フォンダンショコラな恋人

如月 そら

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5.断れません

断れません③

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「ん、えっと、他にお声をかけたい方とかいらっしゃったんじゃないのかなぁって」
隣から、はぁ…と軽いため息の音が聞こえてきた。

「君と行きたかった、と言わなかったか」
「言いました」
けれど、理由が分からない。

だって、ため息とか……つくか?!

他に誘えばいくらでも行きたい!と言う人はいる場所で、この人ならば下世話な居酒屋だって一緒に行きたいという人がいるだろう。

少なくとも翠咲は、悪口を聞かれたり嫌いだと言ったりしてしまっている。

それは最初の頃よりは少しは理解し合えたかもとは思うが、倉橋だって、おそらく好意的には思ってはいないだろうと思うのになぜ翠咲なのか分からないのだ。

「君と行きたいと思ったから君を誘った。それ以外の理由はない」
きっぱりと言い返されたそれは論理的なようで、けれどやはり翠咲には疑問が残ったのだった。

だから、なんで私と行きたいと思うのよ?



「うわー。美味しいっ!」
前菜は彩りの良いマリネから始まった。
鰆を軽い燻製にしたものに野菜のマリネ、キャビア添え、だ。

華やかで、味も当然文句はない。
野菜までカラフルで綺麗だ。

「うん。燻製というだけあって、少しスモーキーな感じがいいな」
「繊細な味付けですねぇ。キャビアが合います」

倉橋がリザーブしていた席は、庭がよく見える窓際の席だった。
グリーンの映える庭が綺麗にライトアップされているのが、座っていても楽しむことができる。

雰囲気のいいお店、美味しい料理。
最初は自分が一緒なんて倉橋に申し訳ないようなと思ったけれど、いつもより倉橋が少し柔らかい雰囲気で、美味しそうに料理を食べるから段々気にならなくなった。

「よく行かれるんですか?こういうお店」
「いや……あまり。けれど、美味しいものは好きだな」

「誰でも、好きでしょ?」
「渡真利先生なんかは口に入って、腹がいっぱいになればいいと思っている」

あの豪快さなら、そんなエピソードも納得だ。
翠咲はくすくす笑ってしまう。
「豪快そうですもんねえ」

「そうだな。やっぱり君もああいう感じの人がいいんだろうか」
「あ、男らしい人? 素敵ですよね」

「言っておくが、僕だって休みの日にはジムに行ったりしている」
「はあ……」

なんの主張なんだろうか……。
はっ‼︎
以前の吹けば飛ぶ、をまだ気にしているんだろうか⁉︎

「倉橋先生も素敵だと思いますよ? 一般的に見て整った顔だし、シュッとしているし。おモテになるでしょ?」
「一般的……別にモテたい訳じゃないので」

「やっぱ、モテるんですね。もしかして、個人的に誘われたりしてたんですか?」
「え?なんで知って……」

「うわー、うちの女子とか中には肉食な人もいますから気をつけてくださいね」
「肉食……」

「先生なんて、食べられちゃいそう」
「だから、それなりに鍛えているから」
ムッとした倉橋が綺麗な指でシャツのカフスを外す。

肘の真ん中くらいまで軽く袖をまくった。
突然の行動に思わず、翠咲は目を瞠ってしまったのだった。

倉橋の細く、きゅっとしまった手首から腕の真ん中にかけてきれいに筋肉がうっすらとついているのが見える。
ぐっと握った手首の内側にはすうっと筋が浮き出ていて鍛えている、は本当のようだ。

「あら……」
「魚料理でございます」
とギャルソンがテーブルに皿を持ってきて、その話題は休題になった。
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