43 / 74
9.限定いちごミルク酎ハイ
限定いちごミルク酎ハイ④
しおりを挟む
けれど、本当はそれは違って。
本当は熱くて甘くて、翠咲のことを理解していてくれていると分かったから。
「分かりにくいんです」
「それはよく言われる。けど、分かりにくいだけで離れてしまうような関係性なら、それは本当じゃないんだろうと思わないか?」
それで離れてしまうなら、それまで。
それはなんだか冷たいようにも翠咲は感じた。けれど、いかにも倉橋らしくはある。
翠咲がそんなことをもっと以前に聞いたら、やっぱりこの人は冷たい人なんだ、と決めつけていただろう。
今は違うと知っている。
「それ、冷めているって言われないですか?」
「どうかな。じゃあ、翠咲はどう思う? 分かりにくくて冷めている僕とは無理?」
翠咲は、手の中のイチゴミルク酎ハイをこくんと飲んだ。
甘くて酸っぱくて、アルコールの苦味がある。
「先生はフォンダンショコラみたいな人です」
倉橋がクスッと笑う。
「前も言っていたな、それ」
「表面は固くて、苦くて、……でも、中は熱くて甘い。冷たいのが似合って……。分かりにくいことが、いいとか悪いとかじゃなくて、私、フォンダンショコラは好きだな」
「翠咲、陽平、な」
「陽平さん……ごめんね言い慣れなくて」
ふにゃっ……と翠咲が笑顔を返すのに、笑った倉橋は翠咲の唇に自分のそれを重ね合わせて、柔らかく何度もキスをする。
ゆるりと舌が口の中をかき回して、翠咲はその感触に酔いそうだ。
「ん……」
くらりとして、翠咲は倉橋に掴まった。
倉橋がぎゅっと翠咲の身体を抱きしめる。
「やっぱり、甘いな」
「いちごミルク?」
「それもだけど……翠咲もだよ」
倉橋の綺麗な指先が、翠咲の手に持っていた缶をそっと取りあげて、リビングテーブルの上に置いた。
そうして、髪を上げている翠咲の首元を指ですうっと撫でる。
汗をかいた冷たい缶に触れた手で撫でるから、少しひんやりして、翠咲は首をすくめた。
腕の中の翠咲を見つめる倉橋の顔は、どこまでも甘い。
「嬉しいな」
「嬉しい?」
「羨ましかったんだ。誰だっけ、蓮根先生?」
「ああ、結衣ちゃんの彼氏さん」
「すごく堂々と彼女は自分のものだって主張していて、彼女もあの人のために浴衣着たんだろうなってよく分かったから」
少しだけ、拗ねたような顔をして、倉橋はそう言った。
「翠咲が僕のために浴衣、着てくれたらいいのにってすごく心の中で思ってたよ」
心の中で、というのがまた倉橋らしい。
けれど、そんな風に思っていたなんて。
「そうしたら、あの北条? とかいうのが、君とイチャイチャし始めるから」
「イチャイチャとかしてないんで」
「してただろう。だから……まあ、妬けてしまったというか」
そう言って、倉橋は少しだけ顔を横に背けた。
その耳が赤い。
翠咲は笑ってその耳をつん、と指先で触る。
「なんだ?」
「赤いですよ」
「僕をからかうの?いい度胸だな」
倉橋が緩く翠咲のその手を握る。
そうしてその腕を引いて、翠咲をさらにきゅっと抱き寄せたのだった。
本当は熱くて甘くて、翠咲のことを理解していてくれていると分かったから。
「分かりにくいんです」
「それはよく言われる。けど、分かりにくいだけで離れてしまうような関係性なら、それは本当じゃないんだろうと思わないか?」
それで離れてしまうなら、それまで。
それはなんだか冷たいようにも翠咲は感じた。けれど、いかにも倉橋らしくはある。
翠咲がそんなことをもっと以前に聞いたら、やっぱりこの人は冷たい人なんだ、と決めつけていただろう。
今は違うと知っている。
「それ、冷めているって言われないですか?」
「どうかな。じゃあ、翠咲はどう思う? 分かりにくくて冷めている僕とは無理?」
翠咲は、手の中のイチゴミルク酎ハイをこくんと飲んだ。
甘くて酸っぱくて、アルコールの苦味がある。
「先生はフォンダンショコラみたいな人です」
倉橋がクスッと笑う。
「前も言っていたな、それ」
「表面は固くて、苦くて、……でも、中は熱くて甘い。冷たいのが似合って……。分かりにくいことが、いいとか悪いとかじゃなくて、私、フォンダンショコラは好きだな」
「翠咲、陽平、な」
「陽平さん……ごめんね言い慣れなくて」
ふにゃっ……と翠咲が笑顔を返すのに、笑った倉橋は翠咲の唇に自分のそれを重ね合わせて、柔らかく何度もキスをする。
ゆるりと舌が口の中をかき回して、翠咲はその感触に酔いそうだ。
「ん……」
くらりとして、翠咲は倉橋に掴まった。
倉橋がぎゅっと翠咲の身体を抱きしめる。
「やっぱり、甘いな」
「いちごミルク?」
「それもだけど……翠咲もだよ」
倉橋の綺麗な指先が、翠咲の手に持っていた缶をそっと取りあげて、リビングテーブルの上に置いた。
