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1巻
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それからは寄り道せずに歩いて、ギルドに到着です。
もう、人混みには慣れたわよ。今朝は自分でギルドの中に入ってみせ……と思ったら、ギルドの前にシェヌさんとイリスさんがいました。
「おはようございます、シェヌさん、イリスさん」
「おはようさん、迷わずに来られたんだ」
「シェヌさん、昨日はありがとうございました。でも、昨日もギルドに来るまでに迷ってなんていませんよ。ただ中に入れなかっただけで」
寡黙だと思っていたシェヌさんでしたが、普通に会話してくださいます。
昨日は何だったのかしら? もしかして、荷物を持ち過ぎて辛かったとか?
「あれ? パン屋のマリスに頼んでギルドに連れてきてもらったって聞いたけど?」
にやにやと笑うシェヌさん。
確かにその通りだけれど、あれはマリスくんが親切で申し出てくれたのよ。
もおっ! からかわないでいただきたいわ!
少し腹が立って、睨みつけてしまいました。
「おお!? 威圧? ばあさん、睨むの止めてくれやぁー」
ふふっ。勝っちゃいましたね。
昔は、よく夫にもやったものだわ。私の特技の一つ。
普段怒らない人を怒らせると怖いのよ。覚えておいてね。
「楽しそうなところ、申し訳ないのですが……」
あら、イリスさんを放っておいた感じになってしまいました。ごめんなさいね。
「アンナ、呼んでる。こっち」
おや、いつの間にかイリスさんの隣に見覚えのない方が……
「イーヴァ、《緑の風》、斥候」
高めの声ね。単語だけしか喋らないのかしら?
「イーヴァさん? よろしくお願いしますね」
こくんと頷いたイーヴァさんは、灰色の長めの髪のほっそりとした少年です。身長は私より大きいけれども、孫よりは低いわね。一五五センチメートルくらいかしら。お若いのにもう働いているのね。
昨日、アンナさんに聞いたのだけど、《緑の風》というのは、今回の旅の護衛を請け負ってくださった方々のチーム名なんですって。
イーヴァさんに連れられて、ギルドの裏手に回りました。
そこは開けた場所になっていて、二頭立ての馬車が用意されています。
あら、幌馬車なのね? アンナさんなら、かっちりとした箱馬車を用意すると思っていたわ。
「アンナの奴、昨日ギルドを訪れた冒険者から、山ほど買い物をしてるばあさんがいるという噂を聞いて、慌てて大量の荷物が入る馬車を用意したんだと。ばあさんがマジックバッグ持ちと知らなかったからな」
ちょっとシェヌさん、私の顔色を読まないでちょうだい。
「でも、俺はむしろ、ばあさんには幌馬車がいいと思っていたぜ。このほうがくつろげるだろ?」
「べ、別に馬車でのんびりしたかったわけではありませんわ」
「いやぁ、でもあんたが箱馬車でずっと大人しく座っていられるとは思えねえ。さらに言えば、どんな馬車でも、絶対休憩ごとにちょろちょろするね」
「!!」
いつも何かと寄り道をしてあちこち行っているだけに、言い返せない……
それに、馬車でものんびりできるに越したことはないわね。うん、納得。
「おはようございます、コーユ様」
話に区切りがついたところを見計らって、アンナさんが声をかけてきました。……苦笑が隠しきれてませんよ?
「おはようございます。アンナさん。笑わないでくださいな。もう、恥ずかしいですわ」
「いえいえ、微笑ましかったですよ? でも、コーユ様がここまでシェヌと打ち解けているとは思いませんでした。イリスならわかるのですが」
「ちょっと、昔を思い出しました。息子とはこんな風に言い合ってましたから。それはそうと、馬車はなぜここに?」
こんなだだっ広い裏庭じゃなくて、道沿いに馬車を停めて乗り込めばいいはずでは?
「昨日、大量にお買い物をされたという話を聞きまして。先に積み込みをされたほうがよいかと……おや? 荷物はどこですか?」
シェヌさん? マジックバッグのこと、言ってないの?
まったく、なんてことでしょう。
呆れて、シェヌさんをじーっと睨んでみる……睨んで……
「や、止めろって!」
「言うことがあるでしょう」
「あー、すまん」
「謝る相手は、私ではないと思うのですが? 皆さんに要らぬ手間をかけたでしょう!」
「悪かった。ちょっとした悪戯のつもりだったんだ」
それからシェヌさんは、皆さんに私がマジックバッグを持っていることを伝えて、わざわざ積み込みの準備をさせてしまったことをお詫びしました。
皆さん、気を悪くした様子はなく、苦笑しています。
「じゃあ、謝罪が済んだところで他のメンバーも紹介しようか。俺がリーダーのエルム。そっちのデカいのがサパン、さっき迎えに行ったのがイーヴァ、昨日同行したのがイリスとシェヌ。この五人でチーム《緑の風》を組んでいる」
エルムさんは榛色の短髪のがっちりした体格で、サパンさんは朽葉色の短髪ですごく大柄な方です。
「よろしくお願いいたしますね。エルムさん、サパンさん、イーヴァさん、イリスさん、シェヌ?」
「なんで俺だけ呼び捨てで疑問符?」
「なぜでしょうね?」
シェヌさんのせいで、皆さんに笑われてる気がするのよ、もう!
