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番外編

おばあちゃんの知り合い

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こちらが本当の1章の完結編になるのかもしれないです。 

─────────────────────


 やぁっと、家のなかを片付けて座る事ができました。

 窓を開けて、縁側でぼーっとしていると部屋の中に風が吹き込んできます。
 目の前には畑がずーっと広がってて……

「忍、誰かが来たみたいだ」

「脩さん? 誰かしら? 知ってる?」

「何となくな…… まず、出てみろよ」

「うん。どちらさまー?」



 玄関の方へ声を掛けながら行ってみると、おばあちゃんと同じくらいのご婦人ともう少し若い男の人がいた。

 見たことのない人だ……

「どちらさまで?」

 後ろから脩さんがお客さんに声を掛けた。
 
 後ろに脩さんがいてくれるだけで、ほっとする。

「榎さんのお子様ですか?」

「おばあちゃん? おばあちゃんの知り合いですか?」

「ああ、あなたが幸裕さんのお孫さんの忍さん?」

 私が問いかけると、反対に問いかけてくる。んん?もう!

「どちらさまですか?」

 脩さんか冷静に問いかけてくれたので、少し落ち着いた。
 男の人の方が
 
「あ、すみません。この先の畑をお借りしているものです。えっと、民間団体なんですが、榎さんから畑を提供していただいてて。えっと、亡くなったって聞いて」

 何?この人?
 人が亡くなったからって、あなたに何の関係があるの?

「その…… すみません。突然に」

 私が腹を立てて睨みつけると、黙った。

「DVシェルターのかたですか?」

 脩さんが問いかけてくれる。私はまだ声が出ない。

「あ、そうです。あちらに見える建物を榎さんに提供してもらってて。あと畑を耕す手伝いとか……」

「それで? あなた方は何が言いたいのですか」

「えっと、そのまま貸して……」

 男の人が言い始めて、それを初老の女の人がとめる。

「ごめんなさい。さっき聞いたばかりでごめんなさい。」

 女の人は一度お辞儀をしてから、ひとつ息を吐いた。
 そして、背をちゃんと伸ばしてから深呼吸をするように、両肩をぐっと伸ばしてゆっくり礼をした。

「あちらの畑の一部と建物をお借りしている『時の会』代表の如月と言います。この度は突然の事で……」

「如月さんですね。こちらが榎幸裕さんのお孫さんの忍さんです」

「突然押しかけたりして申し訳ない事をいたしました。すみませんでした」

 女の人がゆっくりした言葉で話してくれるので、少し落ち着いてきた。
 そして、声がこの間の電話の声だと気がついた。

「あなたは先日のお電話のかたですか? おばあちゃんが亡くなったことを伝えようと思ったんですが、すぐ切れてしまって」

 女の人はびっくりしたように、目を見開いた。そして

「ええ、あの電話中に、幸裕さんが亡くなったと聞いたの」

「そうですか……」

 そして、何か決意を固めたような、強い瞳で私に話しかけてきた。

「お願いがあります。あの建物と畑を今まで通り貸してはいただけないでしょうか? もちろん、地代は支払い致します。ご迷惑を掛けるようなことはしませんから」

 何か必死なものを感じた。

「あなた達の活動ってどんなものなんですか?」

「DVに苦しむ妻と暴力にさらされている子供を保護するために動いています」

「女性と子供ですか?」

「ええ。DVの女性はいつの間にか自分が悪い、またはその状況になれてしまう事も多いのです。共依存の問題もありますし。子供も救えるものは少ないのですがそれでも一人でも救いたいんです。幸裕さんが、常にその状況に陥る寸前だったことはご存じでらっしゃいますよね? それでご賛同いただいて……」

「おばあちゃんが? そんなことは無いっ! だって、おばあちゃんはいつだって元気で、男の人にだって負けないぐらいバリバリ働いていたのよ? おばあちゃんが不幸な事なんてないはずだわっ」

 そうよ、おばあちゃんはいつだって傍にいて笑ってくれていたし、すごくバリバリ働いていたんだから。男の人を何人も使って。

「忍…… 分かりました。確かにあなたがアレの代表みたいですね」

 脩さんが私を後ろにかばうように、立ち位置をかえる。
 なに? 脩さん……

「賃貸契約はまた後程。書類をそろえて伺います」

 訪れた二人は、頭をさげて帰っていった。




 脩さんは私を縁側に座らせた。自分は私の後ろに足を延ばして座った。

「忍? 僕が幸裕さんに結婚の前に聞いた話をするよ。いいかい? 忍はこの目の前に広がる畑をみていて」

 何? 脩さんは何か聞いているの? 私は何も聞いていないわ……

 それからは、背中に脩さんの体温を感じながらただ聞いていた。



 おばあちゃんは、なんで今までそんなに辛かったことを私に黙っていたの?

