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8.有罪です

有罪です①

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「花火大会……?」
一瞬倉橋は何を言われているのか、分からなかった。

「ええ。うちの会社の屋上からよく見えるもので、大口先をご招待して取引先さんにも協力してもらって、毎年鑑賞会をしているんですよ」
目の前の課長はにこにこと笑っている。

「ああ! 去年参加させてもらいました! よく見えるんですよねぇ」
「まあ、割と高いビルですからね」

「食べ物も美味かったし。えー、いいんですかぁ⁉︎ 参加させて頂いて」
「是非お2人でいらしてください!」

招待客名簿に名前を載せておきますから。
そう言われて、倉橋も手帳に予定を書き込む。

今日は倉橋は案件の関係で、渡真利と一緒に翠咲の会社を訪問していた。
別の部署で、係争案件が発生したので、その打ち合わせのためだった。

「ここの花火大会、すっげーいいぞ」
昨年も参加したと言っていた渡真利は、やけに嬉しそうだ。
会社の屋上を解放して花火大会を観る会を毎年しているらしい。

「周りより少し高いビルだから花火大会もよく見えるし飯も美味い。取引先の料理屋から料理を提供してもらっているみたいで」

「そうなんですか」
「お前も楽しみにしとけよ。あ、オレは裁判所に寄ってから帰るから」
「あ、はい」

打ち合わせを終えてエレベーターを降りると、ちょうどランチから帰ってきた翠咲が、何人かの社員と一緒の姿を見かける。

翠咲も倉橋に気づいて頭を下げて、通り過ぎようとした。

「宝条さん」
倉橋はその名を呼ぶ。

「え? はい……」
翠咲は他の社員に、先に行っていてと声をかけていた。
はあいと返事をして彼女達はエレベーターに消えていった。

「先生。お疲れ様です。今日は打ち合わせですか?」
いつもと同じ。
何もなかったかのような宝条だ。

「ええ。他の部署で。宝条さん、次の土曜日は空いていますか」
「次の土曜日……。ごめんなさい。用事が入っています」
「そう」

倉橋はできたら、宝条と一緒に花火大会を見たかったのだが、予定があるのでは仕方ない。

「また、予定が合えば食事に誘っていいか?」
そう聞くと、翠咲は目を見開いて驚いている。
いい加減慣れてくれないだろうか。

けれど、少しだけ目を伏せた翠咲は小さな声で
「予定が合えば、また声かけてください」
と言った。

「連絡します」
どうやら嫌ではないらしい。
倉橋は一瞬で浮き足立ったのだが、多分それは翠咲には伝わっていないだろう。
自分の感情は伝わりにくいと分かってはいる。



そうして迎えた土曜日。
まだ少し明るい16時には屋上を解放するというので、倉橋もこの日ばかりは私服で翠咲の会社に向かった。

「いらっしゃいませ。お名前をお伺いしてよろしいですか? こちら注意書きです。よろしくお願いいたします」
会社のロビーで受付をしていたのは、翠咲だった。

「宝条さん……」
「あ、倉橋先生。いらっしゃいませ」

「用事って……」
「はい。こちらの受付のお手伝いに」

会社のロビーは、普段とは違って私服や浴衣の女性もいて、なかなかに華やかな雰囲気だった。
その様子を倉橋は物珍しげに見まわす。

「華やかだな」
「お祭り、ですからね」
翠咲も私服である。

「私服、可愛いな」
「もう、倉橋先生、お上手ですね」

翠咲に笑顔で返されて社交辞令に取られているな、と倉橋は感じた。
そうじゃないんだが。

その時だ。
ロビーに、一際目立つカップルが入ってきたのは。
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