目だけは睨んだままにっこりとシェヌさんに笑いかけ、皆さんには心からの笑顔を向けます。
「それでは、コーユ様、エルムさん、一度事務所の方へお願いします。他の方は出発準備を整えていてください」
クスクスと笑いながらアンナさんが言いました。ええ、笑いながらです……
事務所に移動して、約束の前金を支払いました。
これは、馬車の賃貸料や食費、途中の宿泊費などに使われるそうです。もちろん、ギルドの手数料も含まれています。
護衛の方々に支払われるのは、向こうに無事に着いてからだとか。
あと、白金貨だとお買い物に困るので、金貨や銀貨、銅貨に両替してもらいました。
小銭がそろそろ底をつきそうだったから、助かったわ。
これで準備はすべて完了。さあ、旅に出るわよ!!
【冒険者ギルド アンナの呟き】
や、やりきったわ。たった二日で。高い通信用魔術具を使い、ティユルでの物件紹介の手配、馬車、野営具、食料の用意。
大変だった。大量に買い物をしている変わったおばあさんの話を聞いて、慌てて馬車を変更して。
ほんっとに大変だった……
なのにコーユ様ったら、シェヌとお喋りしてじゃれ合っているし。
コーユ様、どうか道中でおかしなことをしませんように。
無事に、お願いだから無事にティユルに着いてください。
《緑の風》の皆、頼んだわよ~。
私とイリスさんとイーヴァさんは馬車に乗り、他の面々は馬に乗って警護しながら移動しています。
それにしても、馬車で旅に出るなんて。こんなこと、元の世界だったらあり得なかったわ。人生って不思議よね。馬車って結構揺れるのね。お尻が痛いわ。
何かの毛皮を敷いて座っているけど、あまり効果がないのよ。
そうね、暇だし気を紛らわせたいから、縫い物か編み物でもしましょうか。
ああ、クッションを作りましょう。カバーだけ作れば中身は藁とかでもいいんじゃないかしら。
早速、布と鋏を取り出して、生地を裁とうと思ったのですが……ゆ、揺れる馬車の中で鋏を使うのは難しそう。もう少しで、手を突き刺してしまうところだったわ。
「危ないので止めてください」とイリスさんから言われてしまいました。
そうね、怪我をしたいわけじゃないから、今はやめましょう。
そろそろ、お腹が空いてきて……喉も渇いたわ。
それから草原の中で馬車を停めて、休憩することになりました。
予定よりも早く。ごめんなさい、私のせいですね。
広大な野原でお花摘み……
ちょっと離れていたしました……恥ずかしい……
いえ、ここは異世界。気にしないことにしましたわ。
私が戻ると、もう少しでお昼時ということで、皆さんは早めの食事をしようとしていました。
それぞれ、干し肉を手にしているけれど……どうして干し肉なの? 美味しいご飯を食べましょうよ?
私は馬車の外で、ポケットから果物、黒パンとベーコン、レーズンバター、乾燥大葉(物産展で買ったもの)を出しました。
それからカッティングボードとナイフを準備して、黒パンをスライス。レーズンバターを片面に塗り、薄切りにした果物とベーコンを挟みました。簡単サンドイッチですわ。
イリスさんにお願いしてお湯を沸かしてもらい、鍋に乾燥大葉を入れてハーブティーもどきを作ります。これは日本にいた時、旅行先の朝市でいただいたことのあるお茶なの。口の中がさっぱりするのよ。
サンドイッチとお茶を皆さんに配り終え、まずはお茶を一口。
はあ、久しぶりのお茶。やっぱり日本人なのね、何だかほっこりします。
……あら? どうしたのかしら。サンドイッチを持ったまま、皆さん固まって……
私が大量の食料を買ったって、知ってらしたわよね?
生ベーコンとか、冷蔵庫がないんだから早めに食べたほうがいいですよ?
あ、あら。皆さんの視線が痛いのは気のせい?
さ、さあ、食べたら再び出発よ~。
4 襲撃
野原は続くよ、どこまでも……
ずーっと草原なのね。代わり映えのしない緑の波が眠りを誘います。
イリス――「さん」付けと敬語は止めてと言われちゃったわ――にもたれ掛かりながら目を瞑ると……はふ、ちょっとだけ、ね……む……
ガタガタ、ガッシャン。
な、何?
突然の大きな音で目が覚めました。
どうやら、馬車の速度が上がったよう。何が起こっているのかしら。
イリスが私を馬車の奧に連れていき、身を低くするように言いました。
バスッ!
次の瞬間、馬車の幌から矢が抜けてきました。
えっ? 誰かに襲われて、いる?
「イリス?」
「盗賊です。絶対にお守りします。そのまま小さくなっていてください」
と、盗賊? 護衛の皆さんはとても真剣な表情で、腰に提げた剣や杖に手をかけています。
バスッ、バスッ、バスッ。
様子を窺っている間にも、次々と矢が飛んできて――
ガッシャン!!
