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9.限定いちごミルク酎ハイ
限定いちごミルク酎ハイ①
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花火大会が終わったのち、翠咲は浴衣を結衣に返そうと思ったら、結衣は早々に会場から姿を消していた。
『浴衣は今度でいいので、今日はそのままお帰り下さいねー』
とメッセージアプリにメールが残っている。
「どうした?」
じっとスマートフォンを眺める翠咲に倉橋が声を掛ける。
「うん。結衣ちゃんからのメール。今日は浴衣着て帰って下さいって」
「そうか。良い後輩だな」
「そうね」
「では、帰るか」
ん、と倉橋は翠咲に手を差し出す。
ん?と翠咲はお手をするように、ぽんと手を載せた。
「違う。荷物を寄越せってことだ」
「……あ? ああ! ご、ごめんなさい!」
翠咲は着替えが入った大きな紙バッグを肩に掛けていた。
「いや……ふ、……ははっ」
怒るかと思えば、倉橋は笑っている。翠咲はなんだか恥ずかしくなってきた。
そんな風に笑う?
「あはは……、お手とかするか?」
「しないけど」
だって、急に付き合うってなってたし、緊張したんだもんっ。
「重いだろ? それに浴衣じゃ持つのも大変だしな」
「最初から、言ってくださいよぅ……」
恥ずかしい思いをした翠咲は、つい恨みがましい顔になってしまう。
「いや、まさかお手するとは……」
思い出したのか、まだ、倉橋はくすくす笑っている。
「僕は本当に言葉が足りなくて。けど、お手……」
よく分かった。笑い上戸だこの人。
けれど、おかげで緊張せずにすんだ。
翠咲の荷物を受け取って、そのまま手を繋いだ倉橋はタクシーに向かって手を上げる。
それを見て翠咲はどきん、とした。
あ、やっぱり行くんだ。
そう言えば先程は、禁固刑とか胡乱なことを言っていたような気がするが。
「新陽町まで」
「はい」
運転手は車を出す。
行先を告げて、初めて翠咲は倉橋の住んでいる所を知った。
「あ、新陽町なんですか?」
「そう会社が二本橋だからね。電車で4駅は近いだろう」
「そうなんですね。二本橋だったんだ。うちの会社からも近かったんですね」
「まあ、あの辺、法律事務所も結構集まっているからな。事務所から翠咲の会社までは歩いて行けるな。でも、路線が違うし電車だと乗換があって面倒だろ。それに今日はそんな格好だしな」
「あ……。あの、ごめんなさい」
そんな格好とは浴衣のことだろう。
電車でも近い距離なのに、翠咲のためにタクシーを拾ってくれたのだ。
それが分かって思わず翠咲は頭を下げてしまうと、隣の倉橋から軽いため息の音が聞こえた。
「そこはお礼の方がうれしいかな」
「そうだよねっ。あの……ありがとうございました」
「ん。いいよ。可愛いしな。それに似合っているから」
そう言って倉橋はふわりと翠咲の頭を撫でた。
そんな仕草にも翠咲はどきっとする。
倉橋が翠咲に気を使ってくれるから。
まだ倉橋のことはよく分からない事も多いけれど、なんとなく翠咲には甘いような気がする。
倉橋はコンビニの前でタクシーを降りた。
「家に何もないから飲み物とかつまめるものとか買っていこう」
「はい」
「翠咲は何飲む? ビールとかでいいか? 少し甘めのものも買うか?」
飲み物の棚の前で2人であれこれ吟味する。
「あ、限定イチゴミルク酎ハイだ」
「甘そうだな」
『浴衣は今度でいいので、今日はそのままお帰り下さいねー』
とメッセージアプリにメールが残っている。
「どうした?」
じっとスマートフォンを眺める翠咲に倉橋が声を掛ける。
「うん。結衣ちゃんからのメール。今日は浴衣着て帰って下さいって」
「そうか。良い後輩だな」
「そうね」
「では、帰るか」
ん、と倉橋は翠咲に手を差し出す。
ん?と翠咲はお手をするように、ぽんと手を載せた。
「違う。荷物を寄越せってことだ」
「……あ? ああ! ご、ごめんなさい!」
翠咲は着替えが入った大きな紙バッグを肩に掛けていた。
「いや……ふ、……ははっ」
怒るかと思えば、倉橋は笑っている。翠咲はなんだか恥ずかしくなってきた。
そんな風に笑う?
「あはは……、お手とかするか?」
「しないけど」
だって、急に付き合うってなってたし、緊張したんだもんっ。
「重いだろ? それに浴衣じゃ持つのも大変だしな」
「最初から、言ってくださいよぅ……」
恥ずかしい思いをした翠咲は、つい恨みがましい顔になってしまう。
「いや、まさかお手するとは……」
思い出したのか、まだ、倉橋はくすくす笑っている。
「僕は本当に言葉が足りなくて。けど、お手……」
よく分かった。笑い上戸だこの人。
けれど、おかげで緊張せずにすんだ。
翠咲の荷物を受け取って、そのまま手を繋いだ倉橋はタクシーに向かって手を上げる。
それを見て翠咲はどきん、とした。
あ、やっぱり行くんだ。
そう言えば先程は、禁固刑とか胡乱なことを言っていたような気がするが。
「新陽町まで」
「はい」
運転手は車を出す。
行先を告げて、初めて翠咲は倉橋の住んでいる所を知った。
「あ、新陽町なんですか?」
「そう会社が二本橋だからね。電車で4駅は近いだろう」
「そうなんですね。二本橋だったんだ。うちの会社からも近かったんですね」
「まあ、あの辺、法律事務所も結構集まっているからな。事務所から翠咲の会社までは歩いて行けるな。でも、路線が違うし電車だと乗換があって面倒だろ。それに今日はそんな格好だしな」
「あ……。あの、ごめんなさい」
そんな格好とは浴衣のことだろう。
電車でも近い距離なのに、翠咲のためにタクシーを拾ってくれたのだ。
それが分かって思わず翠咲は頭を下げてしまうと、隣の倉橋から軽いため息の音が聞こえた。
「そこはお礼の方がうれしいかな」
「そうだよねっ。あの……ありがとうございました」
「ん。いいよ。可愛いしな。それに似合っているから」
そう言って倉橋はふわりと翠咲の頭を撫でた。
そんな仕草にも翠咲はどきっとする。
倉橋が翠咲に気を使ってくれるから。
まだ倉橋のことはよく分からない事も多いけれど、なんとなく翠咲には甘いような気がする。
倉橋はコンビニの前でタクシーを降りた。
「家に何もないから飲み物とかつまめるものとか買っていこう」
「はい」
「翠咲は何飲む? ビールとかでいいか? 少し甘めのものも買うか?」
飲み物の棚の前で2人であれこれ吟味する。
「あ、限定イチゴミルク酎ハイだ」
「甘そうだな」
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