フォンダンショコラな恋人

如月 そら

文字の大きさ
上 下
37 / 74
8.有罪です

有罪です③

しおりを挟む
「事務所……着替えに借りちゃいましょう」
翠咲が浴衣に着替えると、結衣が髪を簡単にセットする。

浴衣は結衣が選んだものなだけあって、落ち着いていて派手な感じはしない。

言うのなら、最初に結衣が選んだものの方が落ち着いた雰囲気で、今、結衣が着ているのは彼女に似合って可愛いけれど少しだけ華やか。

──そっか……蓮根先生が選んだと言っていたものね。
着てあげる結衣も、蓮根には甘い。

着替えてしまえば、翠咲も少し気持ちが浮き立つのを感じた。

「結衣ちゃん、ありがとう」
「ん! すごく可愛いです」

2人で屋上に上がる。
すると、翠咲の同期の営業社員に声をかけられた。

「翠咲! 馬子にも衣装、ってやつか?」
「悪かったわね」
「いや? すげー似合ってるよ?」

同期の北条隼人ほうじょうはやとは、名字の読み方が同じ『ほうじょう』で、珍しい名字なのに読み方が被るのはなかなかないと導入研修時からお互いに好きなことが言い合える仲間だ。

「隼人こそ、お休みの日にまで大変ね」
「今日は大口のお客様もいるしな」
そう言って、ちらりと結衣を見る。

「あ、涼真さんですか?」
「蓮根先生は俺の担当先では大口です」

「わがまま言ってないかしら?」
「高槻さんとお付き合いするようになってからは、少なくとも俺は格段に楽になりましたね」

「結衣さん」
そこへ蓮根涼真はすねりょうまが現れて、後ろから結衣を抱きしめる。

「宝条さんの着替えが終わったなら、もういいだろう? こっちにおいで」

話には聞いたことがあった。
蓮根は結衣にメロメロなのだとは。
しかしこんな人前でもはばからないとは、相当らしい。

隼人はそれにも慣れていて、高槻さんをお借りしてすみませんでした。と笑っていた。

「美男美女でお似合いだよな。なんかあれだけ絵になりすぎると、イチャイチャされてもよく出来た映像をみせられているようで気にならねーよな。翠咲は、ビールでいいのか?」
蓮根と結衣を見ていた隼人はくるりと翠咲を振り返った。

「私、受付の手伝いで来たのよね」
「でも今日、勤務扱いじゃないだろ」
確かに勤務扱いではないが、翠咲はどうにもお酒を飲む気にはなれない。
「んー、でも一応……ね」
「じゃ、ノンアルだな。ソフトドリンクにしとくか」

持ってくるから座ってろ、と言われる。
普段は隼人はそんな風には言わないタイプなので、やはり浴衣の翠咲に気を使ってくれているのだろうと思った。

ふと、そう言えば倉橋はどうしているのだろうか、と思ったら倉橋は浴衣の女性に囲まれていた。

隼人や翠咲のように、お客様の対応で社員が何人か出ているから、その女性達が倉橋を囲んでいるようだ。

まあモテて、大変よね……。
そんな風に思って、ふーん、と見ていると倉橋と目が合う。

倉橋は軽く目を見開いた。

「翠咲、ウーロン茶でいいか? なんなら、俺のビールちょっと飲むか?」
「ありがとう。ウーロン茶でいいよ」

ウーロン茶の入ったカップを受け取ろうとすると、その手をつかまれた。

倉橋が無表情に翠咲を見ている。
「倉橋先生」
「いつの間に浴衣?」
「あ、後輩が貸してくれて……」

「倉橋……先生?」
営業社員では顧問弁護士との接点はあまりなく、隼人は誰?という顔をしている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

タイプではありませんが

雪本 風香
恋愛
彼氏に振られたばかりの山下楓に告白してきた男性は同期の星野だった。 顔もいい、性格もいい星野。 だけど楓は断る。 「タイプじゃない」と。 「タイプじゃないかもしれんけどさ。少しだけ俺のことをみてよ。……な、頼むよ」 懇願する星野に、楓はしぶしぶ付き合うことにしたのだ。 星野の3カ月間の恋愛アピールに。 好きよ、好きよと言われる男性に少しずつ心を動かされる女の子の焦れったい恋愛の話です。 ※体の関係は10章以降になります。 ※ムーンライトノベルズ様、エブリスタ様にも投稿しています。

契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」  突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。  冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。  仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。 「お前を、誰にも渡すつもりはない」  冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。  これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?  割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。  不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。  これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ 慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。    その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは 仕事上でしか接点のない上司だった。 思っていることを口にするのが苦手 地味で大人しい司書 木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)      × 真面目で優しい千紗子の上司 知的で容姿端麗な課長 雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29) 胸を締め付ける切ない想いを 抱えているのはいったいどちらなのか——— 「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」 「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」 「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」 真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。 ********** ►Attention ※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです) ※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。 ※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。

真守 輪
恋愛
年下の恋人を持つ図書館司書のわたし。 地味でメンヘラなわたしに対して、高校生の恋人は顔も頭もイイが、嫉妬深くて性格と愛情表現が歪みまくっている。 ドSな彼に振り回されるわたしの日常。でも、そんな関係も長くは続かない。わたしたちの関係が、彼の学校に知られた時、わたしは断罪されるから……。 イラスト提供 千里さま

恋は秘密のその先に

葉月 まい
恋愛
秘書課の皆が逃げ出すほど冷血な副社長 仕方なく穴埋めを命じられ 副社長の秘書につくことになった 入社3年目の人事部のOL やがて互いの秘密を知り ますます相手と距離を置く 果たして秘密の真相は? 互いのピンチを救えるのか? そして行き着く二人の関係は…?

練習なのに、とろけてしまいました

あさぎ
恋愛
ちょっとオタクな吉住瞳子(よしずみとうこ)は漫画やゲームが大好き。ある日、漫画動画を創作している友人から意外なお願いをされ引き受けると、なぜか会社のイケメン上司・小野田主任が現れびっくり。友人のお願いにうまく応えることができない瞳子を主任が手ずから教えこんでいく。 「だんだんいやらしくなってきたな」「お前の声、すごくそそられる……」主任の手が止まらない。まさかこんな練習になるなんて。瞳子はどこまでも甘く淫らにとかされていく ※※※〈本編12話+番外編1話〉※※※

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

処理中です...