ついに馬車が止まりました。
「いいですか。このまま、じっとしていてください」
そう言って、イリスが馬車から飛び出していきました。そして、イーヴァも続きます。
えっと、私は何ができるかしら?
しばらく金属のぶつかるような音が続いた後、イリスの叫び声がしました。
でも、何を言っているのかは聞き取れないわ。
その直後、ぐらりと馬車が揺れました。
それからバサッと幌が上げられ、現れたのは見知らぬ強面の男。
男は私の腕を掴み、馬車から引きずり出します。
外に出ると、草原の上にはイリスが倒れていて、その側を馬に乗ったサパンが駆け抜けていきました。
男は、ニヤニヤと笑いながら私を引きずっていきます。
「いやっー!! 放してっ。触らないでっ!!」
恐怖のあまり、私は男の腕を叩いて突き飛ばそうとっ……
「うわぁぁぁ!」
あ、あら? 男が……吹っ飛んで……いった……
な、何が起きたのでしょう? 私の腕力じゃ、こんなことできるはずが……
あ、それどころじゃないわね。イリスが倒れているんでした。
側に駆け寄り起こそうとすると、数人の盗賊らしき男たちがやって来るのが見えます。
シェヌとエルム、イーヴァが私に気づいて助けにきてくれようとしましたが、別の盗賊に阻まれてしまい……
ど、どうしましょう……盗賊たちはすぐそこです。
「側に、来ないでっ」
私が手を突き出すと、風が巻き起こり、また男たちが吹き飛びました。
……一体、どういうこと?
まあ、とりあえず安全になったみたいね。何が起きたのかは、後で考えましょう。後で。うん。
気にしないことにしましたわ。
「ばあさん、大丈夫か」
盗賊を倒し終えたシェヌが、こちらにやって来ました。
「私は大丈夫だけど。どうしましょう、イリスが……」
私がイリスの身体をゆっくり抱き起こすと、イリスは頭を押さえて顔を歪めます。
「だ、大丈夫です。頭がふらつくけど……」
う~ん、ちょっと辛そうね。大事に至っていなければいいのだけど。
他の皆は大丈夫かしら。
「エルムは? イーヴァも怪我はない?」
「大丈夫。エルム、盗賊飛んできた、捕縛中」
イーヴァは無事みたいでよかった。エルムは……あっちで盗賊を縄で縛っているから、大丈夫そうね。
「サパンは?」
「いない」
え? ちょっとイーヴァ、いないですって?
そういえば、サパンは倒れているイリスを放置して馬で走り去っていったわよね。
「どういうこと……? まさか、サパンは盗賊と……」
思わず、そんな言葉がこぼれます。
裏切られたのでしょうか……でも、サパンに害意はちっとも感じられなかったわ。
「違うぞ」
ぱふっと、シェヌが私の頭に手を載せました。
「多分、街に知らせに行ったんだと思うぜ。盗賊の人数が多いから、捕まえても連れて戻るのは大変だ。だから、人を呼びに行ったんだろう。それにしても、こんな街の近くで襲われるとはな」
「まだ近くですの?」
そう問うと、シェヌは肩をすくめます。
「あんたの身体を馬車に慣らすために、かなりゆっくり進んでたんだ」
そう言えば、出発前に準備や支払いなどの手続きをしたわね。で、さっきお昼ご飯をいただいたわ。
ということは、まだ、街を出てから数時間しか経っていないのね?
「納得したか? サパンは馬で駆けていったから、すぐ街の警邏の連中を連れて戻ってくるだろ」
はい、よくわかりました。
私が頷くと、シェヌはイリスに真剣な表情で問いかけます。
「イリス、なぜ外に出た?」
「馬車が持ち上げられる感じがしたのよ。右側が浮いたような……」
「誰かがいたのかな?」
「そう思ったから外に出て、裏に回り込もうとしたの。けど、矢を射って邪魔してくる奴がいたので、魔法を撃とうとしたのよ。そうしたら詠唱中に後ろから頭を殴られて……」
「じゃあ、中に入ってきた盗賊が馬車を持ち上げていた人なのかしら」
そう言うと、皆さんが一斉に私の顔を見ました。
「「「中に……?」」」
あら。皆さん、そんなに目を見開いてどうしたのかしら。
「突き飛ばしたらいなくなったけど」
「「「い、いなくなったあっ?」」」
「そうなの。それで倒れていたイリスを起こそうとしたら、また別の盗賊が何人も来て」
あの時はどうしようかと思ったわ。
「怖くて、来ないでって手を突き出したら、吹っ飛んでいっちゃったのよね」
「「「はあっ?」」」
「なぜかしらねえ。助かったから良かったけど」
…………
な、何かしら? 皆が唖然としているような気がするのだけれども。
「コーユ様、魔法が使えたりします?」
イリスが何かに悩むような顔をして私に尋ねました。
「魔法は使ったことがないわねえ。でも、使ってみたいとは思うわ」
「魔力はあります?」
「魔力? 知らないわ。魔法が使える人は周りにいなかったし」
「治療士は?」
「お医者様はいらしたわよ?」
「『癒し』は?」
「それは何かしら?」
「えっ……? 病気を治したり、怪我を癒したりする魔法ですよ?」
「お薬や手術で治すわよね。あとはそれ以上病気が重くならないようにしたり」
「火は? 野営時の火種は?」
「普通にマッチやライターでつけたわよ」
「まっち? らいたー? ……それは何ですか……?」
??????
