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2章 森に引きこもってもいいかしら?
14. 教会の子供たち 4
しおりを挟む一体、何ができたというのかしら? サパンったら何も言わないんだから。
イリスも唖然としてこちらを見ています。
するとサパンがイリスにギルドに行ってエルムを呼んでくるように言いました。
あらどうして、エルムを呼ばなきゃならないのかしら?
「レシピを登録したほうがいい」
そうなのね。って、今口にだしたかしら?
頷きながらそう思っていると
「そんな顔をしていた」
と返事が返ってきたわ。
まったく人の表情を読むのが上手いんだから。
まあいいわ。わざわざレシピって言うくらいだから、お金になるものになりそうね。
この子たちの現金収入になるものだといいのだけど。
せっかく淹れたのだからとエルブ茶を飲んでみると、なるほどすっきりしたお茶ですわ。美味しい。サパンにも勧めてみると素直に飲んでくれました。
なぜかうんうんと頷きながら飲んでいます。なぜでしょうかね。
子供たちが言われた畑の仕事を終えたようで、戻ってきました。
かなり汚れたようで土だらけです。
「お風呂を借りて体を洗ってらっしゃい」
首をかしげながらセウルが言いました。
「お風呂って?」
あ、そういえば先ほどきれいにしたのはイリスのクリーンの魔法でしたね。えっと、まだ私は人に対して使わないように言われていますし。どうしましょう。
「こちらにおいで」
えっ? 今のサパンの声よね。そんなに優しそうな掛け声ができたのね、あなた。
サパンが子供たちにクリーンの魔法をかけていました。あら、サパンもクリーンの魔法が使えるのね。うらやましいわ。
「クリーンは無属性の基本の魔法だから、魔法が使えるものなら普通は使えるんだよ」
ううっ。そうよね。私は使えないのだけれども。
子供たちがきれいになると、先ほど作ったエルブ入りのパンとお茶を進めます。
もちろん作ったミクリンにも。
嬉しそうに三人がパンとお茶をほおばっています。なんだかこちらも嬉しくなってしまうような笑顔です。
「おばあちゃん、これ美味しいね。ちょっと苦いとこもあるけど口がさっぱりするよ」
ミクリンがいいます。
「僕らが食べても良かったんですか? これ。なんだか元気になるような気かする」
セウルが言います。
もう一人の男の子のタッツウは何も言わずにただ口に放り込んでいます。ええ、おなかがすいていたのでしょう。
三人が食べている間にエルムがイリスに連れられてきました。なぜかギルマスのハーナさんも一緒です。
サパンが何やら二人に説明をしています。だから私にも分かるように説明が欲しいのですが。もう。
三人が何やら色々話し合っている間に、イリスにお茶をいれてあげました。
イリスも走って行ってくれたようで息が切れていましたので、のども乾いているでしょうと思ったからなのです。
「コーユ様、すっきりしたお茶ですね」
そうでしょう。最近、イリスもお茶を飲むのに慣れてきたようでうれしいわ。
「でも……」
なんでしょう。イリスが何かを言いかけてやめました。
「エルムを呼びに行った訳がわかりました……」
えっ? お茶を飲んだら分かるの? でも私も飲んだのだけど。わからなかったわ。
三人が相談を終えたようです。
「コーユ様、こちらはどういう理由で作られたのです?」
ハーナさんが聞いてきました。
「どういう理由って。私のいたところで飲んでいたお茶ですけど?」
「エルブは薬の基材だとわかっていてですか?」
エルムが言います。
「ええ。あちらでも民間薬でしたわ。それにかなりの量が採れたので少しくらいはいいかなと思ったのですわ。お茶も飲みたかったし」
「飲みたかった……」
三人ともびっくりしたようにしていますけど、理由なんてそんなものでしょう?
「ふつうはそんな風には思わないのです。それよりもどうやって作ったのですか」
エルムは呆れたようにいいます。
「どうやってって……」
イリスにも淹れたようにお茶を入れます。薬缶がないので、小鍋に湯を沸かしてきれいに洗ったエルブの柔らかい葉のところを放りこむだけですが。葉が下に沈んで色が少し出たぐらいになったらカップにいれて、三人に渡しました。
三人はそれぞれカップを覗きこんでいますが、何もないですよ? お茶が入っているだけなのに……
「これにも体力回復の付与がついている……湯にいれただけでか? 薬師が知ったら……」
「いや、ポーションならこれより力は上だから」
三人でぶつぶつ言っていますが……そこにイリスが一言いいました。
「飲んでみたら?」
三人ははっとしたようにお茶に口をつけます。
「飲みやすいな……」
「苦味はあるが気にならないな」
「じわじわ回復していくな……」
お茶の評価は終わったようですね。
サパンが聞いてきました。
「こちらのパンは食べてもいいか?」
ええ、いいわよというと三人は残っていたわずかなエルブパンを千切って食べています。
「それも、新しく作ったほうがいいかしら?」
「できるなら!」
そういわれて、小麦粉とエルブとミルクで薄く焼きました。卵か炭酸があればふっくら焼けますが、ないのでクレープのような薄焼きパンです。
まだ熱いそれを三人はわけて食べています。
「草の匂いと苦味があるが、食べられないことはないな……」
「食べることで回復するなら越したことはない」
「ポーション並みに回復が早い……」
三人は茫然としています。だから何が問題なのか教えて欲しいのだけれど。
エルムがこちらを向いて言いました。
「これからこのレシピを登録してもらいますが、いいですね」
「エルム? 何が問題なの? そんなに慌てること?」
はぁ、とため息をついいてからエルムが真剣な顔で言います。
「いいですか? ポーションは前に教えましたよね」
ええ、前に聞いたわ。薬師さんたちが色んなことをして作るお薬よね?
