フォンダンショコラな恋人

如月 そら

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3.帰ります

帰ります②

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書類からも、よく分かった宝条の性格。
真面目で正義感が強いのだ。

「酔いそう。お水、もらってくる」
「一緒にいきましょうか?」
「ん、平気……」
ふわりと宝条が立った気配がしたので、倉橋も席を立った。

大将に水を依頼した宝条は奥の御手洗に向かったようだったので、倉橋はその場に立って待つことにした。

待ってどうするんだろう……。
そんなことも一瞬考える。

何だか分からないけれど、とにかくショックだったり、少し腹立たしい気持ちだったり言い訳したいような……いや、むしろ宝条の見解を聞きたいと思ったのだ。

大将からお水をもらった宝条は、本当にかなり深酔いしているように見えた。

あまり考えたくはないが、それが自分のせいだとしたら、
……せいだとしたら、なんだろう。

そんなことをとりとめなく考えていたら、大将から水をもらった宝条が隣でこくこくと水を飲んでいるのが目の端に映った。

と言うか気付かないものだろうか?

「ありがとう」
そう言ってコップをカウンターに置いた宝条が席に戻ろうとするのに、つい前に立ってしまった。

ん?となった宝条が避ける。
さらに、その前に立つ。

さすがに違和感を感じたのか、宝条が顔を上げた。

「あ、すみませ……」
顔を上げた宝条が、目を大きく開く。

「宝条さん、でした? 僕、そんなに感じ悪いですか?」

あ、これは言っておかなくては。
「ちなみに、吹いたくらいじゃ折れませんから」

どこから聞いてたの?何を聞いてたの?と顔に書いてある。
とても、正直な人だ。

倉橋はそれを読み取ったように、話を続けた。
「別件で別の席にいたんですけど、同席の方がここに知り合いがいると言うので、端の方に紛れさせて頂いていたんですが」

はわはわしている宝条が言葉をなくしたような、何かを言わなければという顔をしている。

それは倉橋にとっては、いつもきりりとしていて隙のないような人の妙に隙のある慌てたようなその姿は、不思議とアンバランスな気がして可愛らしさを感じたのだ。

倉橋は宝条の言葉を待つ。
「ご……ごめんなさい」
やっと発した言葉はそれだった。

すみませんとか、ごめんなさいとか、喧嘩腰でなければお詫びの言葉しか聞けないのだろうか。
少しがっかりする。

「何に対して? 事実ではないことですか? 事実確認をしないで中傷しようとしたこと?」
もっと他のことを、宝条の口から聞けないものなのだろうか。

そう思った倉橋の語調は知らずきつくなっていたかもしれない。

「中傷とか……そういうことでは……っ」
確かに中傷、という表現は少し大袈裟だ。正しくない。

「そうですね。その言い方も適正ではなかった。別に僕の名誉を傷つけられたとかではないので。単なる悪口ですかね」

宝条が下唇を噛み締めたのを見て、しまった、言い過ぎたかもしれないと思ったその瞬間だ。

「あなたのそういう所が嫌いなのよ」
「え……」
自分が鳩なら、豆鉄砲を食らうとこんな顔になるのではないか。

口にした宝条もしまったという顔をしている。

自分は感じが良いとは思わないが、それでも嫌いだと正面切って言われたことはない。
咄嗟に倉橋は宝条の腕を掴んで壁に押し付けた。

「僕はね……あなたのことを嫌いではないですよ」

なにを考えているのか、それとも考えていないのか静かな眼で見返してくる宝条が無防備で、こんな無防備な宝条の姿は見たことがなかった。

「全く、そういうところ……ね。詳細に聞きたいですね、宝条さん」
一瞬で立ち直った倉橋に比べて、酔っているのか宝条はキョトンとしたままだ。

倉橋は宝条の手を掴んで「荷物はどこです?」と尋ねる。
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