お互い、理解できていないみたいね。じゃあ、私からもちょっと質問してみようかしら。
「魔法って、誰でも使えるの?」
「魔力があれば使えると思います」
「どうしたら、魔力があるかどうかがわかるのかしら」
「ステータスを見ればわかりますよ」
「ステータスって、どうすれば見られるの?」
すると、イリスの代わりにシェヌが答えてくれました。
「ばあさん、自分のことを知りたいと思いながら、『ステータスオープン』って唱えてみな」
あら、どこかで聞いたことがある言葉ね。早速試してみましょうか。
「『ステータスオープン』……あら。何か見えるわ」
「なんだ、見えるんじゃないか。そこに、MPって項目があるのはわかるか?」
「あ、あるわ」
私のMPは900ね。
「その数値が魔力値、魔力の量だ。少なすぎると魔力を扱えないが、多ければ魔法が使えるはずだ」
えっと、900って少ないのかしら、多いのかしら。
「ちょっと聞きたいのだけれども……普通だとMPはどれくらいなのかしら?」
「俺は満タンで60だな。あまり魔法が得意じゃないし」
「私は魔法職ですから200ありますよ」
「『索敵』、使う。常時使う。300」
ええっ!?
「……なんか嫌な予感がするんだが……ばあさん、いくつだ?」
嫌な予感って……まあ、そうなんでしょうね。思わず、ふいって視線を逸らしてしまったわ。
だって、思い出したんだもの。召喚された時のことを。確かに、あの時見たわ。
「……せ……」
「ん? 聞き取れんかった。すまん、もう一度」
「今は、900よ」
「「「はあっ!?」」」
「900っ?」
そう、今は。でも、あの時は1000だったのよ。
なぜかしら。まあ、900でも1000でもあまり変わりはないわよね。
「ちょっと聞くが、属性って何かあるか?」
シェヌは、恐る恐るといった様子で尋ねました。
「属性? ええ、あるわ。でも読めないのよ。何か書いてあるけど、塗り潰してあるの。変ね~」
「……スキルって、あるか?」
「あるわよ。『緑の手』っていうのが」
「は? 聞いたことないスキルだな」
「そうなの?」
「まあな。普通はイーヴァが持っている索敵とか、俺みたいな身体強化とかだな」
「イリスにはないの?」
振り向いて尋ねると、突然話を振られて驚いたのか、イリスは戸惑いながら答えてくれました。
「わ、私は属性に光と水と風を持っていますので、それなりに。でも、緑の手っていうのは聞いたことがありません」
そうなのね……残念だわ。
ともあれ、MPがあるってことは、私にも魔法が使えるのよね。
魔法、使ってみたいわ……どんなのがあるのかしらね?
イーヴァの索敵って敵を探すものよね? ちょうど周りに盗賊がいるから、試しにやってみようかしら。成功すれば、盗賊……つまりは敵が引っかかるわよね。
えっと……きょろきょろする……じゃなくて。
探る? どうすればいいのでしょう。
イーヴァにやり方を聞いてみようかしら……と動こうとして、シェヌに注意されてしまいました。
「ばあさん、勝手なことはするなよ」
な、なぜシェヌにわかったの? 顔色、読み過ぎだと思うのだけれど。
「目の前にいて、あんたの考えていることがわからんわけないだろう」
言葉に出していないのに、シェヌがしっかり私の考えていることを見抜いてきます。
「今は大人しくしてろ。あいつらが片付けば魔法を教えてやるから。イリスが」
「あ、あら。ほんとっ!?」
「えっ、私?」
「俺は魔法が苦手だし、イーヴァは周囲を警戒している。ばあさん、イーヴァの邪魔はするなよ」
わかったわよ。何だか楽しみね。
それにしても、まだ警邏の方々は着かないのかしら。
「全員、縛り終えたぞ。イーヴァ、他にいないか探ってみてくれ。なるべく広い範囲で」
リーダーのエルムが盗賊たちを縛り終えて、私たちのところにやってきました。
それにしても、リーダーさんだけに盗賊を縛らせてよかったのかしら。シェヌは仕事しないの? と思って振り向くと――
「イリスは頭を殴られたから休息が必要だろ。イーヴァは索敵が仕事だ。で、俺はあんたの御守り役!!」
「……だから、なぜわかるの?」
「顔が言ってる」
そ、そんなにわかりやすかったのですか……
エルムに無事を確認されたあとは、状況説明となりました。
私が盗賊に何かしたらしいことはわかったようです。私自身はわからないのに。
とりあえず、今は街から来る警邏の方々を待つしかないわね。
旅はあまり進んでいないけれど、今日はこの辺りで野営となりそうです。
キャンプみたいでちょっと楽しみだわ。子供が幼い頃、家族でキャンプに行って夫とカレーを作ったことを思い出します。
もう、人混みには慣れたわよ。今朝は自分でギルドの中に入ってみせ……と思ったら、ギルドの前にシェヌさんとイリスさんがいました。
「おはようございます、シェヌさん、イリスさん」
「おはようさん、迷わずに来られたんだ」
「シェヌさん、昨日はありがとうございました。でも、昨日もギルドに来るまでに迷ってなんていませんよ。ただ中に入れなかっただけで」
寡黙だと思っていたシェヌさんでしたが、普通に会話してくださいます。
昨日は何だったのかしら? もしかして、荷物を持ち過ぎて辛かったとか?