そうして、髪を上げている翠咲の首元を指ですうっと撫でる。
汗をかいた冷たい缶に触れた手で撫でるから、少しひんやりして、翠咲は首をすくめた。
腕の中の翠咲を見つめる倉橋の顔は、どこまでも甘い。
「嬉しいな」
「嬉しい?」
「羨ましかったんだ。誰だっけ、蓮根先生?」
「ああ、結衣ちゃんの彼氏さん」
「すごく堂々と彼女は自分のものだって主張していて、彼女もあの人のために浴衣着たんだろうなってよく分かったから」
少しだけ、拗ねたような顔をして、倉橋はそう言った。
「翠咲が僕のために浴衣、着てくれたらいいのにってすごく心の中で思ってたよ」
心の中で、というのがまた倉橋らしい。
けれど、そんな風に思っていたなんて。
「そうしたら、あの北条? とかいうのが、君とイチャイチャし始めるから」
「イチャイチャとかしてないんで」
「してただろう。だから……まあ、妬けてしまったというか」
そう言って、倉橋は少しだけ顔を横に背けた。
その耳が赤い。
翠咲は笑ってその耳をつん、と指先で触る。
「なんだ?」
「赤いですよ」
「僕をからかうの?いい度胸だな」
倉橋が緩く翠咲のその手を握る。
そうしてその腕を引いて、翠咲をさらにきゅっと抱き寄せたのだった。
1
お気に入りに追加
232
あなたにおすすめの小説

タイプではありませんが
雪本 風香
恋愛
彼氏に振られたばかりの山下楓に告白してきた男性は同期の星野だった。
顔もいい、性格もいい星野。
だけど楓は断る。
「タイプじゃない」と。
「タイプじゃないかもしれんけどさ。少しだけ俺のことをみてよ。……な、頼むよ」
懇願する星野に、楓はしぶしぶ付き合うことにしたのだ。
星野の3カ月間の恋愛アピールに。
好きよ、好きよと言われる男性に少しずつ心を動かされる女の子の焦れったい恋愛の話です。
※体の関係は10章以降になります。
※ムーンライトノベルズ様、エブリスタ様にも投稿しています。
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。
真守 輪
恋愛
年下の恋人を持つ図書館司書のわたし。
地味でメンヘラなわたしに対して、高校生の恋人は顔も頭もイイが、嫉妬深くて性格と愛情表現が歪みまくっている。
ドSな彼に振り回されるわたしの日常。でも、そんな関係も長くは続かない。わたしたちの関係が、彼の学校に知られた時、わたしは断罪されるから……。
イラスト提供 千里さま

ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません
如月 そら
恋愛
旧題:隠れドS上司はTL作家を所望する!
【書籍化】
2023/5/17 『隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません』としてエタニティブックス様より書籍化❤️
たくさんの応援のお陰です❣️✨感謝です(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎)
🍀WEB小説作家の小島陽菜乃はいわゆるTL作家だ。
けれど、最近はある理由から評価が低迷していた。それは未経験ゆえのリアリティのなさ。
さまざまな資料を駆使し執筆してきたものの、評価が辛いのは否定できない。
そんな時、陽菜乃は会社の倉庫で上司が同僚といたしているのを見てしまう。
「隠れて覗き見なんてしてたら、興奮しないか?」
真面目そうな上司だと思っていたのに︎!!
……でもちょっと待って。 こんなに慣れているのなら教えてもらえばいいんじゃないの!?
けれど上司の森野英は慣れているなんてもんじゃなくて……!?
※普段より、ややえちえち多めです。苦手な方は避けてくださいね。(えちえち多めなんですけど、可愛くてきゅんなえちを目指しました✨)
※くれぐれも!くれぐれもフィクションです‼️( •̀ω•́ )✧
※感想欄がネタバレありとなっておりますので注意⚠️です。感想は大歓迎です❣️ありがとうございます(*ᴗˬᴗ)💕
シンデレラは王子様と離婚することになりました。
及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・
なりませんでした!!
【現代版 シンデレラストーリー】
貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。
はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。
しかしながら、その実態は?
離婚前提の結婚生活。
果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる