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12.嵐がやってくる

嵐がやってくる④

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「そうなのよ!」
「聞いてないって仰っていたけど、あなたが今日ここに来るお話はしてあるのかしら?」

ぐっ……と彼女は黙り込んだ。
──なるほどねー、してないわけね。

「でもっ……私は妹だもの。ちゃんと合鍵も持ってるわ」

「妹さん、初めまして。私は宝条翠咲っていいます。倉橋先生に今日はこちらに来るように言われてここにいるのよ。良かったら、電話して確認してみて?」
そう言って翠咲はにっこり笑った。

「どういう関係なの?」
「それは倉橋先生にご自身でお伺いしたほうがいいんじゃないかな。私から言うことじゃないと思いますよ」

「っ……あなたっ……! すっごく可愛くないわっ!」

彼女が思わずそう叫んだのと、ドアが開いたのがほぼ同時だった。
翠咲は陽平が怒りでむっとしているのを初めて見たのだ。

愛梨沙ありさ、今すぐ謝って鍵を出して」
「お兄ちゃんっ!だって……」
「僕が今お付き合いしている人だよ。こんなに可愛いのに……」

え?いや、そこ?

「お前の叫び声が廊下にまで聞こえていた。名誉毀損だぞ」

「名誉って……ほんとのことだわっ! 私、嘘なんてついてないもんっ!」
「いいか? 例え明らかに明確なことであっても名誉毀損は成立するんだ。お前でも翠咲を侮辱することは許さない」

明らかに明確とか……失礼な。
しかし、目の前で喧嘩を繰り広げている兄妹が明らかに美麗なのは間違いない。

「いや……ちょ、陽平さんあの名誉ってほどでもないから。てか妹さん泣きそうじゃないですか。ダメですよ、そんな事言っちゃ……。愛梨沙さんでしたっけ? お話しましょうか?」

涙目になった愛梨沙は翠咲の服をきゅうっと掴む。

そうして翠咲の後ろに隠れて、じとっと陽平を睨んだ。
「お兄ちゃんなんか嫌いっ」
「嫌いで結構だ」

陽平は両腕を組んでため息をついている。
「翠咲、悪い。妹の愛梨沙ありさなんだが、周りが甘やかしてしまってとてもわがままなんだ」

「可愛らしいですもんねぇ」
翠咲は自分に縋っている愛梨沙を改めて見た。

翠咲よりも小さな身長で、顔も小さく手足はほっそりしてすらりとしている。
さらりと長い黒髪は腰くらいまであり、前髪は眉のあたりで真っ直ぐに整えられていた。

陽平似の整った相貌に、さらに瞳をパッチリさせた感じはまるでフィギュア人形をそのまま大きくしたようだ。

むくれていてさえ可愛い。
愛梨沙は翠咲をじいっとみつめる。

陶器のようなすべらかな肌と長いまつ毛に縁どられた真っ黒な瞳は、同性であってもどきんとしてしまうくらいだ。

「お兄ちゃんにはふさわしくないって一瞬思ったけどそうでもない。悪くはないわ。可愛くないとか言ってしまってごめんなさい」

ありがとうとごめんなさいが素直に言える人に悪い人はいない、が翠咲の信条だ。

「お茶でも飲もっか?」
そう言ってへらっと笑った翠咲に、こめかみを抑えている陽平の姿が目に入った。
「どうしたの?」
「こいつのこういうとこなんだ……」

人たらし……かな?
可愛いからいいと思うんだけど?
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