フォンダンショコラな恋人

如月 そら

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9.限定いちごミルク酎ハイ

限定いちごミルク酎ハイ③

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特にタワーマンションという訳でもなく、入口はオートロックではあるけれど、本当に比較的ごく普通のマンションだ。

「どうかした?」
「いえ、タワマンとかにお住まいかと思ったので……」

「どんなセレブだよ。うちはごく普通の家庭で、僕も弁護士としては駆け出しみたいなものだからね。まあ、こんなもんだよ」
散らかっているけど、どうぞ、とドアを開けられた部屋は″散らかっている″の定義を教えて欲しいくらいきちんとしている。

散らかっているのは、キッチンとダイニングを仕切っているカウンターの上に少し文書が置かれていることくらいだろう。

きちんとカーテンの引かれたリビング。
床にもチリ一つ落ちてはいない。

そういえば、廊下にお掃除ロボットがあっただろうか。
いかにも効率を優先する倉橋らしい。

倉橋はダイニングのカウンターキッチンのところに鍵を置いて、ガサガサとコンビニの袋をキッチンで整理している。

「何飲む?僕はビールにするけど、翠咲は?」
「あ、イチゴミルク酎ハイで!」
「すごい酎ハイだよな。」


イチゴミルク酎ハイのピンクのパッケージを手にして、倉橋は微妙な顔をしている。

「あははー、ですねっ!」
ソファに座っても、翠咲はどうしたらいいのか分からない。

ていうか、恋愛してなさすぎて、どうしたらいいんだっけ?
自分がどういう行動を取ればいいのか分からない!!

首元に冷たい缶が当てられた。
「ひゃあっ!!」
「何考えてる?」
倉橋は見透かしたような笑顔だ。

もう!変な声が出てしまったよ!

けれど、おかげで妙な力が抜けたことも間違いはない。

翠咲は倉橋から缶を受け取った。
一緒にグラスを差し出してくれたけれど、首を横に振る。

翠咲がプルタブを引くと、プシュッという音がリビングに響く。
倉橋も横に座って、ビールに口をつけていた。

そうして、翠咲をじいっと見る。
その端正な顔でまっすぐ見つめられることに、翠咲はまだ慣れていない。

「……っ、な、何ですか?」
「確かに可愛いな。浴衣」
「それって浴衣を褒めてます?」
「自分を褒めて欲しい?」

ぐ……っ。そんなことは、言えない。

翠咲が言葉を詰まらせると、顔を伏せてくつくつと倉橋が笑っていた。肩が小刻みに揺れている。

からかわれた!!

「もう! 陽平さん! 意地悪してる!」
「悪い……君があまりに緊張してて、可愛くてついいじめたくなってしまった」

ふふっと笑う倉橋は心から楽しそうだ。
翠咲をからかうのが趣味なのだろうか。

「全く、本当に私のことなんて好きなんですか?」
「ああ。好きだな」
翠咲の言葉には、倉橋は淡々と返す。
これではまるでいつもと一緒ではないか。

「嫌いだったくせに?」
「いいか? 僕は君が嫌いだったことは一度もない。まあ、君は僕が嫌いだったようだけどな。僕の方が、散々君には嫌いだと言われたような気がするが?」
割と真顔でそう返される。

それには返す言葉もない。
確かに最初は嫌いだった。

いつも冷たくて、淡々としていて、翠咲のことも理解してくれていない、と思っていたのだ。
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