高くないといけないのかと思ったわ」

「それはファッションモデルでしょう。ランウェイを歩くのには身長がないとね。私みたいのはSサイズモデルというの。等身のバランスがとれていれば、写真で見ると身長はあまり関係はないわね」

言われた通り、写真で見ると身長はあまり低いようには見えない。
実際の愛梨沙は翠咲よりも小柄なのだ。

「ふーん、すごいねぇ。愛梨沙ちゃん、プロなんだね……」

しかし、こうして見る愛梨沙の表情は薄いのに、例えば普段着のモデルの写真などはいかにも会社にいそうな可愛いOL、という感じだ。

表情すらも自在に変えられるところは本当にすごいと翠咲は感心してしまった。

──まあ、確かに陽平さんの妹さんなら綺麗でも納得なんだけど、まさかモデルさんとはねぇ……。

21歳と言えば普通なら大学にでも行っていそうなものだが、愛梨沙はインフルエンサーなのだという。

翠咲は分からないことを分からないまま済ませておく性格ではなかった。
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