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12.嵐がやってくる
嵐がやってくる①
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「来ますね」
「来るな、これは」
数日前から日本列島を横断するような進路を示していた台風は、どうやら大型で強い勢力となり直撃するようだ。
暴風雨に警戒が必要だと気象庁のサイトで確認をしていた課長の沢村が打合せのため、席を立った。
おそらくは、直撃。
地域によってはある程度の被害が見込まれるような規模が予想されていた。
もちろん、翠咲達の傷害課でも警戒は必要だ。
避難の時に転倒をするようなケガを負うこともある。
けれどそれよりも翠咲が以前在籍していた火災新種課は屋根が飛んだとか、カーポートが壊れた等の家屋の被害事故が一気に発生するのだ。
こんな時は翠咲達のような保険会社では、対策室を早期から立ち上げて直撃前から対応に備える。
なにもなく台風の進路は逸れることもあるので、そんな時はよかったねーと平和に解散するのだが、今回の台風の進路はそうではない可能性が非常に高かった。
通常時の何倍もの業務量が一気に発生する自然災害は、担当課だけで捌くことは不可能だ。
受付をするのは翠咲の後輩で、気づかいもよく出来る高槻結衣のいるコールセンターである。
おそらくはコールセンターでも、対策を取るはずだ。
翠咲達は対策室の指示に合わせてサポートをすることになる。
翠咲は入社してからずっと、この保険会社では査定と呼ばれる支払を担当する課に所属している。
そうして、いつも思うのだ。
お客様の役に立つことは、もちろんうれしいけれど本来なら何もないことが一番いいんだ、と。
翠咲達が役に立つようなことが起こらないことが本当は一番いい。
それでもそんなことが発生してしまったのならば、あとは一刻も早く対応をする。
通常業務をこなしながら、翠咲は会社を上げて対応しなくてはいけないような事態にならないといいと強く思った。
しかしそんな祈りも虚しく台風は太平洋側の人の多い場所を、日本海側に抜けるような進路であることが予想されていた。
対策室での何度目かの打ち合わせを終えて課長が戻ってくる。
翠咲の他、課長補佐、係長クラスが呼び出されミーティングを行った。
台風が通過したのちに被害がはっきりしたら、一気に電話が鳴ることになる。
3ヶ所あるコールセンターで対応しきれないケースに備えて、そんな場合は電話を本社に繋ぐ決定がされたそうだ。
係長クラスまではその電話の対応をすること、受付ファイルの一斉作成の手順や支払入力の際に人手が足りなかった時の人の手配など、対応を次々打ち合わせていく。
翠咲も台風災害は何度か経験があるので分かっている手順なのではあるけれど、いつも気持ちが引き締まる。
ミーティングスペースから打合せを終えて出てくると、エレベーター前に渡真利と倉橋の姿が見えた。
月に2回の定期訪問の日だったようだ。
「お疲れ様です」
沢村が弁護士の二人に声を掛ける。
「お疲れ様です。いやー、大変そうですね。あっちもこっちも殺気立っていて」
他の部署に行っていた様子の渡真利が苦笑している。
沢村はそれに笑顔を返していた。
「台風が来ますからね」
「来るな、これは」
数日前から日本列島を横断するような進路を示していた台風は、どうやら大型で強い勢力となり直撃するようだ。
暴風雨に警戒が必要だと気象庁のサイトで確認をしていた課長の沢村が打合せのため、席を立った。
おそらくは、直撃。
地域によってはある程度の被害が見込まれるような規模が予想されていた。
もちろん、翠咲達の傷害課でも警戒は必要だ。
避難の時に転倒をするようなケガを負うこともある。
けれどそれよりも翠咲が以前在籍していた火災新種課は屋根が飛んだとか、カーポートが壊れた等の家屋の被害事故が一気に発生するのだ。
こんな時は翠咲達のような保険会社では、対策室を早期から立ち上げて直撃前から対応に備える。
なにもなく台風の進路は逸れることもあるので、そんな時はよかったねーと平和に解散するのだが、今回の台風の進路はそうではない可能性が非常に高かった。
通常時の何倍もの業務量が一気に発生する自然災害は、担当課だけで捌くことは不可能だ。
受付をするのは翠咲の後輩で、気づかいもよく出来る高槻結衣のいるコールセンターである。
おそらくはコールセンターでも、対策を取るはずだ。
翠咲達は対策室の指示に合わせてサポートをすることになる。
翠咲は入社してからずっと、この保険会社では査定と呼ばれる支払を担当する課に所属している。
そうして、いつも思うのだ。
お客様の役に立つことは、もちろんうれしいけれど本来なら何もないことが一番いいんだ、と。
翠咲達が役に立つようなことが起こらないことが本当は一番いい。
それでもそんなことが発生してしまったのならば、あとは一刻も早く対応をする。
通常業務をこなしながら、翠咲は会社を上げて対応しなくてはいけないような事態にならないといいと強く思った。
しかしそんな祈りも虚しく台風は太平洋側の人の多い場所を、日本海側に抜けるような進路であることが予想されていた。
対策室での何度目かの打ち合わせを終えて課長が戻ってくる。
翠咲の他、課長補佐、係長クラスが呼び出されミーティングを行った。
台風が通過したのちに被害がはっきりしたら、一気に電話が鳴ることになる。
3ヶ所あるコールセンターで対応しきれないケースに備えて、そんな場合は電話を本社に繋ぐ決定がされたそうだ。
係長クラスまではその電話の対応をすること、受付ファイルの一斉作成の手順や支払入力の際に人手が足りなかった時の人の手配など、対応を次々打ち合わせていく。
翠咲も台風災害は何度か経験があるので分かっている手順なのではあるけれど、いつも気持ちが引き締まる。
ミーティングスペースから打合せを終えて出てくると、エレベーター前に渡真利と倉橋の姿が見えた。
月に2回の定期訪問の日だったようだ。
「お疲れ様です」
沢村が弁護士の二人に声を掛ける。
「お疲れ様です。いやー、大変そうですね。あっちもこっちも殺気立っていて」
他の部署に行っていた様子の渡真利が苦笑している。
沢村はそれに笑顔を返していた。
「台風が来ますからね」
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