「あれ? パン屋のマリスに頼んでギルドに連れてきてもらったって聞いたけど?」
にやにやと笑うシェヌさん。
確かにその通りだけれど、あれはマリスくんが親切で申し出てくれたのよ。
もおっ! からかわないでいただきたいわ!
少し腹が立って、睨みつけてしまいました。
「おお!? 威圧? ばあさん、睨むの止めてくれやぁー」
ふふっ。勝っちゃいましたね。
昔は、よく夫にもやったものだわ。私の特技の一つ。
普段怒らない人を怒らせると怖いのよ。覚えておいてね。
「楽しそうなところ、申し訳ないのですが……」
あら、イリスさんを放っておいた感じになってしまいました。ごめんなさいね。
「アンナ、呼んでる。こっち」
おや、いつの間にかイリスさんの隣に見覚えのない方が……
「イーヴァ、《緑の風》、斥候」
高めの声ね。単語だけしか喋らないのかしら?
「イーヴァさん? よろしくお願いしますね」
こくんと頷いたイーヴァさんは、灰色の長めの髪のほっそりとした少年です。身長は私より大きいけれども、孫よりは低いわね。一五五センチメートルくらいかしら。お若いのにもう働いているのね。
昨日、アンナさんに聞いたのだけど、《緑の風》というのは、今回の旅の護衛を請け負ってくださった方々のチーム名なんですって。
イーヴァさんに連れられて、ギルドの裏手に回りました。
そこは開けた場所になっていて、二頭立ての馬車が用意されています。
あら、幌馬車なのね? アンナさんなら、かっちりとした箱馬車を用意すると思っていたわ。
「アンナの奴、昨日ギルドを訪れた冒険者から、山ほど買い物をしてるばあさんがいるという噂を聞いて、慌てて大量の荷物が入る馬車を用意したんだと。ばあさんがマジックバッグ持ちと知らなかったからな」
ちょっとシェヌさん、私の顔色を読まないでちょうだい。
「でも、俺はむしろ、ばあさんには幌馬車がいいと思っていたぜ。このほうがくつろげるだろ?」
「べ、別に馬車でのんびりしたかったわけではありませんわ」
「いやぁ、でもあんたが箱馬車でずっと大人しく座っていられるとは思えねえ。さらに言えば、どんな馬車でも、絶対休憩ごとにちょろちょろするね」
「!!」
いつも何かと寄り道をしてあちこち行っているだけに、言い返せない……
それに、馬車でものんびりできるに越したことはないわね。うん、納得。
「おはようございます、コーユ様」
話に区切りがついたところを見計らって、アンナさんが声をかけてきました。……苦笑が隠しきれてませんよ?
「おはようございます。アンナさん。笑わないでくださいな。もう、恥ずかしいですわ」
「いえいえ、微笑ましかったですよ? でも、コーユ様がここまでシェヌと打ち解けているとは思いませんでした。イリスならわかるのですが」
「ちょっと、昔を思い出しました。息子とはこんな風に言い合ってましたから。それはそうと、馬車はなぜここに?」
こんなだだっ広い裏庭じゃなくて、道沿いに馬車を停めて乗り込めばいいはずでは?
「昨日、大量にお買い物をされたという話を聞きまして。先に積み込みをされたほうがよいかと……おや? 荷物はどこですか?」
シェヌさん? マジックバッグのこと、言ってないの?
まったく、なんてことでしょう。
呆れて、シェヌさんをじーっと睨んでみる……睨んで……
「や、止めろって!」
「言うことがあるでしょう」
「あー、すまん」
「謝る相手は、私ではないと思うのですが? 皆さんに要らぬ手間をかけたでしょう!」
「悪かった。ちょっとした悪戯のつもりだったんだ」
それからシェヌさんは、皆さんに私がマジックバッグを持っていることを伝えて、わざわざ積み込みの準備をさせてしまったことをお詫びしました。
皆さん、気を悪くした様子はなく、苦笑しています。
「じゃあ、謝罪が済んだところで他のメンバーも紹介しようか。俺がリーダーのエルム。そっちのデカいのがサパン、さっき迎えに行ったのがイーヴァ、昨日同行したのがイリスとシェヌ。この五人でチーム《緑の風》を組んでいる」
エルムさんは榛色の短髪のがっちりした体格で、サパンさんは朽葉色の短髪ですごく大柄な方です。
「よろしくお願いいたしますね。エルムさん、サパンさん、イーヴァさん、イリスさん、シェヌ?」
「なんで俺だけ呼び捨てで疑問符?」
「なぜでしょうね?」
シェヌさんのせいで、皆さんに笑われてる気がするのよ、もう!
