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4.お仕事しましょう
お仕事しましょう③
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「この案件の担当者でもあるんですけど、宝条は主任という役付きでもあるんです。ちょっとキャリアを積ませてやりたいので、今回は僕の補佐ということで入ってもらいます。まあ、あくまでも担当は僕なんですけどね」
沢村もにこにこしながら、迫力のある渡真利に呑まれることはない。
あくまで担当は自分なのだと言う。
「俺もセクハラで訴えられるようなことはしませんよ?」
「そんなこと言ってませんよ?」
「渡真利先生」
倉橋のひんやりとした声がその場に響く。
「仕事、しましょう」
「あ……はい」
この人はいつでも誰が相手でもそうなんだな、と翠咲は思った。
改めて、渡真利が書類を開いて説明する。
「まあ、訴状の内容は『俺が金欲しいって言ってんのに、保険会社が払ってくれないんですけどー』というような内容だな」
──そんな……。
電話でも相手の暴言に耐えながら何度も説明をして、文書も送っているのに。
そう思うと何とも言えない気持ちになる翠咲だ。
「倉橋、宝条さんの対応に何か問題はあったか?」
翠咲の様子を見て、あえて大きな声で渡真利がそう発言をした。
「いえ。僕の方でも確認していますけど、全く問題はありませんでしたね。確認中ということで、何度も先方に説明して連絡も取られていますし、重ねて文書でもお願いしている。配達記録で送付されていることも確認できていますから、問題はないかと思います。」
「だから、宝条さん、そんな顔しなくていいんだ。」
優しく渡真利にそう言われて、気づいたら、翠咲の瞳から涙がこぼれ落ちていた。
課長である沢村が困ったような顔をしている。
止めなければ、と思うのに、妙に安心してしまったら、こぼれ落ちる涙を止めることができなかったのだ。
「…っ、ご、ごめんなさい……」
「いいよ。不安だったよな。それに訴えられているのは宝条さんじゃないんだ。君はたまたまこいつの担当になっただけ。会社が訴えられているんだから、あとは会社が考えることなんだから、大丈夫なんだよ」
「案件は僕が引き継ぐから、無理なら手伝わなくていいんだよ」
「……ちがっ、課長ありがとうございます。……私……」
倉橋にはいつも不足している、と言われていたから、きっと自分には足りないものがあるんだと思っていて、まさか問題ないと倉橋弁護士が今この場で言ってくれるなんて思わなかったのだ。
「す、すみません、ちょっと外します。あの……私、サブはしますので課長よろしくお願いします。
「うん。無理ならいつでも言ってな」
「ありがとうございます」
泣くなんてカッコ悪すぎる。
席を立ち、翠咲はハンカチとポーチを持ってお手洗いに行く。
けれど、倉橋の言葉だったり課長の優しさだったり、渡真利の頼り甲斐だったり。そんなものに気持ちが揺り動かされて、急に込み上げてしまったのだ。
鏡を見て、目が真っ赤になっているのを確認した。鼻水までこぼれそうなので、しっかり鼻もかんだ。
そうして、洗面所の水で少し目元を冷やす。
みんなを困らせるつもりはなかったのだ。
ただ、間違っていなかったのだと知って、安心しただけなのだ。
役席なんだから、みんなの前ではこんな顔は見せられない。
沢村もにこにこしながら、迫力のある渡真利に呑まれることはない。
あくまで担当は自分なのだと言う。
「俺もセクハラで訴えられるようなことはしませんよ?」
「そんなこと言ってませんよ?」
「渡真利先生」
倉橋のひんやりとした声がその場に響く。
「仕事、しましょう」
「あ……はい」
この人はいつでも誰が相手でもそうなんだな、と翠咲は思った。
改めて、渡真利が書類を開いて説明する。
「まあ、訴状の内容は『俺が金欲しいって言ってんのに、保険会社が払ってくれないんですけどー』というような内容だな」
──そんな……。
電話でも相手の暴言に耐えながら何度も説明をして、文書も送っているのに。
そう思うと何とも言えない気持ちになる翠咲だ。
「倉橋、宝条さんの対応に何か問題はあったか?」
翠咲の様子を見て、あえて大きな声で渡真利がそう発言をした。
「いえ。僕の方でも確認していますけど、全く問題はありませんでしたね。確認中ということで、何度も先方に説明して連絡も取られていますし、重ねて文書でもお願いしている。配達記録で送付されていることも確認できていますから、問題はないかと思います。」
「だから、宝条さん、そんな顔しなくていいんだ。」
優しく渡真利にそう言われて、気づいたら、翠咲の瞳から涙がこぼれ落ちていた。
課長である沢村が困ったような顔をしている。
止めなければ、と思うのに、妙に安心してしまったら、こぼれ落ちる涙を止めることができなかったのだ。
「…っ、ご、ごめんなさい……」
「いいよ。不安だったよな。それに訴えられているのは宝条さんじゃないんだ。君はたまたまこいつの担当になっただけ。会社が訴えられているんだから、あとは会社が考えることなんだから、大丈夫なんだよ」
「案件は僕が引き継ぐから、無理なら手伝わなくていいんだよ」
「……ちがっ、課長ありがとうございます。……私……」
倉橋にはいつも不足している、と言われていたから、きっと自分には足りないものがあるんだと思っていて、まさか問題ないと倉橋弁護士が今この場で言ってくれるなんて思わなかったのだ。
「す、すみません、ちょっと外します。あの……私、サブはしますので課長よろしくお願いします。
「うん。無理ならいつでも言ってな」
「ありがとうございます」
泣くなんてカッコ悪すぎる。
席を立ち、翠咲はハンカチとポーチを持ってお手洗いに行く。
けれど、倉橋の言葉だったり課長の優しさだったり、渡真利の頼り甲斐だったり。そんなものに気持ちが揺り動かされて、急に込み上げてしまったのだ。
鏡を見て、目が真っ赤になっているのを確認した。鼻水までこぼれそうなので、しっかり鼻もかんだ。
そうして、洗面所の水で少し目元を冷やす。
みんなを困らせるつもりはなかったのだ。
ただ、間違っていなかったのだと知って、安心しただけなのだ。
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