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7.勝ちを掴みに行く男
勝ちを掴みに行く男①
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そして時間は少しだけ戻る。
あの翠咲がホテルの前からタクシーで帰ってしまった直後の頃のことだ。
ピピピ……という目覚ましの音をしばらく聞いて、倉橋はアラームを止めた。
ベッドに寝転がったまま枕元のスマホに手を伸ばして、今日の予定を確認する。
──今日は特に面談とかの予定は入っていないな。
倉橋は寝起きがあまり良くなくて、完全に目を覚ますまでそんな感じで十分ほどをベッドの上で過ごすのだ。
かと言って、その時間をぼうっと過ごすことは時間の無駄だと倉橋は思うので、今日の予定や、やることを頭の中で組み立てる時間に充てることにしている。
いくつかの事案を同時にこなしつつ、案件によっては直接の打ち合わせを必要とする。
時間も効率も考えて行動しないと、全ての予定をこなすことはできない。
こうして予定を立てていても、その合間合間に新規の案件が入ってくることもあるのだ。
大体の予定を組んで、その頃には頭もハッキリしてくる。
それからおもむろに起き出して、シャワーを浴びに行くのである。
電車が混み合う前に事務所に向かうのが、倉橋の日常だった。
案件のチェックを済ませ、手続きの準備を進めていく。
法務局への申請や裁判所に提出して欲しい書類などを整理していると、渡真利がやって来る。
「おーす」
「おはようございます」
「なんか、ある?」
「そうですね。先日の山野コーポレーションさんの契約の件ですが、起案はできているので、一度確認していただけますか。あと別件ですが、こちらが裁判所に提出する資料です」
「ああ、早いな」
所長である渡真利に最終的な確認をしてほしいことをまとめてこの時間に確認してもらい、決裁すべきものは決裁してもらう。
「あ、倉橋、今日日中少し時間を空けてもらえるか?」
「何時くらいです?」
「14時くらいだ。訴訟案件が入りそうなんだ」
「空けます」
弁護士である以上、訴訟案件は最優先と倉橋は考えている。
「今担当してもらっている企業宛に訴状が届いたから。今日はその打ち合わせだ。お前、対応してくれるか?」
「もちろんです。どこですか?」
その企業名を聞いた倉橋は驚いた。
ただし、倉橋が驚いたようには、渡真利には見えないだろうが。
少しくらい、眉が動いたかな……くらいだろう。
一方の倉橋は少しだけ、動揺していた。
なぜなら、その企業名は宝条の会社だったから。
先日、割烹料理店から宝条を連れ出して、本当はゆっくり話をしたかったのに。
そのために行きつけのラウンジに連れて行こうと思っていたのに。
彼女はさっさとタクシーで帰ってしまった。
あんな風に、ホテルの目の前で女性に逃げられたことはない。
逃げたわけではないかもしれないが。
その宝条の会社。
「どこの部署ですか?」
「珍しく、傷害査定だな」
現在、傷害査定で法律相談を受けている案件は宝条の件だけだ。
本来ならそれくらい揉め事の少ない部署なのだ。
「どういうことです?」
「支払いがされないことで、腹を立てているんかな。未払いだと訴えを起こしているらしいな。そうなのか?」
「そんなバカな。時間がかかっているだけですよ。調査中です。そもそも疑義案件ですし」
「疑義案件……」
「過剰契約なんですよ」
過剰契約とは、いろんな保険会社と多重に契約をして、大した怪我ではないのに通院を長引かせ、複数の保険会社から保険金を搾取する、という詐欺紛いの行為だ。
あの翠咲がホテルの前からタクシーで帰ってしまった直後の頃のことだ。
ピピピ……という目覚ましの音をしばらく聞いて、倉橋はアラームを止めた。
ベッドに寝転がったまま枕元のスマホに手を伸ばして、今日の予定を確認する。
──今日は特に面談とかの予定は入っていないな。
倉橋は寝起きがあまり良くなくて、完全に目を覚ますまでそんな感じで十分ほどをベッドの上で過ごすのだ。
かと言って、その時間をぼうっと過ごすことは時間の無駄だと倉橋は思うので、今日の予定や、やることを頭の中で組み立てる時間に充てることにしている。
いくつかの事案を同時にこなしつつ、案件によっては直接の打ち合わせを必要とする。
時間も効率も考えて行動しないと、全ての予定をこなすことはできない。
こうして予定を立てていても、その合間合間に新規の案件が入ってくることもあるのだ。
大体の予定を組んで、その頃には頭もハッキリしてくる。
それからおもむろに起き出して、シャワーを浴びに行くのである。
電車が混み合う前に事務所に向かうのが、倉橋の日常だった。
案件のチェックを済ませ、手続きの準備を進めていく。
法務局への申請や裁判所に提出して欲しい書類などを整理していると、渡真利がやって来る。
「おーす」
「おはようございます」
「なんか、ある?」
「そうですね。先日の山野コーポレーションさんの契約の件ですが、起案はできているので、一度確認していただけますか。あと別件ですが、こちらが裁判所に提出する資料です」
「ああ、早いな」
所長である渡真利に最終的な確認をしてほしいことをまとめてこの時間に確認してもらい、決裁すべきものは決裁してもらう。
「あ、倉橋、今日日中少し時間を空けてもらえるか?」
「何時くらいです?」
「14時くらいだ。訴訟案件が入りそうなんだ」
「空けます」
弁護士である以上、訴訟案件は最優先と倉橋は考えている。
「今担当してもらっている企業宛に訴状が届いたから。今日はその打ち合わせだ。お前、対応してくれるか?」
「もちろんです。どこですか?」
その企業名を聞いた倉橋は驚いた。
ただし、倉橋が驚いたようには、渡真利には見えないだろうが。
少しくらい、眉が動いたかな……くらいだろう。
一方の倉橋は少しだけ、動揺していた。
なぜなら、その企業名は宝条の会社だったから。
先日、割烹料理店から宝条を連れ出して、本当はゆっくり話をしたかったのに。
そのために行きつけのラウンジに連れて行こうと思っていたのに。
彼女はさっさとタクシーで帰ってしまった。
あんな風に、ホテルの目の前で女性に逃げられたことはない。
逃げたわけではないかもしれないが。
その宝条の会社。
「どこの部署ですか?」
「珍しく、傷害査定だな」
現在、傷害査定で法律相談を受けている案件は宝条の件だけだ。
本来ならそれくらい揉め事の少ない部署なのだ。
「どういうことです?」
「支払いがされないことで、腹を立てているんかな。未払いだと訴えを起こしているらしいな。そうなのか?」
「そんなバカな。時間がかかっているだけですよ。調査中です。そもそも疑義案件ですし」
「疑義案件……」
「過剰契約なんですよ」
過剰契約とは、いろんな保険会社と多重に契約をして、大した怪我ではないのに通院を長引かせ、複数の保険会社から保険金を搾取する、という詐欺紛いの行為だ。
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