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5.断れません
断れません④
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「全く、僕は何をしているんだか……」
倉橋が舌打ちしそうな勢いで袖を直す。
「素敵なお腕でしたよ?」
ギャルソンがにっこり笑った。
倉橋が珍しく気まずそうな顔をしている。
翠咲は遠慮なく笑ってやった。
「お、おもしろっ……倉橋先生、おもしろすぎです。腕とかまくります? 普通? ごめんなさい。以前に言ったの、訂正しますから。吹けば飛ぶなんて思ってないです」
「事実ではありませんから。今、証拠も確認しましたよね」
「先生、スイッチ入ってます」
翠咲がくすくす笑っている顔を倉橋は見ていた。
「君は……なんでそうなんだ?」
「そう?」
「そうやって笑ったりするんだ? っていうことだ」
「おかしかったら笑いますよ」
「嫌いだと言ってみたり、そうでもなかったと言ってみたり頼りにしていると言ってみたり、怒ったり泣いたり、笑ったり……」
「普通だと思うんですけど」
それよりもむしろ、倉橋の方が感情が動かなさ過ぎなのだ。
けれど、動いていないように見えて実は結構気にしていたり、ムッとしたり、自分だって任せなさいとか言って笑ったりしているのにと翠咲は思う。
普通の会話に中で証拠とか言うか?
それに、倉橋の気まずそうな顔なんて初めて見た。
「普通……か。僕はこんなふうに感情が動くことは珍しいんだ。けれど、不思議だな。それが君に動かされていると思うと悪くはないよ」
「私も先生のこと嫌いって言って、本当にごめんなさい。今はそんな風に思っていませんから。本当に頼り甲斐のある方だって思うし、今日も面白くて可愛いところもある人なんだなって思いました」
「は⁉︎ 今度は可愛い⁉︎」
「可愛いですよー、突然腕まくったりして。ムキになっちゃって」
「あれは、君が根も葉もないことを言うから証拠を見せようと思って……。だから笑うんじゃない」
気づまりかと思っていた倉橋と食事は思いの外楽しくて、気づいたらデザートになっていた。
「本日のデザートはフォンダンショコラです。温かいのでお気をつけください」
最後のデザートの皿がテーブルに乗せられる。
「うわー、大好き!」
翠咲はフォンダンショコラにそっとナイフを入れる。
中からとろりと温かいチョコがこぼれるのを見て、翠咲はつい笑顔が浮かんでしまった。
表面は固くて、すこし苦味がある。
けれど、中は熱くて甘いのだ。
「外は少し苦くて、このアイスの冷たいのと温かいフォンダンショコラの組み合わせはすごくいいんですよね。外は苦くて、中は温かい……で、冷たいのが合う」
……ん?この組み合わせ、どこかで見たような。
あ、倉橋先生だ。
「なんだか、先生みたいですね」
「人をお菓子みたいに……」
「違います。フォンダンショコラ、ですよ」
そう、倉橋は外は苦いけれど、中は温かい人だ。
そして、冷たいのが合う。
そんなところまで似ている。
「フォンダンショコラ、な……」
アイスの添えられたそれは、冷たくて温かくて、苦くて……甘い。
「君はこれが好きなんだ?」
「え? フォンダンショコラですよ! 好きなのは!」
「ふぅん?」
「ちょ……なんですか⁉︎ そのドヤ顔! やめてもらっていいです?」
「そんな顔はしていない」
「や、してますからっ!」
「そんなの分かるのは君くらいだよ」
くすくすと倉橋が楽しげに笑うので、しかもその顔はひどく魅力的だったりしたので、それ以上は翠咲は何も言えなくなってしまったのだった。
好きなのは、フォンダンショコラだもん。
別にフォンダンショコラみたいな先生が好きとは、一言も言ってないから!
倉橋が舌打ちしそうな勢いで袖を直す。
「素敵なお腕でしたよ?」
ギャルソンがにっこり笑った。
倉橋が珍しく気まずそうな顔をしている。
翠咲は遠慮なく笑ってやった。
「お、おもしろっ……倉橋先生、おもしろすぎです。腕とかまくります? 普通? ごめんなさい。以前に言ったの、訂正しますから。吹けば飛ぶなんて思ってないです」
「事実ではありませんから。今、証拠も確認しましたよね」
「先生、スイッチ入ってます」
翠咲がくすくす笑っている顔を倉橋は見ていた。
「君は……なんでそうなんだ?」
「そう?」
「そうやって笑ったりするんだ? っていうことだ」
「おかしかったら笑いますよ」
「嫌いだと言ってみたり、そうでもなかったと言ってみたり頼りにしていると言ってみたり、怒ったり泣いたり、笑ったり……」
「普通だと思うんですけど」
それよりもむしろ、倉橋の方が感情が動かなさ過ぎなのだ。
けれど、動いていないように見えて実は結構気にしていたり、ムッとしたり、自分だって任せなさいとか言って笑ったりしているのにと翠咲は思う。
普通の会話に中で証拠とか言うか?
それに、倉橋の気まずそうな顔なんて初めて見た。
「普通……か。僕はこんなふうに感情が動くことは珍しいんだ。けれど、不思議だな。それが君に動かされていると思うと悪くはないよ」
「私も先生のこと嫌いって言って、本当にごめんなさい。今はそんな風に思っていませんから。本当に頼り甲斐のある方だって思うし、今日も面白くて可愛いところもある人なんだなって思いました」
「は⁉︎ 今度は可愛い⁉︎」
「可愛いですよー、突然腕まくったりして。ムキになっちゃって」
「あれは、君が根も葉もないことを言うから証拠を見せようと思って……。だから笑うんじゃない」
気づまりかと思っていた倉橋と食事は思いの外楽しくて、気づいたらデザートになっていた。
「本日のデザートはフォンダンショコラです。温かいのでお気をつけください」
最後のデザートの皿がテーブルに乗せられる。
「うわー、大好き!」
翠咲はフォンダンショコラにそっとナイフを入れる。
中からとろりと温かいチョコがこぼれるのを見て、翠咲はつい笑顔が浮かんでしまった。
表面は固くて、すこし苦味がある。
けれど、中は熱くて甘いのだ。
「外は少し苦くて、このアイスの冷たいのと温かいフォンダンショコラの組み合わせはすごくいいんですよね。外は苦くて、中は温かい……で、冷たいのが合う」
……ん?この組み合わせ、どこかで見たような。
あ、倉橋先生だ。
「なんだか、先生みたいですね」
「人をお菓子みたいに……」
「違います。フォンダンショコラ、ですよ」
そう、倉橋は外は苦いけれど、中は温かい人だ。
そして、冷たいのが合う。
そんなところまで似ている。
「フォンダンショコラ、な……」
アイスの添えられたそれは、冷たくて温かくて、苦くて……甘い。
「君はこれが好きなんだ?」
「え? フォンダンショコラですよ! 好きなのは!」
「ふぅん?」
「ちょ……なんですか⁉︎ そのドヤ顔! やめてもらっていいです?」
「そんな顔はしていない」
「や、してますからっ!」
「そんなの分かるのは君くらいだよ」
くすくすと倉橋が楽しげに笑うので、しかもその顔はひどく魅力的だったりしたので、それ以上は翠咲は何も言えなくなってしまったのだった。
好きなのは、フォンダンショコラだもん。
別にフォンダンショコラみたいな先生が好きとは、一言も言ってないから!
応援ありがとうございます!
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