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2章 森に引きこもってもいいかしら?

16. ひどい仕打ち

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16.酷い仕打ち


 ハーナさんが来るまでに、子供たちに最近おかしなことが無かったか聞くことにしました。
 ミクリンはまだ落ち着かないようなのでソルトに任せて、まずはタッツウから。

「最近? うーん。あ、赤ん坊が籠に入ってた」

 タッツウったらそんな言い方して。でもチラチラ見ているって事は意識しているのね。

「ああ、今ソルトが抱いているあの子の事ね」

 素直なタッツウは頷いて似せました。
 そして頭をかきながら答えてくれます。

「あとは父ちゃんに連れられて男の子がきた」

 そう告げながら、不満そうな表情を見せました。何か思うところが有るのでしょうか。
 そういえばこの子は親の顔を知らないのでしたね。

「あら、見かけてないけど」

「病気でベッドにいるよ」

 ふうん。そうなのね。
 もともとタッツウははっきりした物の言い方をする子なのだけれど、なぜか今日は言葉が足りない気がするわ。そう、何かを隠したいみたいに。

「タッツウ? どうしたの?」

 たったこれだけの言葉で慌てたように激しく首を振るのよ。
 素直な子なので後で話してくれるでしょう。

 次はセオルに聞きます。

「うん。タッツウの言う通り赤ん坊と男の子が来たんだ。男の子はお父さんが仕事だから預かることにしたって先生がいった。赤ん坊は捨て子だろうね。でも籠もしっかりしたものだったし、包んであった毛布もあったかいやつだったよ」

 さすがセオルね。観察力も理由もはっきり言えるのね。

「あと、礼拝所に人が来るようになった。前は勉強の時だけ人が集まっていたけど、商人さんとか冒険者が入ってきてる。でも……」

 セオルが言い淀んでいるわ。何か有ったのね。

「でも?」

 そう合いの手を入れて促すと、しっかりした目つきで言ってきます。訴えたいことが有るんだってそんな感じです。

「うん。お祈りとかじゃないみたいなんだ。ホルストさんが何度か応対したんだけど……クッキーやお茶の販売とかって。ギルドに専売で卸してますっていっても聞いてくれないみたいなんだ」

 やはり、お茶やクッキーが問題になっていたのね。

「僕らじゃどうしようもないですって言っても駄目だったし。あと、おやつで食べていいって言われた形の崩れたのや割れたのを食べてたら、お金と交換しようって言われて。でもそれはしてはダメって言われてたから、無理ですって言ったら殴られたんだ。それからは厨房でしか食べないようにしてる。あそこは僕ら以外は入れないから」

 殴られたですって? この子たちを殴ったのね。

「それはいつの事?」

「もうだいぶ前……あ、おばあさんに作り方を習って、上手くできるようになってからギルドに一、二度卸した後ぐらい? だから二十日ぐらい前かな?」

 セオルは指を折って日にちを数えて答えてくれます。

「それからは? どうしたの? もう、殴られてはいないのよね」
 かれはこくんと頷いてから、どう対処したのか教えてくれます。

「クッキーを卸すときはホルストさんについてきてもらう事にしたんだ。怖いからね。その日はほかの人はみんな厨房にいることにして。お茶にするって言えばみんな出ていかないからさ。アクアスだって食べるときだけは大人しいんだよ」

 アクアス? 聞かない名前が出てきました。

「あ、お父さんに連れて来られた子なんだ。お母さんがいないから冒険に出るときは預けることにしたって聞いたよ。でも、前に住んでいた所に帰りたがって……もう他の人が住んでいるのに」

 さっきタッツウが言っていた子の事ね。なるほど。

「他の人が住んでいるって、セオルは言うけれどそれは確かめたのかしら」

「うん。一度、忘れ物をしたっていうから、連れて行ったんだ。でも出てきたのは彼の知らない人だった。アクアスは家を間違えたんだって言い張るけど。僕にはどうしてもそうとは思えない。でも捨てられたって認めたくないのは分かるんだ」

 そう。
 私には、セオル貴方の方が傷ついているように見えるわ。
 赤ん坊と男の子の事は分かったわ。

「セオル? タッツウは何を隠しているのかしら。あなたならわかるんじゃない?」

「う……ん……でも、コーユさんがタッツウに聞けばいいと思う。分かってないでしょう? 僕らの事もミクリンの事も。どうしたって、コーユさんは外の人だしね。僕らは感謝はしてるよ。お腹いっぱいに食べられるし、ちゃんと働いてそれで稼げるから。分かってる。八つ当たりなんだ。僕らに力が無さすぎるだけだし」

 セオルったら凄く悔しそうに言うのね。

「あのね、セオルもタッツウもミクリンも、頑張り過ぎよ。そこは大人に任せなさい。ソルトやホルスト以外は信じられない? 頼りにそんなにならないの?」

 私がそういうと、奥歯を食いしばるように力をいれてから答えてくれました。

「おばあさんには感謝をしてるんだ。ほんとに。でも! 助けて欲しいって言ってもいつもは傍にいないじゃないか! 僕らが殴られた時も、ミクリンが泣きながら帰った時も! いないのにどうやって助けてっていえるのさ」

 ああ、この子はこんなに我慢していたのね。頑張っていたのね。
 セオルの頭をぽんぽんと撫でて、私は決意しました。

「あのね、困ったことがあったら直ぐに助けられるように、声が届けられるようにするから。ね。大丈夫。よくここまで頑張ったわね、セオル」

 ふふふっ。もう許さないから。この子たちを傷つけた人たち、覚えていなさい。

 セオルにもう一度タッツウを連れてきてもらって問いただしました。

 やはり素直な子です。隠していることがよほど苦しかったのでしょう。


「ごめんっ。オレがよろず屋のばあちゃんにクッキー渡したんだ。なんか変な奴がばあちゃんを殴ってて。あのクッキー、少しの傷なら治るだろ? それを見てたやつがいて。もうないっていうのに何度もくれって言ってきて……」

 全くこの子も、自分の為じゃない事で悩まなくてもいいのに。
 可愛いわ。
 ばあちゃん、頑張るわね。




 見てなさい。この子たちを悩ませた人達!


 ぐっと握りこぶしに力を入れた時、ハーナさんも私の護衛達ヴァンベールもみんな揃ってやってきました。

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