フォンダンショコラな恋人

如月 そら

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7.勝ちを掴みに行く男

勝ちを掴みに行く男⑥

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真田は理知的で整った顔を少しだけ笑ませて、淡々とそんなことを言う。
確かにその通りだし、主張はそこだろう。

「なるほど。次回法廷で判決を言い渡します」
たった2回の裁判で、判決が降りるなど明白だ。

──勝った。
傍聴席に後でそっと入ってきた渡真利も薄らと笑っている。

数日後、相手方弁護士の真田が渡真利のところにやってきた。
別件で打ち合わせと言っているが、先日の話をしたいのもあるのだろうと思う。

「いやー、真田くん、実にやる気のない感じだったね」
「そんなことはないですよ。僕は常に依頼人のことを考えていますから」
にっこり笑う笑顔が実に胡散臭い。

「依頼人のことを考えてアレか?」
「ええ。どう考えても最初から無理な話で。止めたんですよ僕は。それが弁護士として正しいでしょう? なのに、どうしても、というからその意向に沿っただけです。着手金も相談料もいただいていますしね。もちろん報酬も発生しますし」

「お前、あの案件、片手間のバイト、位に思っているだろう?」
渡真利の呆れた声だ。

「だから何なんです?止めましたよ。僕は。法律家のプロである僕の意見を聞かずに自分の意見を押し通したんです。それはもう、後悔はないでしょう。それに長引かせても、僕の報酬が増えるだけで、本人には何のメリットもない。ならば、あの裁判官の早めの判決は逆に温情だと思いますがね」

まさに立板に水である。
弁護士になるべくしてなった男だ。

「まあ……実際そうだ」
「それより、倉橋が少しだけ本気だったのが気になったな。こんなくだらない案件じゃなくて、いつか別のもっと熱くなるような案件で倉橋とは戦いたいなあ……」

「そんなことにはならない」
そんな弁護士同士の泥仕合いなど、倉橋は考えたくもない。

「ま、そうだな。また何かあればよろしくな」
そう言ってにこにこと真田は帰っていった。

「面白い同期だな」
「めんどくさい奴なだけです」

その後の判決は『被告は極力早く判断をすること。原告もそれについては協力すること』

履行期、つまり約款に定められている支払いの期間内に極力判断をすることが付言され
「被告側弁護人は何か言いたいことはありますか?」
と聞かれ、倉橋は
「はい」
と返事をした。

「今回は私の依頼人だけのことですが、仮に他にも契約があることが判明し、約款に違反した多重契約だということが判明したら、そもそも契約事項自体が無効になるのだということを申し伝えておきたいと思います」

それは今後ぐちゃぐちゃ言ったら、一銭ももらえないことになるからな?という倉橋の念押しだ。

「それは仮の話ですか?」
「はい」

「では弁護人は仮の話は差し控えてください。この件に関しての発言は何かありますか?」
「いいえ」

けれど、原告の男が真っ青になって血の気が失せているのを倉橋は見た。

今回の件に関係ないと裁判官は言ったが、法廷での発言は全て記録される。
今の倉橋の発言も、だ。

もう男は二度と訴える、などということはできないはずだ。
二度と宝条にも危害は加えさせない。

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