えっと、そのレシピは薬師の勉強をして認められたものにしか開かれないんだって。
「ええ」
「いいですか? このパンはあなたが普通に焼いただけでできましたが、この効き目はその薬師が作ったポーションと同じくらい効能があります。薬師ギルドともめないわけがないでしょう!」
これでもかというくらい強くいいます。
ええ? でも、ただ焼いただけよ? 確かにその成分は入っているけど。
納得いかないけど、登録しなさいというならするわよ? でもこの子たちにはこれを作って食べさせたいのよ。そのレシピ料が払えないとしても。
「わかったわ。登録します。でも、ここの子供たちには特例で作れるようにしたいの。できるかしら」
私がこの子たちにだけは作らせてあげたいのがわかったようで、ハーナさんは頷きながら言いました。
「ええ、いいですとも。それであなたが納得するなら。いいですか? これは画期的なことなんです。誰でもポーションが作り出せるのですから」
「あら。でもこのエルブが無ければ出来ないでしょう?」
「ええ、でもそれで高い金を出して薬師から買うよりは安くつく筈です。それに食べることで回復できるなら願ってもないことです。腹も満たされて尚且つ体力も回復できるなら」
そうなの? 良くはわからないけどいいことなら……
「ですが、それによって薬師ギルドともめるのは困ることでもあるんです。薬はポーションだけではありませんから」
あ、そうよね。面倒ごとがあるのなら、それを回避できるなら越したことはないわ。もちろん喜んで登録させていただくわ。
「わかりました。ではすぐにでも登録をしに行きます。あ、残っているこれをこの子たちにあげるのはいいですよね……」
ちょっと心配になったのでそういうと三人は頷きました。
畑をするのは明日になりそうね……
子供たちに冒険者ギルドに行くこと、畑は次の日になること、残っているパンやお茶はあなたたちが食べていいのだと説明しました。
「いいの? これ、先生に食べてもらっても……」
ミクリンが聞いてきました。
「もちろんよ。お茶はミクリン、あなたがもう淹れられるでしょう? 温かいのをソルトさんに差し上げるといいわ」
嬉しそうに頷いてくれます。
セウルとタッツウは明日も来るよねと聞いてきましたので、もちろんと答えておきます。
本当に嬉しそうな顔をするようになりましたね。私も嬉しいわ。
イリスには残るように言いました。
だって護衛は三人もいるのですから。
イリスも分かりましたといってくれます。やはり癒しを直接かけただけに気になるのでしょう。
四人でまずギルドに戻ってから登録するレシピを書き上げました。
現物をつけていたほうがいいというので、ギルドのキッチンを借りてつくってみました。
ですが……
エルムやサパンが鑑定をしてみたところ回復の効能はそれについていなかったのです。
なぜでしょう……
でも、少しだけ持ってきていたあの教会で作ったほうには、ちゃんと回復の効能がついているのです。
……
「もしかするとあの場所で作られたのでなければ付かないのかもしれない……」
なんとも言えない空気が流れます……
とりあえず、エルブをつかった料理としてのレシピのみを登録することになりました。
そして確認をするために、四人でもう一度教会に行くことになりました。
教会の厨房をエルムが鑑定してみると……
【全能神の加護を得た厨房】
私は掃除をしただけなのに……たぶんこの教会の礼拝所はもともと全能神の加護があったのでしょう。そこで私が力を使ったからではないでしょうか……そういう事を言うわけにもいかないので黙ってはいましたが。
「コーユ様、何をされたんです?」
エルムが乾いた笑みを浮かべて聞いてきます。
「掃除をしただけです。イリスに聞いてみてもいいですよ」
そういうしかないのです。
三人はため息をついています。私もそうしたいですわ……
「あら、コーユ様戻ってこられたんですね。先ほどソルトさんが目を覚ましたので回復をかけておきましたが……みなさん、どうされたんですか?」
イリスの問いかけに、今どう言ったらいいか私たちには分かりませんでした。
「あ、畑はどうなったのかしら」
私は誤魔化すわけではないのですが、気になっていたことを聞きました。
どうやらもう雑草は無くなって、薬草の束はあの馬小屋のようなところにずらーっとならんでいるようです。
これから冬になるので、植えられるものを考えなくては。
そうして私は森の家が出来上がるまでの半月をかけて畑に手を入れたのです。
セウルもタッツウもミクリンも良く働いてくれました。
ミルクからバターもできたのでクッキーも焼けるようになり、ますます薬効のある食べ物ができるようになりました。
それらは私とここの子供たち、ソルトさんとホルストも含めた孤児院との間で魔法を使った契約を結んだのです。
ここでできたものは孤児院を運営するために使うことを目的としていると。
まあ、この厨房でしかできないのだからそれも仕方ないというものです。
それがこの孤児院と私の関係を結んだ最初の出来事でした。
私は森のそばの家ができてからも、ティユルの街に出てくるたびにこの孤児院に足を運んでいます。
そんなことをイーヴァに話して聞かせていると、イーヴァは真剣な顔で私の顔を覗き込んで聞いてきました。
「ばあちゃん、オレとその子供どっちが大事?」
まったく。この子はなんて事を聞いてくるのでしょう。
イーヴァと子供たちは関係が違うでしょう?
あなたは私の唯一絆で結ばれているのだから。
そう説明すると本当に嬉しそうな顔をしますが……困った子ですよね。可愛いのですけれど。
────────────────
孤児院での過去の話がやっと終わりました。
次からは現在の話になります。
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