フォンダンショコラな恋人

如月 そら

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6.黙秘します!

黙秘します!③

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そう言えばいつも淡々と敬語だったのに、いつの間にか倉橋はタメ口になっていた。
翠咲が持ってきた書類を倉橋は綺麗に整理しながら、キャビネットに入れてゆく。

「作業してくれる事務員さんとかいるんじゃないですか?」
「いるんだが、渡真利先生がちょっと忙しくて、そっちにかかりきりになっているんだ。まあ、片付けだしな」
「そうなんですね」
翠咲は次の山に着手し、それも整理して倉橋のところに持ってゆく。

ふと、手が重なった。
「あ、ごめんなさ……」
翠咲はどかそうとしたのだが、きゅっとその手が握られる。

倉橋はひどく真剣な顔をしていた。
「あ……の? 倉橋先生?」
「君はなぜ食事に誘ったのか聞いたよな」

え?その回答今⁉︎
だいぶ前に聞いたと思うんだけど。
どれだけ時差あんのよ⁉︎

そして『君と行きたいと思ったから、君を誘った』という分かったような、分からないような回答をもらったのではなかっただろうか。

そしてふと……昼間のキスを思い出し翠咲は赤くなって俯く。

それも『したかったからした』とか。

「君こそどうして一緒に行った? それにどうして今ここにいるんだ?」
「だ……って、元町ヴィラですよ倉橋先生! 断れるわけないじゃないですか! それに今…ここにいるのは、それは……お食事をご馳走して頂いたから、そのお礼というか」

倉橋は翠咲の手から資料を取り、キャビネにしまった。
そうして、翠咲の手を握り直す。

「じゃあ、もうひとつ聞こうか。なぜ昼間逃げなかった?」
何だか追い詰められている気がする。

っ……ズルい。こんな綺麗な顔で、相変わらず無表情なのに口調だけ妙に熱くて、逃さないと言わんばかりの……。

そんな言葉を証拠みたいにずらずら並べて……なぜ、なんて……。 

「なあ? なんで、そんなに可愛い顔で俯いてる?」
かっ、可愛い⁉︎
どこの誰が⁉︎誰に……っ。

「可愛くは……ないと……」
倉橋の手が翠咲の手を離れる。

翠咲は俯いたまま、それを見ていた。
この前もレストランで見た倉橋の手元。
すらりとした指が綺麗で、指を動かすと手の甲にすうっと筋が出るのが目に入る。

倉橋先生って、手も綺麗なのね…。
その手が、そっと翠咲の頬を撫でた。

「どうして今も逃げないんだ?」
逃げたい!けど……逃げたくない。
どうして?どうしてなんだろう……?

嫌いだって思ってた。
けど、割と悪くない人かもしれないって思って。そうだ、必ず翠咲を守ると言ってくれたのだ。

そしてそれを実行した。
それで、食事に行って。結構楽しくて……で、今日、キスされて。

近づく倉橋の顔を翠咲は見ていた。
ふわり、と重なる唇。

倉橋の唇の感触は翠咲は嫌じゃない。何度も優しく触れてくれるのも。

最初は唇が重なるだけのキスのはずだったのに、いつの間にかしっかり倉橋に抱きしめられていてその胸の中にいた。

「……っん」
鼻から抜けるような甘えるような声が漏れてしまって、その瞬間スイッチが入ったかのような倉橋に、口の中まで深く探られるようなキスをされる。

舌先で甘く絡めとるような、探るようなそのキスに翠咲はなすすべなく、ただ必死で息をして崩れ落ちないように、倉橋にしがみついていた。

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