フォンダンショコラな恋人

如月 そら

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2.ボタンをかけ違うとズレる

ボタンをかけ違うとズレる③

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呆れたような顔をされたのはなぜだろうか。

「そういう訳じゃないですけど」
つい、なんでも先走るというか、先手を打っておきたい性格なのだ。

──ニーズを汲む……。割と苦手かも知れない。

「そんな顔しなくても大丈夫! 係争になれば、事務所の総力挙げてお前をサポートするし、まずは今日のところは話を聞いてこいってことだから。あと、担当者で話にならなければ上席を呼べよ」
「分かりました」

まるで初めてのおつかいのように、渡真利にお見送りされながら、そのクライアントのところに向かったのだ。

相談は部署ごとに何件かあって、確かに渡真利の言う通り、法律や判例の見解を聞きたいということの方が多かった。

むしろ、こういう文言を付けて支払いをしても構わないかという相談も多く、倉橋としては、この文言は言い回しを変えた方がいいとか先方に伝える場合はここをポイントに、といアドバイスがメインの業務のようだ。
確かに気負わなくていいらしい、と感じた。

そしてある日、名刺交換をした担当者が名刺に個人携帯を記載して寄越した。

「相談があったら、ご連絡したいんですけど」
「では、書面で詳細をください」
「……いえ、そうではなくて個人的に……」
個人的に相談。

「契約は会社との契約なので、個人的な相談はお受けしていないんですが。もし、ご相談されたいなら、僕も事務所に確認を……」
「違いますよぉ……。もう、いいです」

こっちが真面目に回答しているのにもういいですとは、少し失礼な人だな、と思い事務所に帰ってその話をしたら、渡真利に爆笑された。

「お前それは、逆ナンだろ‼︎」
「逆ナン……」
ん?それは逆ナンパ、とかいうやつか⁉︎
しかも『パ』しか略されていないんだが、それ略す意味あるか?!

「相変わらず自覚ねーなー。お前さあ、そこそこ綺麗な顔してんだよ、本当に。なのに、その割り切った性格。そして、その恋愛系のアプローチからのとことんのニブさ。ウケる! 個人的な相談、で気づけよ!」

「気付かないでしょう、普通。相談と言われれば相談かな、と思うじゃないですか」
倉橋はその綺麗な顔に呆れの色を浮かべた。

「まあ、担当者は女性もいるから気をつけてな。今回はそんなんで終わったからいいけどセクハラされたとか言われたら困るから。怪しい感じなら最初から上司を同席させた方がいい」

「分かりました」

しかしまさか、そんなことがあるとは思わなかったが、気をつけようと倉橋は思う。

そんな時に宝条翠咲に会った。

先日のことがあったばかりの倉橋は、渡真利の言っていた女性担当者というやつなのかと思い、少し警戒したのだ。

しかし、彼女は硬い表情で会議室に入ってきた。
名刺交換や挨拶もそこそこに、書類をテーブルに広げる。

「失礼します」

倉橋はこの人なら大丈夫と思い、書類を確認した。

書類にはある程度の形式はあれど、そこから読み取れるものもある。
例えば、人柄。

マニュアルに沿っただけのものならば、もちろんそれほど理解することはできないのだが、宝条の作成した書類からは彼女の真面目な人柄が滲み出ていた。

むしろ、丁寧で真面目すぎるくらいだ。
この前のようなことはないらしいと、安心して倉橋も真剣に書類を確認する。

「どうですか?先」
「ん……たしかに仰る様に、疑義があるとお考えになるのは分かりますが、ここにある書類だけで判断することは難しいと思います」
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