目だけは睨んだままにっこりとシェヌさんに笑いかけ、皆さんには心からの笑顔を向けます。
「それでは、コーユ様、エルムさん、一度事務所の方へお願いします。他の方は出発準備を整えていてください」
クスクスと笑いながらアンナさんが言いました。ええ、笑いながらです……
事務所に移動して、約束の前金を支払いました。
これは、馬車の賃貸料や食費、途中の宿泊費などに使われるそうです。もちろん、ギルドの手数料も含まれています。
護衛の方々に支払われるのは、向こうに無事に着いてからだとか。
あと、白金貨だとお買い物に困るので、金貨や銀貨、銅貨に両替してもらいました。
小銭がそろそろ底をつきそうだったから、助かったわ。
これで準備はすべて完了。さあ、旅に出るわよ!!
【冒険者ギルド アンナの呟き】
や、やりきったわ。たった二日で。高い通信用魔術具を使い、ティユルでの物件紹介の手配、馬車、野営具、食料の用意。
大変だった。大量に買い物をしている変わったおばあさんの話を聞いて、慌てて馬車を変更して。
ほんっとに大変だった……
なのにコーユ様ったら、シェヌとお喋りしてじゃれ合っているし。
コーユ様、どうか道中でおかしなことをしませんように。
無事に、お願いだから無事にティユルに着いてください。
《緑の風》の皆、頼んだわよ~。
私とイリスさんとイーヴァさんは馬車に乗り、他の面々は馬に乗って警護しながら移動しています。
それにしても、馬車で旅に出るなんて。こんなこと、元の世界だったらあり得なかったわ。人生って不思議よね。馬車って結構揺れるのね。お尻が痛いわ。
何かの毛皮を敷いて座っているけど、あまり効果がないのよ。
そうね、暇だし気を紛らわせたいから、縫い物か編み物でもしましょうか。
ああ、クッションを作りましょう。カバーだけ作れば中身は藁とかでもいいんじゃないかしら。
早速、布と鋏を取り出して、生地を裁とうと思ったのですが……ゆ、揺れる馬車の中で鋏を使うのは難しそう。もう少しで、手を突き刺してしまうところだったわ。
「危ないので止めてください」とイリスさんから言われてしまいました。
そうね、怪我をしたいわけじゃないから、今はやめましょう。
そろそろ、お腹が空いてきて……喉も渇いたわ。
それから草原の中で馬車を停めて、休憩することになりました。
予定よりも早く。ごめんなさい、私のせいですね。
広大な野原でお花摘み……
ちょっと離れていたしました……恥ずかしい……
いえ、ここは異世界。気にしないことにしましたわ。
私が戻ると、もう少しでお昼時ということで、皆さんは早めの食事をしようとしていました。
それぞれ、干し肉を手にしているけれど……どうして干し肉なの? 美味しいご飯を食べましょうよ?
私は馬車の外で、ポケットから果物、黒パンとベーコン、レーズンバター、乾燥大葉(物産展で買ったもの)を出しました。
それからカッティングボードとナイフを準備して、黒パンをスライス。レーズンバターを片面に塗り、薄切りにした果物とベーコンを挟みました。簡単サンドイッチですわ。
イリスさんにお願いしてお湯を沸かしてもらい、鍋に乾燥大葉を入れてハーブティーもどきを作ります。これは日本にいた時、旅行先の朝市でいただいたことのあるお茶なの。口の中がさっぱりするのよ。
サンドイッチとお茶を皆さんに配り終え、まずはお茶を一口。
はあ、久しぶりのお茶。やっぱり日本人なのね、何だかほっこりします。
……あら? どうしたのかしら。サンドイッチを持ったまま、皆さん固まって……
私が大量の食料を買ったって、知ってらしたわよね?
生ベーコンとか、冷蔵庫がないんだから早めに食べたほうがいいですよ?
あ、あら。皆さんの視線が痛いのは気のせい?
さ、さあ、食べたら再び出発よ~。
4 襲撃
野原は続くよ、どこまでも……
ずーっと草原なのね。代わり映えのしない緑の波が眠りを誘います。
イリス――「さん」付けと敬語は止めてと言われちゃったわ――にもたれ掛かりながら目を瞑ると……はふ、ちょっとだけ、ね……む……
ガタガタ、ガッシャン。
な、何?
突然の大きな音で目が覚めました。
どうやら、馬車の速度が上がったよう。何が起こっているのかしら。
イリスが私を馬車の奧に連れていき、身を低くするように言いました。
バスッ!
次の瞬間、馬車の幌から矢が抜けてきました。
えっ? 誰かに襲われて、いる?
「イリス?」
「盗賊です。絶対にお守りします。そのまま小さくなっていてください」
と、盗賊? 護衛の皆さんはとても真剣な表情で、腰に提げた剣や杖に手をかけています。
バスッ、バスッ、バスッ。
様子を窺っている間にも、次々と矢が飛んできて――
ガッシャン!!
