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8.有罪です
有罪です③
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「事務所……着替えに借りちゃいましょう」
翠咲が浴衣に着替えると、結衣が髪を簡単にセットする。
浴衣は結衣が選んだものなだけあって、落ち着いていて派手な感じはしない。
言うのなら、最初に結衣が選んだものの方が落ち着いた雰囲気で、今、結衣が着ているのは彼女に似合って可愛いけれど少しだけ華やか。
──そっか……蓮根先生が選んだと言っていたものね。
着てあげる結衣も、蓮根には甘い。
着替えてしまえば、翠咲も少し気持ちが浮き立つのを感じた。
「結衣ちゃん、ありがとう」
「ん! すごく可愛いです」
2人で屋上に上がる。
すると、翠咲の同期の営業社員に声をかけられた。
「翠咲! 馬子にも衣装、ってやつか?」
「悪かったわね」
「いや? すげー似合ってるよ?」
同期の北条隼人は、名字の読み方が同じ『ほうじょう』で、珍しい名字なのに読み方が被るのはなかなかないと導入研修時からお互いに好きなことが言い合える仲間だ。
「隼人こそ、お休みの日にまで大変ね」
「今日は大口のお客様もいるしな」
そう言って、ちらりと結衣を見る。
「あ、涼真さんですか?」
「蓮根先生は俺の担当先では大口です」
「わがまま言ってないかしら?」
「高槻さんとお付き合いするようになってからは、少なくとも俺は格段に楽になりましたね」
「結衣さん」
そこへ蓮根涼真が現れて、後ろから結衣を抱きしめる。
「宝条さんの着替えが終わったなら、もういいだろう? こっちにおいで」
話には聞いたことがあった。
蓮根は結衣にメロメロなのだとは。
しかしこんな人前でもはばからないとは、相当らしい。
隼人はそれにも慣れていて、高槻さんをお借りしてすみませんでした。と笑っていた。
「美男美女でお似合いだよな。なんかあれだけ絵になりすぎると、イチャイチャされてもよく出来た映像をみせられているようで気にならねーよな。翠咲は、ビールでいいのか?」
蓮根と結衣を見ていた隼人はくるりと翠咲を振り返った。
「私、受付の手伝いで来たのよね」
「でも今日、勤務扱いじゃないだろ」
確かに勤務扱いではないが、翠咲はどうにもお酒を飲む気にはなれない。
「んー、でも一応……ね」
「じゃ、ノンアルだな。ソフトドリンクにしとくか」
持ってくるから座ってろ、と言われる。
普段は隼人はそんな風には言わないタイプなので、やはり浴衣の翠咲に気を使ってくれているのだろうと思った。
ふと、そう言えば倉橋はどうしているのだろうか、と思ったら倉橋は浴衣の女性に囲まれていた。
隼人や翠咲のように、お客様の対応で社員が何人か出ているから、その女性達が倉橋を囲んでいるようだ。
まあモテて、大変よね……。
そんな風に思って、ふーん、と見ていると倉橋と目が合う。
倉橋は軽く目を見開いた。
「翠咲、ウーロン茶でいいか? なんなら、俺のビールちょっと飲むか?」
「ありがとう。ウーロン茶でいいよ」
ウーロン茶の入ったカップを受け取ろうとすると、その手をつかまれた。
倉橋が無表情に翠咲を見ている。
「倉橋先生」
「いつの間に浴衣?」
「あ、後輩が貸してくれて……」
「倉橋……先生?」
営業社員では顧問弁護士との接点はあまりなく、隼人は誰?という顔をしている。
翠咲が浴衣に着替えると、結衣が髪を簡単にセットする。
浴衣は結衣が選んだものなだけあって、落ち着いていて派手な感じはしない。
言うのなら、最初に結衣が選んだものの方が落ち着いた雰囲気で、今、結衣が着ているのは彼女に似合って可愛いけれど少しだけ華やか。
──そっか……蓮根先生が選んだと言っていたものね。
着てあげる結衣も、蓮根には甘い。
着替えてしまえば、翠咲も少し気持ちが浮き立つのを感じた。
「結衣ちゃん、ありがとう」
「ん! すごく可愛いです」
2人で屋上に上がる。
すると、翠咲の同期の営業社員に声をかけられた。
「翠咲! 馬子にも衣装、ってやつか?」
「悪かったわね」
「いや? すげー似合ってるよ?」
同期の北条隼人は、名字の読み方が同じ『ほうじょう』で、珍しい名字なのに読み方が被るのはなかなかないと導入研修時からお互いに好きなことが言い合える仲間だ。
「隼人こそ、お休みの日にまで大変ね」
「今日は大口のお客様もいるしな」
そう言って、ちらりと結衣を見る。
「あ、涼真さんですか?」
「蓮根先生は俺の担当先では大口です」
「わがまま言ってないかしら?」
「高槻さんとお付き合いするようになってからは、少なくとも俺は格段に楽になりましたね」
「結衣さん」
そこへ蓮根涼真が現れて、後ろから結衣を抱きしめる。
「宝条さんの着替えが終わったなら、もういいだろう? こっちにおいで」
話には聞いたことがあった。
蓮根は結衣にメロメロなのだとは。
しかしこんな人前でもはばからないとは、相当らしい。
隼人はそれにも慣れていて、高槻さんをお借りしてすみませんでした。と笑っていた。
「美男美女でお似合いだよな。なんかあれだけ絵になりすぎると、イチャイチャされてもよく出来た映像をみせられているようで気にならねーよな。翠咲は、ビールでいいのか?」
蓮根と結衣を見ていた隼人はくるりと翠咲を振り返った。
「私、受付の手伝いで来たのよね」
「でも今日、勤務扱いじゃないだろ」
確かに勤務扱いではないが、翠咲はどうにもお酒を飲む気にはなれない。
「んー、でも一応……ね」
「じゃ、ノンアルだな。ソフトドリンクにしとくか」
持ってくるから座ってろ、と言われる。
普段は隼人はそんな風には言わないタイプなので、やはり浴衣の翠咲に気を使ってくれているのだろうと思った。
ふと、そう言えば倉橋はどうしているのだろうか、と思ったら倉橋は浴衣の女性に囲まれていた。
隼人や翠咲のように、お客様の対応で社員が何人か出ているから、その女性達が倉橋を囲んでいるようだ。
まあモテて、大変よね……。
そんな風に思って、ふーん、と見ていると倉橋と目が合う。
倉橋は軽く目を見開いた。
「翠咲、ウーロン茶でいいか? なんなら、俺のビールちょっと飲むか?」
「ありがとう。ウーロン茶でいいよ」
ウーロン茶の入ったカップを受け取ろうとすると、その手をつかまれた。
倉橋が無表情に翠咲を見ている。
「倉橋先生」
「いつの間に浴衣?」
「あ、後輩が貸してくれて……」
「倉橋……先生?」
営業社員では顧問弁護士との接点はあまりなく、隼人は誰?という顔をしている。
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