フォンダンショコラな恋人

如月 そら

文字の大きさ
上 下
54 / 74
12.嵐がやってくる

嵐がやってくる③

しおりを挟む
もちろんそんな事態にはなってほしくはないが、常に最悪な場合どうすれば良いのかを考えることが翠咲の癖になっている。

いちばん最悪を考えておくことが最善なのだ。
そうすれば、ほとんどの場合に対応できると翠咲は分かっているから。

そういえば、彼氏との付き合いもそんな風に考えてしまうところがあった気がする。

だからいつも別れ話を切り出されても、翠咲は正直それほど動揺はしないように見えただろう。

内心はどうして⁉︎なんで⁉︎と思っても、そういうこともありうるのかも知れないと思うと否定することはできなくて『わかった』と割とサッパリ言っていた。

自分の気持ちは自分でなんとかなるけれど、人の気持ちを変えることは困難だと翠咲は思っているから。

元カレの
『翠咲は引き止めないんだな』
と言う言葉には、少なからず傷ついていたとしても。

泣いてすがれば気持ちが変わるのであれば、そうするけれど、きっとそんなことをしても、気持ちは変わらないと思うと翠咲にはできないのだ。

元カレは一体どうしてほしかったんだろう……が翠咲の中ではよく分からない。
泣いて、すがってほしかったんだろうか……?
そうしたら、何か変わったの?は翠咲の心の中でずっと問い続けていることだ。

その点いろんなことを合理的に考えて行動する倉橋とは、同じ時間を過ごしても、愛想がなくても気にならない。

倉橋の言葉には基本的に嘘がない。
正しいことをはっきりと伝えることが、彼の中の誠意で正義なのだということがよく分かる。

翠咲は倉橋の部屋の寝室の一角に荷物を置かせてもらい、シャワーを浴びて部屋着に着替えた。

主不在の部屋というのは、なんとなく落ち着かなくて翠咲は荷物の中からノートパソコンを取り出し、先日倉橋がしていたようにラグに座って、ダイニングテーブルの上にパソコンを広げる。

災害時の対応マニュアルなどを改めて確認していた時だ。

カチャカチャ、と玄関で鍵の音がした。
翠咲は玄関に向かう。

「陽平さん、お帰りなさい。ありがとうございます。遠慮なく……」
「あなた、誰?」

──はえ⁉︎
玄関にいたのは、お人形のような美人さんだったのだ。

「なんで勝手に入り込んでいるの?」
「え……いや、私は鍵を預かって……」
勝手に入り込んだら、もう犯罪ではないか。

「勝手に入り込んだら、不法侵入なのよ!」
確かに。そうでしょうとも。
「ですから、鍵を……」
……て言うか一体誰なのだろうか?

「鍵ってなに? お兄ちゃんからもらったとでも言うの?!」

あ!
「ホットケーキの妹さんだ!」
「なんで知ってんのよ」
「確かに、似てますね! 可愛い。美人だわ」

「分かりきってること言わないで。……ていうか、あなた誰なの?」
おお!これは間違いなく兄妹だわ!

納得の翠咲だ。
だが翠咲が果てしなく納得しているのに反し、妹である彼女は全く納得していない雰囲気だった。

「だからっ! 誰なのよ?!」

お兄ちゃんが女の人に鍵なんて渡すわけないっ!とか聞いてない!とかを、心の中で、そーでしょうねぇと同意していた翠咲はお客様のクレーム対応に慣れている。

「分かりますよー。倉橋先生は他人に鍵なんて渡さないタイプですもんねぇ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」  突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。  冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。  仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。 「お前を、誰にも渡すつもりはない」  冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。  これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?  割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。  不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。  これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

タイプではありませんが

雪本 風香
恋愛
彼氏に振られたばかりの山下楓に告白してきた男性は同期の星野だった。 顔もいい、性格もいい星野。 だけど楓は断る。 「タイプじゃない」と。 「タイプじゃないかもしれんけどさ。少しだけ俺のことをみてよ。……な、頼むよ」 懇願する星野に、楓はしぶしぶ付き合うことにしたのだ。 星野の3カ月間の恋愛アピールに。 好きよ、好きよと言われる男性に少しずつ心を動かされる女の子の焦れったい恋愛の話です。 ※体の関係は10章以降になります。 ※ムーンライトノベルズ様、エブリスタ様にも投稿しています。

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。

真守 輪
恋愛
年下の恋人を持つ図書館司書のわたし。 地味でメンヘラなわたしに対して、高校生の恋人は顔も頭もイイが、嫉妬深くて性格と愛情表現が歪みまくっている。 ドSな彼に振り回されるわたしの日常。でも、そんな関係も長くは続かない。わたしたちの関係が、彼の学校に知られた時、わたしは断罪されるから……。 イラスト提供 千里さま

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません

如月 そら
恋愛
旧題:隠れドS上司はTL作家を所望する! 【書籍化】 2023/5/17 『隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません』としてエタニティブックス様より書籍化❤️ たくさんの応援のお陰です❣️✨感謝です(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎) 🍀WEB小説作家の小島陽菜乃はいわゆるTL作家だ。  けれど、最近はある理由から評価が低迷していた。それは未経験ゆえのリアリティのなさ。  さまざまな資料を駆使し執筆してきたものの、評価が辛いのは否定できない。 そんな時、陽菜乃は会社の倉庫で上司が同僚といたしているのを見てしまう。 「隠れて覗き見なんてしてたら、興奮しないか?」  真面目そうな上司だと思っていたのに︎!! ……でもちょっと待って。 こんなに慣れているのなら教えてもらえばいいんじゃないの!?  けれど上司の森野英は慣れているなんてもんじゃなくて……!? ※普段より、ややえちえち多めです。苦手な方は避けてくださいね。(えちえち多めなんですけど、可愛くてきゅんなえちを目指しました✨) ※くれぐれも!くれぐれもフィクションです‼️( •̀ω•́ )✧ ※感想欄がネタバレありとなっておりますので注意⚠️です。感想は大歓迎です❣️ありがとうございます(*ᴗˬᴗ)💕

シンデレラは王子様と離婚することになりました。

及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・ なりませんでした!! 【現代版 シンデレラストーリー】 貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。 はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。 しかしながら、その実態は? 離婚前提の結婚生活。 果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。

処理中です...