ついに馬車が止まりました。
「いいですか。このまま、じっとしていてください」
そう言って、イリスが馬車から飛び出していきました。そして、イーヴァも続きます。
えっと、私は何ができるかしら?
しばらく金属のぶつかるような音が続いた後、イリスの叫び声がしました。
でも、何を言っているのかは聞き取れないわ。
その直後、ぐらりと馬車が揺れました。
それからバサッと幌が上げられ、現れたのは見知らぬ強面の男。
男は私の腕を掴み、馬車から引きずり出します。
外に出ると、草原の上にはイリスが倒れていて、その側を馬に乗ったサパンが駆け抜けていきました。
男は、ニヤニヤと笑いながら私を引きずっていきます。
「いやっー!! 放してっ。触らないでっ!!」
恐怖のあまり、私は男の腕を叩いて突き飛ばそうとっ……
「うわぁぁぁ!」
あ、あら? 男が……吹っ飛んで……いった……
な、何が起きたのでしょう? 私の腕力じゃ、こんなことできるはずが……
あ、それどころじゃないわね。イリスが倒れているんでした。
側に駆け寄り起こそうとすると、数人の盗賊らしき男たちがやって来るのが見えます。
シェヌとエルム、イーヴァが私に気づいて助けにきてくれようとしましたが、別の盗賊に阻まれてしまい……
ど、どうしましょう……盗賊たちはすぐそこです。
「側に、来ないでっ」
私が手を突き出すと、風が巻き起こり、また男たちが吹き飛びました。
……一体、どういうこと?
まあ、とりあえず安全になったみたいね。何が起きたのかは、後で考えましょう。後で。うん。
気にしないことにしましたわ。
「ばあさん、大丈夫か」
盗賊を倒し終えたシェヌが、こちらにやって来ました。
「私は大丈夫だけど。どうしましょう、イリスが……」
私がイリスの身体をゆっくり抱き起こすと、イリスは頭を押さえて顔を歪めます。
「だ、大丈夫です。頭がふらつくけど……」
う~ん、ちょっと辛そうね。大事に至っていなければいいのだけど。
他の皆は大丈夫かしら。
「エルムは? イーヴァも怪我はない?」
「大丈夫。エルム、盗賊飛んできた、捕縛中」
イーヴァは無事みたいでよかった。エルムは……あっちで盗賊を縄で縛っているから、大丈夫そうね。
「サパンは?」
「いない」
え? ちょっとイーヴァ、いないですって?
そういえば、サパンは倒れているイリスを放置して馬で走り去っていったわよね。
「どういうこと……? まさか、サパンは盗賊と……」
思わず、そんな言葉がこぼれます。
裏切られたのでしょうか……でも、サパンに害意はちっとも感じられなかったわ。
「違うぞ」
ぱふっと、シェヌが私の頭に手を載せました。
「多分、街に知らせに行ったんだと思うぜ。盗賊の人数が多いから、捕まえても連れて戻るのは大変だ。だから、人を呼びに行ったんだろう。それにしても、こんな街の近くで襲われるとはな」
「まだ近くですの?」
そう問うと、シェヌは肩をすくめます。
「あんたの身体を馬車に慣らすために、かなりゆっくり進んでたんだ」
そう言えば、出発前に準備や支払いなどの手続きをしたわね。で、さっきお昼ご飯をいただいたわ。
ということは、まだ、街を出てから数時間しか経っていないのね?
「納得したか? サパンは馬で駆けていったから、すぐ街の警邏の連中を連れて戻ってくるだろ」
はい、よくわかりました。
私が頷くと、シェヌはイリスに真剣な表情で問いかけます。
「イリス、なぜ外に出た?」
「馬車が持ち上げられる感じがしたのよ。右側が浮いたような……」
「誰かがいたのかな?」
「そう思ったから外に出て、裏に回り込もうとしたの。けど、矢を射って邪魔してくる奴がいたので、魔法を撃とうとしたのよ。そうしたら詠唱中に後ろから頭を殴られて……」
「じゃあ、中に入ってきた盗賊が馬車を持ち上げていた人なのかしら」
そう言うと、皆さんが一斉に私の顔を見ました。
「「「中に……?」」」
あら。皆さん、そんなに目を見開いてどうしたのかしら。
「突き飛ばしたらいなくなったけど」
「「「い、いなくなったあっ?」」」
「そうなの。それで倒れていたイリスを起こそうとしたら、また別の盗賊が何人も来て」
あの時はどうしようかと思ったわ。
「怖くて、来ないでって手を突き出したら、吹っ飛んでいっちゃったのよね」
「「「はあっ?」」」
「なぜかしらねえ。助かったから良かったけど」
…………
な、何かしら? 皆が唖然としているような気がするのだけれども。
「コーユ様、魔法が使えたりします?」
イリスが何かに悩むような顔をして私に尋ねました。
「魔法は使ったことがないわねえ。でも、使ってみたいとは思うわ」
「魔力はあります?」
「魔力? 知らないわ。魔法が使える人は周りにいなかったし」
「治療士は?」
「お医者様はいらしたわよ?」
「『癒し』は?」
「それは何かしら?」
「えっ……? 病気を治したり、怪我を癒したりする魔法ですよ?」
「お薬や手術で治すわよね。あとはそれ以上病気が重くならないようにしたり」
「火は? 野営時の火種は?」
「普通にマッチやライターでつけたわよ」
「まっち? らいたー? ……それは何ですか……?」
??????
お互い、理解できていないみたいね。じゃあ、私からもちょっと質問してみようかしら。
「魔法って、誰でも使えるの?」
「魔力があれば使えると思います」
「どうしたら、魔力があるかどうかがわかるのかしら」
「ステータスを見ればわかりますよ」
「ステータスって、どうすれば見られるの?」
すると、イリスの代わりにシェヌが答えてくれました。
「ばあさん、自分のことを知りたいと思いながら、『ステータスオープン』って唱えてみな」
あら、どこかで聞いたことがある言葉ね。早速試してみましょうか。
「『ステータスオープン』……あら。何か見えるわ」
「なんだ、見えるんじゃないか。そこに、MPって項目があるのはわかるか?」
「あ、あるわ」
私のMPは900ね。
「その数値が魔力値、魔力の量だ。少なすぎると魔力を扱えないが、多ければ魔法が使えるはずだ」
えっと、900って少ないのかしら、多いのかしら。
「ちょっと聞きたいのだけれども……普通だとMPはどれくらいなのかしら?」
「俺は満タンで60だな。あまり魔法が得意じゃないし」
「私は魔法職ですから200ありますよ」
「『索敵』、使う。常時使う。300」
ええっ!?
「……なんか嫌な予感がするんだが……ばあさん、いくつだ?」
嫌な予感って……まあ、そうなんでしょうね。思わず、ふいって視線を逸らしてしまったわ。
だって、思い出したんだもの。召喚された時のことを。確かに、あの時見たわ。
「……せ……」
「ん? 聞き取れんかった。すまん、もう一度」
「今は、900よ」
「「「はあっ!?」」」
「900っ?」
そう、今は。でも、あの時は1000だったのよ。
なぜかしら。まあ、900でも1000でもあまり変わりはないわよね。
「ちょっと聞くが、属性って何かあるか?」
シェヌは、恐る恐るといった様子で尋ねました。
「属性? ええ、あるわ。でも読めないのよ。何か書いてあるけど、塗り潰してあるの。変ね~」
「……スキルって、あるか?」
「あるわよ。『緑の手』っていうのが」
「は? 聞いたことないスキルだな」
「そうなの?」
「まあな。普通はイーヴァが持っている索敵とか、俺みたいな身体強化とかだな」
「イリスにはないの?」
振り向いて尋ねると、突然話を振られて驚いたのか、イリスは戸惑いながら答えてくれました。
「わ、私は属性に光と水と風を持っていますので、それなりに。でも、緑の手っていうのは聞いたことがありません」
そうなのね……残念だわ。
ともあれ、MPがあるってことは、私にも魔法が使えるのよね。
魔法、使ってみたいわ……どんなのがあるのかしらね?
イーヴァの索敵って敵を探すものよね? ちょうど周りに盗賊がいるから、試しにやってみようかしら。成功すれば、盗賊……つまりは敵が引っかかるわよね。
えっと……きょろきょろする……じゃなくて。
探る? どうすればいいのでしょう。
イーヴァにやり方を聞いてみようかしら……と動こうとして、シェヌに注意されてしまいました。
「ばあさん、勝手なことはするなよ」
な、なぜシェヌにわかったの? 顔色、読み過ぎだと思うのだけれど。
「目の前にいて、あんたの考えていることがわからんわけないだろう」
言葉に出していないのに、シェヌがしっかり私の考えていることを見抜いてきます。
「今は大人しくしてろ。あいつらが片付けば魔法を教えてやるから。イリスが」
「あ、あら。ほんとっ!?」
「えっ、私?」
「俺は魔法が苦手だし、イーヴァは周囲を警戒している。ばあさん、イーヴァの邪魔はするなよ」
わかったわよ。何だか楽しみね。
それにしても、まだ警邏の方々は着かないのかしら。
「全員、縛り終えたぞ。イーヴァ、他にいないか探ってみてくれ。なるべく広い範囲で」
リーダーのエルムが盗賊たちを縛り終えて、私たちのところにやってきました。
それにしても、リーダーさんだけに盗賊を縛らせてよかったのかしら。シェヌは仕事しないの? と思って振り向くと――
「イリスは頭を殴られたから休息が必要だろ。イーヴァは索敵が仕事だ。で、俺はあんたの御守り役!!」
「……だから、なぜわかるの?」
「顔が言ってる」
そ、そんなにわかりやすかったのですか……
エルムに無事を確認されたあとは、状況説明となりました。
私が盗賊に何かしたらしいことはわかったようです。私自身はわからないのに。
とりあえず、今は街から来る警邏の方々を待つしかないわね。
旅はあまり進んでいないけれど、今日はこの辺りで野営となりそうです。
キャンプみたいでちょっと楽しみだわ。子供が幼い頃、家族でキャンプに行って夫とカレーを作ったことを思い出します。
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