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2.ボタンをかけ違うとズレる
ボタンをかけ違うとズレる②
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さほど、仲が良いわけでもなかったと思うのだが、にこにこしながらそんなことを言うので、つい了承してしまったものだ。
なんとなく待ち合わせして、店に行くと、
「ホントに来た!」
と笑顔になった。
いや、呼んでおいてそれはないだろうと思ったら
「頭の良いお前のことだから、察して来ないんじゃないかと思って」
とにこにこしていた。
「飲みたいんじゃないんですか?」
「言葉通りに取ったな」
店に呼ばれたのは、仕事のオファーだったのだ。
「学生の時から飛び抜けて顔が綺麗で、飛び抜けて頭が良かったから、気にはしていたんだ。もう、弁護士として法廷に出ているから、優秀なんだな。大手は大手なりの面白さがあるんだろうが、うちでやる気はないか?」
事務所は小さいけれど、企業と顧問契約をしているから、暇ではないと大きな声で話す。
別に今の事務所に不満はなかったけど、思った感じと違うと感じていたのは否めない。
「小さいことには間違いがないから、なんでも自分でやるんだぞ」
今の事務所では言わば、シニア弁護士の下働きのような感じで、肩書きは弁護士ではあるものの、実際はアシスタントのようなものだなと感じることも多かった。
代理人として出廷するのも主に先輩弁護士で、自分は資料の用意だのなんだのである。
なんでも自分でやる、しかも今までの事務所の経験も役立つ。
このまま飼い殺しにされたり、大手で出世を待つのもどうなんだろうと思っていた矢先だった。
「やります」
「え⁉︎ マジ⁉︎」
自分で声をかけておいて、マジはないだろう。
「本気じゃないんですか? 割とその気になったんですけど」
「お前、面白すぎるんだが。独特だな、そのペース」
それからは、渡真利の事務所で仕事をしている。
小さいけれど暇ではないの通りで、代々弁護士の家系だという『渡真利法律事務所』は大手から、中小から結構企業関連の契約が多く、法廷での係争に至らないまでも専門家である弁護士の見解が必要な事案は多い。
もちろん、それ以外にも法律相談なども受けることがあり、渡真利に言わせると
「正直、倉橋が来てくれなかったら、事務所が回らなかったかもしれない」
とは大袈裟な事でもないのかもしれないと思った。
その中で、大きな顧問先の一つがこの保険会社だった。
保険会社は係争があるので、顧問弁護士を何人も抱えている。
最大手では何百人と抱えている会社もあるくらいだ。
けれど、その中でも比較的フットワークの軽い『渡真利法律事務所』は非常に重宝されていると言っても間違いではない。
その保険会社での担当を任されるようになって、数ヶ月、傷害査定という部署で呼ばれていると聞いて向かった。
『傷害査定は言っても案件としては軽いから、そこまで力まなくていいからな』
が渡真利の説だった。
前日に約款を確認し、訴訟案件や判例の確認をする。
自動車対自動車の交通事故などのように、相手がある訳ではないが、仮に支払いはしないと保険会社が判断する場合は、その理由を保険会社側が証明しなければいけないというのが厄介だと思った。
消費者有利、が原則なのだ。
契約者保護、とも言われる。
それを乗り越えるためには、相当の証拠がないと万が一係争になった場合に負ける可能性があると思った。
法廷で係争になっても、負けないくらいのもの。
朝、出る前に、渡真利と案件の打ち合わせになった際にその話をした。
「お前、真面目過ぎ。行けば分かるけど、傷害保険の査定案件で係争にまで発展するケースは基本少ない。担当者は法律のプロの意見を聞きたい、お墨付きを貰いたいという事もあるから気負わずに。向こうのニーズも汲みながら動いてくれ。意外と喧嘩っ早いな、お前は」
なんとなく待ち合わせして、店に行くと、
「ホントに来た!」
と笑顔になった。
いや、呼んでおいてそれはないだろうと思ったら
「頭の良いお前のことだから、察して来ないんじゃないかと思って」
とにこにこしていた。
「飲みたいんじゃないんですか?」
「言葉通りに取ったな」
店に呼ばれたのは、仕事のオファーだったのだ。
「学生の時から飛び抜けて顔が綺麗で、飛び抜けて頭が良かったから、気にはしていたんだ。もう、弁護士として法廷に出ているから、優秀なんだな。大手は大手なりの面白さがあるんだろうが、うちでやる気はないか?」
事務所は小さいけれど、企業と顧問契約をしているから、暇ではないと大きな声で話す。
別に今の事務所に不満はなかったけど、思った感じと違うと感じていたのは否めない。
「小さいことには間違いがないから、なんでも自分でやるんだぞ」
今の事務所では言わば、シニア弁護士の下働きのような感じで、肩書きは弁護士ではあるものの、実際はアシスタントのようなものだなと感じることも多かった。
代理人として出廷するのも主に先輩弁護士で、自分は資料の用意だのなんだのである。
なんでも自分でやる、しかも今までの事務所の経験も役立つ。
このまま飼い殺しにされたり、大手で出世を待つのもどうなんだろうと思っていた矢先だった。
「やります」
「え⁉︎ マジ⁉︎」
自分で声をかけておいて、マジはないだろう。
「本気じゃないんですか? 割とその気になったんですけど」
「お前、面白すぎるんだが。独特だな、そのペース」
それからは、渡真利の事務所で仕事をしている。
小さいけれど暇ではないの通りで、代々弁護士の家系だという『渡真利法律事務所』は大手から、中小から結構企業関連の契約が多く、法廷での係争に至らないまでも専門家である弁護士の見解が必要な事案は多い。
もちろん、それ以外にも法律相談なども受けることがあり、渡真利に言わせると
「正直、倉橋が来てくれなかったら、事務所が回らなかったかもしれない」
とは大袈裟な事でもないのかもしれないと思った。
その中で、大きな顧問先の一つがこの保険会社だった。
保険会社は係争があるので、顧問弁護士を何人も抱えている。
最大手では何百人と抱えている会社もあるくらいだ。
けれど、その中でも比較的フットワークの軽い『渡真利法律事務所』は非常に重宝されていると言っても間違いではない。
その保険会社での担当を任されるようになって、数ヶ月、傷害査定という部署で呼ばれていると聞いて向かった。
『傷害査定は言っても案件としては軽いから、そこまで力まなくていいからな』
が渡真利の説だった。
前日に約款を確認し、訴訟案件や判例の確認をする。
自動車対自動車の交通事故などのように、相手がある訳ではないが、仮に支払いはしないと保険会社が判断する場合は、その理由を保険会社側が証明しなければいけないというのが厄介だと思った。
消費者有利、が原則なのだ。
契約者保護、とも言われる。
それを乗り越えるためには、相当の証拠がないと万が一係争になった場合に負ける可能性があると思った。
法廷で係争になっても、負けないくらいのもの。
朝、出る前に、渡真利と案件の打ち合わせになった際にその話をした。
「お前、真面目過ぎ。行けば分かるけど、傷害保険の査定案件で係争にまで発展するケースは基本少ない。担当者は法律のプロの意見を聞きたい、お墨付きを貰いたいという事もあるから気負わずに。向こうのニーズも汲みながら動いてくれ。意外と喧嘩っ早いな、お前は」
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