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10. ごめんで済めば弁護士はいらない

ごめんで済めば弁護士はいらない①

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「陽平さんでも、妬くなんてあるんですね」

抱きとめられた陽平からは、いつもの草のような爽やかな香りがする。

「君は僕のことをどんな風に思っているのかな?」
陽平は翠咲をぬいぐるみのようにきゅっと抱き締めながら、まだ拗ねたような顔をしていた。

「えーと、怒ってますか?」
「僕はね、他の人にはどう思われてもいいよ。けど翠咲にだけは僕のことを分かってほしいし、翠咲だけが僕のことを分かってくれればそれでいいって思っている」

それは翠咲だけが理解者でいい、と言うそれは、翠咲にはひどく熱烈な言葉に聞こえた。
「ちょっとだけ拗ねていますね?」
「ちょっとだけね」
素直な陽平はなんだか、可愛い。

普段が無表情なだけに笑ったり拗ねたりするとこんな風なんだと思うし、それはきっと心を許した人にしか見せない姿なのだろうと思うと、胸がきゅんとする。

「ごめんね」
「そうだなあ……それを何かで表してくれたら機嫌が直るかも」

こんなこと、前にもあったような気がする。
その時は資料の整理をさせられたのだったか。
けれど、翠咲は今はそれではないような気がした。

「罪と罰は適正でなければいけないと思わないか?」
「まあ……」
なんか、言い出した……。

「そういえば、君は禁固刑の最中だったね?」
なんだか急に楽しそうな陽平だ。

「翠咲、キスしてくれる? 君から」
「……はい」

翠咲は間近にいる陽平の肩にそっと手を添えて、自分から顔を近づける。

陽平の顔は近くで見ると、恥ずかしくなってしまうくらいに整っていて、いつもの無表情よりも楽しそうに、近づく翠咲をじっと見ていた。

「もう! 目とか閉じてください!」
「はあ? 照れている翠咲が可愛くてそれが見たいのに目を瞑るとかないだろう。それに僕はキスしている最中も、君をしっかり見ていたいんだけど」
え?怖いんだけど。

「視線を絡ませてキスしたことないのか?」
「え?」
「いいか、そのまま目を開けていろよ」
視線が絡まったまま、陽平は翠咲の頬に手を添える。

顔を動かせないし目線も逸らせないし、恥ずかしくてつい目を瞑りたくなってしまう。

「翠咲……逸らすな……」
そう言う陽平の息が唇にかかる。

その目は冷静で淡々としてるのかと思ったら熱を孕んでいて壮絶な色気があって、くらりとするほど蠱惑的で、いけないことをしているようにドキドキした。

そっと唇が重なっただけで、背中がぞくんとする。
「可愛い……感じる?」

目を合わせたまま頷くと、不思議と不安はなくなった。
ぞくぞくして気持ちいいのに、この人に委ねて大丈夫。絡まる視線はとても淫靡だと思うのに、不安はない。

それは翠咲だけが気持ちいいのじゃなくて、陽平も感じているということがその目線から伝わるからだ。
一緒でいいんだ。
緩く唇が何度も何度も重なる。

それだけでも、今まで感じたことのない快感に浮遊感にも似たような感覚があった。
キスだけでこんな風になったことはない。

「あ……」
もっと、もっとしてほしい。

つい、体を陽平に預けてしまう。陽平の目が嬉しそうに笑んだのが分かった。
それだって、こんな風に目線が絡まっているから分かることだ。
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