フォンダンショコラな恋人

如月 そら

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8.有罪です

有罪です④

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「倉橋先生、うちの営業社員です。隼人、こちらの方はうちの顧問弁護士さん。案件でお世話になったの」
「顧問弁護士の先生か……。いつも、お世話になっています」

「君をお世話した覚えはないけど、宝条さん、少しいいかな?」
さらりとそう言って隼人を黙らせると、倉橋は握っていた翠咲の手を引いた。
「はい?」
──何か用事だろうか?
翠咲は手を引かれて、ビルの中に入る。

人気のない階段を降りると、急に翠咲はドキドキしてきた。

そう言えば、なんで手を握られているんだろう……?

階段を降りて、踊り場に着くと倉橋は足を止めた。
翠咲に向き直る。

その端正な顔が真っ直ぐに自分を見ていて、翠咲はどきん、とした。

「浴衣……やっぱり、似合う」
「ありがとうございます……」
倉橋が翠咲の後ろの壁に腕をついた。

その腕の中に囲いこまれる形になり、翠咲はだんだん鼓動が大きくなってくるのを感じた。

「あいつ……、なんで名前呼びなんですか?」
「あいつ? 隼人のことですか?」
倉橋が微妙に表情を歪める。

「名字の読み方が一緒なんです」
「名字……」

「向こうは北に条で『ほうじょう』なんですけど。それで、紛らわしいから、同期なんですけど、導入研修の時から名前呼びです」

「翠咲……」
急に名前を呼ばれて、ドキン、とする。
「は……い」

「翠咲」
顔を近づけた倉橋が翠咲の耳元で、甘い声でその名前を何度も呼ぶ。

「翠咲……って、僕も呼んでいいか」
「ダメです」
「翠咲」
「ドキドキするから、ダメ……」
「翠咲、僕の名前呼んでみて」

名前……なんだっけ?
もう、ドキドキして頭が回らない。
なんでこんなに距離が近いの?
息が、耳に……かかるっ。

「陽平……ですよ」
「んっ……陽平、さんっ!」

もう……ダメ。だんだん距離を詰めてくる倉橋の下半身がほぼ密着しているし息は耳にかかるし、腕を壁につかれているから、逃げることなんてできないし、心臓はバクバクして張り裂けそうだし!

それに、きっと私、顔も真っ赤だわ。
なんでこの人本当にこんなに顔がいいわけ!?

「翠咲……」
「んっ……」
唇が重なる。

翠咲の口の中に倉橋の舌が遠慮なく入ってきて、緩くかきまわされると甘く声が漏れそうになる。

また……っ!

翠咲は息が苦しくなって、倉橋を軽く叩く。
倉橋がそっと翠咲を離した頃には、翠咲は息も絶え絶えだ。

「あんな奴に笑いかけるなよ。飲み物とか持ってこさせるな。こんな可愛い浴衣姿とか……見せるなよ」
低い声で耳元で、淡々と告げられる。

「……っ! なんなのよ! なんでキスなんかするのよ。なんで、こんな風に抱きしめるの!? 自分だって女子に囲まれていたくせに、なんなのよっ」

「言っただろう。僕は翠咲が好きだって。君にしか興味はない」

知らないわよっ……。

そう言い返そうと思って翠咲は動きを止める。
……ん?
ち、ちょっと待って、この人のこの行動って……。

「倉橋先生……」
「陽平」

冷静に訂正される。
翠咲も素直に言い直した。

「陽平さん……、あの、私たちってもしかして、付き合ってる……の?」

「それ以外の何なんだ?」
当然のように返されたその返事。

翠咲は力が抜けそうになる。
だから、あなたのそういうところ!
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