上 下
25 / 75
1章の閑話 

卵と残り少ない食材(異世界四日目)イリスとのおしゃべり

しおりを挟む
 再び、馬車に乗り込みました。さて、再出発です。

 朝と同じように御者台にはエルムとイーヴァ。馬二頭にはサパンとシェヌが 各々騎乗しています。馬車の中には私とイリスです。
 
 イリスにはなるべく迷惑をかけないようにしないといけませんわね。
 でもね、乗ってるだけって、暇ですよ?

「ねえ、イリス? 乗ってるだけって暇だから何かできないかしら……」 

「できるなら、おとなしくしておいてください……」

「はい……」

 できるだけ、おとなしく……



 あ、そうだわ。私が出来ることがあまりないなら、イリスに話をしてもらえばいいんじゃないかしら。そうね、これからこの世界で暮らしていくのよね。
 だったら…… そうここは外国、私は漂流者。ロビンソン・クルーソーみたいなものよ。運の良いことに私は荷物も、お金もあるのだし。あとはこの世界の常識を覚えなくっちゃ。イリスや皆に私の常識を分かって貰うのもいいんだけど、私はここで生活していくのよね。
 だったら、私はまずここの常識を知ることを頑張らなくては。ただ、覚えても直ぐ忘れちゃうのよね……
 どうしたらいいのかしらね……

 まあ、何度も聞けばいつかは覚えるでしょう。たぶん……

「イリス…… お願いがあるんだけどいいかしら」

「コーユさま?」

「今ね、考えたんだけど。こんな揺れるところじゃ、魔法とかは無理でしょ?」

「そうですね……」

「じゃあ、この国の歴史とか、経済とか、面白い事を話して貰える?」

「歴史? 経済? ですか?」

「そう! あとは、昔話とか?」

「わたしのですか……」

「えっ? あ、違うわよ。えっと、小さい頃にお母さんとかに聞いたことない? 伝承…… えっと、童話? とか?」

「童話? なんです? それは……」

「えっと…… 周りの人が話してくれた冒険譚とか? 不思議な話とか? 」

「冒険者の話なら、エルムやシェヌの方が詳しいとおもいますが」

「えっと…… そういうのも含めて色々なお話。あ、英雄の話とか、魔王の話とか…… 子供に聞かせる話よ」

「英雄…… 魔王……」

「む、無理には言わないわよ?」

 イリスが考え込んでいます。

「あ、料理の話でもいいわよ」

「料理…… どういうのですか?」

「今までイリスが食べたことあるお料理よ」

「料理はあまり得意ではなくて……」

「食べたことある料理でいいわよ。どんなお肉があるの? どんなお魚を食べるの? お野菜は? 果物は? イリスの好きな味は?」

「昨日の朝のスープが美味しかったです。今まで食べたものの中で一番…… 」

「あら。あんなに簡単なものでいいの?」

「か、かんた……」

「そうよ。切って煮ただけだし」

「コーユさまのご飯は美味しいと思います」

「あら、嬉しいわ。ねえ、イリス達って普段はどんな物をたべてるのかしら」

「普段ですか? 旅の途中はだいたい堅焼きのパンと干し肉です」

「お野菜は?」

「たまに木の実を食べます」

「野菜は無いのね?」

「ええ。日持ちしないので」

「じゃあ、旅の途中では無いときは?」

「屋台や宿の食堂などで食べます」

「どんなものが売ってあるの?」

「先日ご一緒した時のような焼いた肉や果実水、スープ等です。たまに野菜と肉の煮込みなどで」

「味付けは? あの宿や屋台のような塩味だけなの?」

「私たちはそんな感じです」

「イリスは学校に行ってたのよね? そこでも一緒なの」

「私が食べていた食堂ではだいたい同じです」

「ふぅん…… だいたいって事は、違う味もあったのよね?」

「はい。食べたことは無いですが、高位の方々の食堂は違ったようです」

「食堂自体が違うのね?」

「ええ。平民と貴族は部屋が違っています」

「じゃあ、どうやって自分達と違う味って思うの?」

「臭いですかね…… 」

「香り…… ね……」

 香辛料があるのかしらね。

「じゃあ、飲み物は?」

「普段は水ですね」

「普段じゃ無いときは?」

「私は果実水です…… 男性はお酒? かな?」

「お茶って無いの?」

「それは高いので……」

「お茶自体はあるのね?」

「あ、はい。ただ大商人や高位貴族が飲むものなので」

「お店はあるんでしょ?」

「有ります。でも…… 店に入ったことも無いです」

「分かったわ。じゃあ今度、買いに行きましょうね。私が飲みたいもの」

「…… はい……」

 イリスがちょっと遠い目をしています。どうしてかしらね。
 あ、あとあの食材は?

