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1.あなたのそういうところが嫌いです
あなたのそういうところが嫌いです③
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翠咲の仕事はこの案件だけではない。
社員からの相談にも乗ってアドバイスしなくてはいけないし、自分のチームの進捗も確認しなくてはいけない。
パソコンに向かって、上がってきた書類を確認しながら、一瞬動きが止まる。
──もう、払ってしまおうかな……。
そうしたら、こんな案件いつまでも抱えなくて済むのだし、あの超絶に感じの悪い弁護士と話をしなくて済む。
逃げた方が楽。
そんなことは分かっている。
けれど……翠咲には無理だった。
あの時、あの放火事件の時、仏が翠咲に言ったのだ。
表彰が決まった時、翠咲は絶対に嫌だと泣いた。
自分の手柄ではない。むしろ自分は誤った選択をしようとした。
それを水際で止めてくれたのは、上司なのに……。
『宝条さん……、宝条さんにとって、今回の件はもしかしたら不本意かもしれない』
仏はとても穏やかな顔で翠咲を見ていた。
『けれど、この経験は君にとっていい経験になったと思うし、僕は君はいい査定人になれると思う。保険会社にとって、支払い保険金は大事なお客様をお助け出来る機会であり、それが本来の仕事なんだよ。お預かりしているお金を適正に払う。それは義務だと思う』
仏がかっこよく輝いて見えた瞬間だ。
後光が差して見えた。
この人がそう言うなら表彰は受けよう。そう思えたくらいだ。
査定部署には基本中の基本のことではあるけれど、その基本をブレずにいることがどれほど難しいか。
むしろその基本がしっかりしているからこそ、不正を見抜けたのではないかと翠咲は思っている。
『困った時に、困った人に』
それが、翠咲のプライドだ。
何かあった時のために、と何年も掛けて下さって、支払いの際に『お手を煩わせちゃって、ごめんなさいね。今後は気をつけます』と言ってくださる方がいる。
『本当に大変だったから、支払ってもらって、とても助かったわ』と言ってくださる方も。
翠咲にはそんなお客様こそ、大事なお客様だ。
そんな人達をがっかりさせるようなことはしたくない。
やっぱり間違っていることに、妥協はできない。
で、あれば認めさせるしかない。
誰にか……まずは、あの弁護士である。
本社から近いその割烹は、翠咲達、傷害査定グループの、馴染みの店だ。
お刺身が美味しいことと、半個室に分けてくれていることで、話もしやすいし、行きやすい。
この日は部門会議があり、翠咲もそれに参加していた。
会議の後は懇親会と相場が決まっていて、先程皆でこの馴染みの割烹になだれ込んだところだ。
そして、そこには、少し前に転勤していった、仲の良い友人も来ていた。
もともと、彼女は同じ傷害査定という部署にいて、少し離れた島のチームだった。
友人でもある高槻結衣は飲み会にも参加してくれるノリの良い子で、仲良くなったのもそれがきっかけだ。
今はコールセンターでスーパーバイザーとして働いていると聞いた時は、高槻ならば出来るだろうと思った。
高槻が電話をしているのを、通りすがりに聞いたことがある。
耳触りが良いというのか、澄んでいて高くも低くもない声で穏やかに柔らかく話す。
話している内容も、約款がしっかり頭に入っていないと話せないような内容で、勉強もしっかりしているのだと思われた。
社員からの相談にも乗ってアドバイスしなくてはいけないし、自分のチームの進捗も確認しなくてはいけない。
パソコンに向かって、上がってきた書類を確認しながら、一瞬動きが止まる。
──もう、払ってしまおうかな……。
そうしたら、こんな案件いつまでも抱えなくて済むのだし、あの超絶に感じの悪い弁護士と話をしなくて済む。
逃げた方が楽。
そんなことは分かっている。
けれど……翠咲には無理だった。
あの時、あの放火事件の時、仏が翠咲に言ったのだ。
表彰が決まった時、翠咲は絶対に嫌だと泣いた。
自分の手柄ではない。むしろ自分は誤った選択をしようとした。
それを水際で止めてくれたのは、上司なのに……。
『宝条さん……、宝条さんにとって、今回の件はもしかしたら不本意かもしれない』
仏はとても穏やかな顔で翠咲を見ていた。
『けれど、この経験は君にとっていい経験になったと思うし、僕は君はいい査定人になれると思う。保険会社にとって、支払い保険金は大事なお客様をお助け出来る機会であり、それが本来の仕事なんだよ。お預かりしているお金を適正に払う。それは義務だと思う』
仏がかっこよく輝いて見えた瞬間だ。
後光が差して見えた。
この人がそう言うなら表彰は受けよう。そう思えたくらいだ。
査定部署には基本中の基本のことではあるけれど、その基本をブレずにいることがどれほど難しいか。
むしろその基本がしっかりしているからこそ、不正を見抜けたのではないかと翠咲は思っている。
『困った時に、困った人に』
それが、翠咲のプライドだ。
何かあった時のために、と何年も掛けて下さって、支払いの際に『お手を煩わせちゃって、ごめんなさいね。今後は気をつけます』と言ってくださる方がいる。
『本当に大変だったから、支払ってもらって、とても助かったわ』と言ってくださる方も。
翠咲にはそんなお客様こそ、大事なお客様だ。
そんな人達をがっかりさせるようなことはしたくない。
やっぱり間違っていることに、妥協はできない。
で、あれば認めさせるしかない。
誰にか……まずは、あの弁護士である。
本社から近いその割烹は、翠咲達、傷害査定グループの、馴染みの店だ。
お刺身が美味しいことと、半個室に分けてくれていることで、話もしやすいし、行きやすい。
この日は部門会議があり、翠咲もそれに参加していた。
会議の後は懇親会と相場が決まっていて、先程皆でこの馴染みの割烹になだれ込んだところだ。
そして、そこには、少し前に転勤していった、仲の良い友人も来ていた。
もともと、彼女は同じ傷害査定という部署にいて、少し離れた島のチームだった。
友人でもある高槻結衣は飲み会にも参加してくれるノリの良い子で、仲良くなったのもそれがきっかけだ。
今はコールセンターでスーパーバイザーとして働いていると聞いた時は、高槻ならば出来るだろうと思った。
高槻が電話をしているのを、通りすがりに聞いたことがある。
耳触りが良いというのか、澄んでいて高くも低くもない声で穏やかに柔らかく話す。
話している内容も、約款がしっかり頭に入っていないと話せないような内容で、勉強もしっかりしているのだと思われた。
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