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1.あなたのそういうところが嫌いです
あなたのそういうところが嫌いです④
しおりを挟むとても感じの良い子だな、という印象だった。
あちこちに知り合いのいるタイプなので、この日の飲み会でも、翠咲の横に来たのは、会も落ち着いた頃合いだった。
「お疲れ様」
「ふにゃー、お疲れ様です」
先程までシャキシャキ挨拶して回っていたのに、翠咲の横でふんにゃりするのはとても可愛い。
「コルセンはどう?」
「うん、生徒さんも育ってきていますし、スタッフの仲が良くていい感じです。あと、上司に恵まれました」
「そうか、新人研修もしているのね」
「はい。初めてのことだらけで、緊張しますけど、やりがいはすごくあります」
キラキラとしている表情を見ると、こちらも元気になる。
保険会社のコールセンターというのは、基本的に24時間対応する。
そのため、夜勤があるのだが、その夜勤のメインの責任者である佐野が高槻の直属の上司であったはずだ。
夜のコールセンターは昼間とは違うらしいが、それを切り盛りする猛者が佐野なのである。
本人も、猛者に相応しい出で立ちだ。
180センチを超える身長と、がっしりした身体。
また、声が良くて、低くてよく響く声はお客様ですらうっとりしてしまう、と聞いたことがある。
以前、一度電話で話したことがあるが、電話で話した瞬間、「いい声ですね」と言いたくなるような人だ。
翠咲がつい言ってしまった時も「よく言われます」と笑いを含んで返された。
きっと言われ慣れているのだろう。
けれどあの上司の元ならば働きやすそうだ。
コールセンターは業務が大変な分、人間関係が良くなければやっていけない。
「楽しそう。良かったね、結衣ちゃん」
「ありがとうございます」
自分も悩んでばかりはいられないなと思いつつ、結衣の人脈の多さに、ふと思い立って聞いてみた。
「結衣ちゃん、うちの顧問弁護士知ってる?」
「はい。お若いですけど、ハキハキされてて、感じの良い方ですよね?」
これが他の人ならば、反論はしないのだが、他ならぬ結衣である。
「皆、感じ良いって言うんだけど、私にだけ感じ悪いのかしら。
「ん? 感じ悪かったです? 体育会っぽい人ですよね。がははって感じの」
「体育会? 全然。むっちゃ線の細い、どっちかって言うと理数系な感じ」
倉橋のイメージを思い出しつつ、翠咲は結衣にそう伝えた。
そして、あの淡々と理詰めで無表情に詰められた時の事を思い出し、ムカムカしてくる。
翠咲は思わず、目の前の生搾りレモンサワーを煽ってしまった。
「ごつく、ないです?もう、佐野さんばりの。」
「細っそい。吹いたら折れそう」
その顧問弁護士についてはいい印象がないし、翠咲よお酒が入っているので若干の口の悪さは勘弁して欲しい……しかし、同一人物で、こうも印象が変わることがあるだろうか?
「別人よね?」
「……ですね。身長どれくらいです?」
「175センチ……前後かなぁ。佐野さんとは対極みたいな人だよ?」
「宝条さん、それ、絶対別人ですよ」
「そういう事かあ……」
別に自分だけに感じが悪かったわけではなかったのだと分かって、翠咲は安心した。
しかし、感じが悪いことは否めない。
「確か、私が知っている顧問弁護士さんは、以前からの先生のご子息で、若先生だと聞いています。今はその若先生が事務所を継いでらっしゃるはずですから、事務所の他の先生が来ていらっしゃるのかも知れませんね」
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