「イリス? 卵って食べたことはある?」

「卵?」

「そう。市場で見かけなかったのよ」

「卵って…… 食べるんですか?」

「食べないの? えっ? 」

「えっ? だって……」

 うん。そうね、ここはちゃんと聞かないと。

「私の国では食べていたの」

「えっ? ええーっ!!」

「はぁ。そうなのね。食べないのね?」

「だって、卵抱えてる魔獣って普段より狂暴になってるんですよっ?!」

「…… まさか、普通の鳥っていないの?」

「鳥…… なんで鳥なんです?」

「鳥の卵が食べたいから……」

 あ…… ここでも、話がすれ違ってる……

「鳥っているわよね?」

「はい……」

「鳥は食べる?」

「たまに……」

「どうやって手に入れてるの?」

「たまに捕れるらしいので……」

「誰が捕ってるの?」

「猟師や冒険者です」

「イリスも冒険者よね? 鳥は捕る?」

「依頼は受けたことがないです。だいたい飛んでるじゃないですか」

「飛んでるのは捕れないの?」

「わざわざは捕らないです…… って」

「卵は? 鳥の卵って……」

「巣が運良く見つかればとるかも知れないですけれど」

「巣は?」

「普通…… わざわざは探さないです」

「残念ね…… おいしい料理がかなり少なくなるわ」

 がたっ、がたがたっ!!
 い、イリス…… 馬車の中ではたたない方がいい……
 がしゃんっ!
 だ、大丈夫? イリスの動きにビックリですわ。

「イリス…… だいじょうぶ?」
 
「美味しいんですか? 美味しいものが沢山出来るんですか?」

「え? ええ、出来るはずよ? お菓子もパンもおかずも…… 」

 …… …… イリス…… イリスー…… ねえったら……
 聞こえてないわね、これは。

「イリス、新鮮な卵じゃないとできないわよー」



 イリス…… ずっと考え込んじゃってるわね。
 すること、無くなっちゃったわ。
 じゃあ……
 荷物の整理でもしようかしら。食べ物がどれくらいあるのか、どれくらい持つのか分かってなくっちゃね。
 えっと、えっと。ポケットがさがさ。無限収納インベントリから風呂敷やスカーフに包まれた食材を出しましょう。よっこいしょっと。
 
 キャリーの中からは
 藻塩、味噌、ジャム、黒糖、蜂蜜、出しパック、麹、ドライフルーツ、ビスケットがまだ残ってるわね。

 風呂敷からは
 トマト、人参、ジャガイモ、玉ねぎ、長ネギ、カボチャ、小松菜、桃、林檎、蜜柑、小麦粉があるわ。

 さっき採集したのは
 薄荷、蓬、菊、カミツレ、大葉、ローズマリー、浜茄子、薔薇ね。

 あと、欲しいのは胡椒と山椒、唐辛子、わさび、辛子などの辛味。

 あ、茗荷や生姜、ニンニクや芹、三つ葉などの香味も欲しいわね。

 欲をいえば、醤油や味噌の原料の大豆や小豆などの豆類も……

 あ、塩の追加も…… 砂糖も…… できれば……


 私ってこんなに欲張りだったのね。
 でも、欲しいものが食べ物中心なのは……
 ちょっと、情けないかも……

 あ、一番欲しいものがあったわ。浴槽よ。お風呂に入りたいわ。速くあちらに着かないかしら。

 …… 考えたら、私って今変になってない? だって欲しいものが浴槽って…… 疲れてるのね、きっと。

 出したものを片付けてお昼寝でもしましょうか……

 あ、あら。いつの間にかイリスがこちらを見てるわ。
 直ぐ片付けるわね。ちょっと、待っててね。


 

しおりを挟む
感想 545

あなたにおすすめの小説

幸子ばあさんの異世界ご飯

雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」 伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。 食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

可愛い猫と異世界生活~家出中に飛ばされた?

夏本ゆのす(香柚)
ファンタジー
小学六年生の夏休み。 七里梨生(ななり りう)は祖父と喧嘩をして家をでた。 裏の神社で一休み中に可愛らしい子猫を見つけ抱き上げたところで、目の前が暗くなって気を失う。 気づけば、何となくいつもと様子の違う森の中だった。 そして一方、街の中でも大騒ぎとなっていた。コンビニにたむろしていた高校生数人が衆人の目の前で姿を消してしまっていた。 気づけば知らない城の中。 中世風の男女が見守る中、白装束の女性から告げられた内容は…… 異世界に飛ばされた高校生と、小学生の少女の運命はいかに。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

最後のカードは、

豆狸
ファンタジー
『離縁』『真実の愛』『仮面の歌姫』『最愛の母(故人)』『裏切り』──私が手に入れた人生のカードは、いつの間にか『復讐』という役を形作っていました。

異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます

ユーリ
ファンタジー
仕事帰り。毎日のように続く多忙ぶりにフラフラしていたら突然訪れる衝撃。 何が起こったのか分からないうちに意識を失くし、聞き覚えのない声に起こされた。 生命を司るという女神に、自分が死んだことを聞かされ、別の世界での過ごし方を聞かれ、それに答える そして気がつけば、広大な牧場を経営していた ※不定期更新。1話ずつ完成したら更新して行きます。 7/5誤字脱字確認中。気づいた箇所あればお知らせください。 5/11 お気に入り登録100人!ありがとうございます! 8/1 お気に入り登録200人!ありがとうございます!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。