 おじいちゃんとその弟の諍いと血の争い。結婚したおばあちゃんへの嫌がらせ。死んだおじいちゃんが争うのを嫌がって生前に相続のあれこれを決めて、おじいちゃんの弟と決別したこと。おじいちゃんはお父さんが10歳の時亡くなって、おじいちゃんの弟から家を追い出されたこと。この田舎に買っていた土地でお父さんを一人で育てたこと。私が10歳になった時亡くなった両親の財産で、また親族ともめたこと…… 私の持つ財産が常に狙われていて、おばあちゃんが守っていてくれたこと……

 確かに私の両親は、飛行機の事故で亡くなって賠償金が支払われているけれど……
 そんなことでおばあちゃんが苦労している何て思わなかった。

 何時だって、おばあちゃんは笑っていたし、何時だってやりたいことをはっきり示せば叶っていたわ。
 私はただ、守られていただけなのね……
 何も知らずに……


「それは違う。忍? 考えてごらん。幸裕さんがただキミを守っていただけだと思うのかい?」

「違うの?」

「幸裕さんはもうキミと離れようとしていたのは分かっているよね」

「うん……」

「彼女が何もできない守られるだけのキミを置いていくと思うかい?」

「でも……」

「自分で働いて、自分で生活して、自分自身の気持ちで選んで結婚したんじゃないのか?」

「それはそう……」

「それとも、忍は自分自身を生きることをしないのか?」

「どういう事?」 

「僕のいうことを全て聞いて、僕の望むことだけをするつもりかい?」

「脩さんは言わないでしょう?」

「言ってもいいかい? じゃあ、仕事を辞めて。家に入って欲しい」

「なんで?」

「別にお金に困っているわけではないんだから。家で出来ることをして欲しい。趣味の音楽でもいいし、絵でもいい」

「でも、料理の学校行ってもいいって。奥さんしながら学生は大変だろうけどって」

「言ったよ? でも自分の人生は歩かないんだろう? 僕のいう人生を歩いてくれるんだろう?」

「…… それはいや。働けるのに働かないで家にこもるのは嫌」

「習い事でもしていればいいよ」

「そんなの遊んでいるだけじゃない、自分で出来ることは自分でする。できなければ考える。でもどうしても難しかったら…… どうしたらいいか、一緒に考えてくれる?」

 話を続けているうちに、陽は傾いてきた。空に夕闇がせまる……
 風が、部屋の温度を一気に奪っていく。

「メシでも食べよう。さっき買ってきた弁当でいいかな」

「ごめんなさい。山を下りて帰るつもりだったのに……」

「いや、見せたいものもあるから、明日まではいるつもりだったんだ」

 そういえば、脩さんはここに来る前にコンビニに寄っていたわ。ん? 最初からそのつもりだったの?
 道理で、キッチンやバスタブまで綺麗に掃除をしたわけね。

 お湯を沸かし、インスタントのお味噌汁とコンビニ弁当をテーブルに。そういえば、水屋に茶筒があったわ。
 急須で二人分のお茶もいれ、もぐもぐ食べる。

 外はすっかり暗くなっている。

 
「忍? ちょっとだけ外に出てみよう」

 脩さんの声に誘われて外に出てみると…… ふっと玄関の明かりも消えて……
 手を引かれて畑の方へいってみる。

「空を見て」

 空?

 空を見上げてみると……

 今まで見たことのないぐらいの星が……
 きえたりついたり……

「前に聞いたんだ。幸裕さんに…… 忍を置いてここに何故来るのかと」

「なんて言ったの」

「ここは旦那さんと初めて自分たちで手に入れた土地なんだって。結婚して家を追い出されて、苦労して手にいれたこの土地で暮らしたかったって。その時二人で話したんだって、年を取っても二人で暮らしましょう。子供や孫が遊びに来れるように、いつまでも二人で元気に過ごしましょうって。だから、ここに帰って来たって。僕らの子供が遊びに来れるようにって」

「脩さん……」

「さっききた彼らは、幸裕さんが拾ってきた人たちなんだ。ひとに疲れて自分の殻に籠ったり、人に傷つけられて動けなくなったひとなんだ。彼らが、癒されるまでの間、引きこもってもいいんだ。何も出来なくていいから、自然と触れ合いなさい。野菜が作れなくてもいいから。収穫だけでもいいからって」

「おばあちゃんらしい…… おばあちゃん、いつも言ってたわ。美味しく食べることが出来れば生きていけるって」

「らしい…… な……」


 風が身体を冷たくしてきて…… 思わず脩さんにすり寄っていった。




「おさむさーん、外みて!」

「まだ、はや、い……」

「寝ぼけてないで、外を見て!」

 
 私の目の前には畑があった。
 確かに、家のすぐ前は草がぼうぼうだったから抜いたんだけれども。

 昨日は気づかなかった。向こう側に、たくさん実っている木や畑がある。
 ここは、美味しく食べるための里なんだ。おばあちゃんのいる、お家なんだ……


 向こうから数人の人がやってきている。
 それぞれの手には、今朝採ったであろう野菜を抱えていた。   

 


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