異世界召喚に巻き込まれたおばあちゃん

夏本ゆのす(香柚)

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2章 森に引きこもってもいいかしら?

11. 教会の子供たち 1

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 今日の護衛は珍しくイーヴァのようです。彼は勉強のために一度そばから離れることになりましたが、いろいろあって結局このティユルの町で学ぶことになりました。コンナ村の村長さんからは、課題を示されているようです。一人に依存するのではなく、一人で立っていける事も大事なのです。
 周りの人と話すことも少しずつ学ぶことの一つです。話し方、接し方、他人との関係を恐れずに暮らすようになればいいなと思いますわ。

 なので、お休みの日以外で会う事は稀なのですよ。普段会わなくなっているので嬉しいです。初めて出会ったころより、背も高くふっくらしてきた気がします。
 まだまだ表情は硬いのですが、ときおり花が咲いたように可愛く笑うようになりました。
 花が咲いたようになんて、男の子に使うようなものでは無いのですが、イーヴァには本当に似合っている言葉なのです。にこりともしなかった子が、ぱっちりの目を大きく開けて驚いたり、目を細めて笑ったり、声を上げて喜んだり。ころころ変わる表情をするようになりました。でも知らない人がいると人見知りするようで、前みたいに無表情になってしまうのが残念です。本当はもっとかわいい子なんですよと、声を大にして言いたいのです。



「コーユ様、今日はよろしくお願いいたします。えっと。本日の行動予定はどのようになされますか?」
 
 ふぅ。本人は良しとばかりに、こぶしを握っていますが…… 笑いをこらえるのに一苦労です。これは護衛依頼をされた時の挨拶なのかしらね? 今までシェヌからはされた事は一度も有りませんが。後で叱っておきましょう。

「イーヴァ、今日の護衛はあなたなのね。宜しくね。今日は礼拝堂でお祈りをして、裏の孤児院に行きます。そこで少し蒸しパンを作るわ。一緒に食べましょうね」

「ばあちゃん、蒸しパン? 何?」

 ええ、こちらの方がイーヴァらしいわ。

「エルブを使って作る簡単なパンのようなものよ。あの子たちに作れるものを考えたら簡単でなければね」
「オレ、食べたことない……」

 あら? 最近、割と作ることが多いから、もう食べさせたことが有るものだと思っていたわ。でもエルブは無くても蜜入りのは食べたはず。

「イーヴァは蜜入りのパンを食べたでしょう? ふわふわの黄色いのを」

 頭をかしげているけど。まあいいわ。一緒に行って食べればいいのだから。

「今日の予定はそんなものよ。イーヴァ、解った?」
「うん」
「忘れないうちに書き付けておいた方が良いわよ」

 報告書を書くのでしょう? とばかりに時間を取りました。書くのも勉強のうちよ、頑張ってね。まあ普通はこんな時間が貰えるとは思わないから、ちょっと甘やかしているのは分かっているの。
 どれどれ……
 面白い事に、字の上手い下手もわかるのよ。助かるご加護だわ。
 こちらに来て色々な字に触れるうちに、字の上手い下手も分かるようになりました。
 つまりこの加護って、色んな経験をすると習熟度が上がって便利になるみたい。
 さすが、全能神……知れば何でもできるのね……

 イーヴァの字は……ところどころ読めないところも有るけど、全く書けなかったころから考えるとずい分上手くなったと思うわ。読めないところは多分間違っているところだと思うの。たぶんその言葉と補完してみれば読めるようになったから間違いないわね。

「イーヴァ、これは覚書なのかしら? そのまま提出するの?」
 とりあえずどちらにしても誤字は直さないとね。

「あとでエルムが見る。いいならギルドにもそのまま出す」
「そう。あのね、こことあそこが間違っているわ」
「ん。なおす。一本足りない?」
「そうそう。こっちはここに点があるはずでしょう?」
「わかった」

 間違いを書き直して清書したものは宿に置いていくみたい。
そして間違った方は、自分のポケットに入れたようです。

「イーヴァ、もういいかしら?」
「ばあちゃん、じゃなくて。コーユ様、用意はお済ですか? 出発しましょう……だったかな?」

 最後は小さな声で言ってるけど……これも様式なのかしら? シェヌはいつだってそんな事は言ったことは無いのだけれども……
 まぁいいわ。後で聞きましょう。

 さぁ出発よ!


 大通りを森の方にむかっていくと、あちらの教会のような建物が見えます。
 お祈りをするところは礼拝所と呼ばれていますが、この建物自体は教会なのです。
 ですがすでに神父は滞在しておらず、細々と信仰心の有るものが訪れるだけになって久しいと聞きました。
 ここを管理してくださっている方はホルストという老人です。そうあの左足を引きずっていたあの男性です。ホルストは足を怪我で不自由にした時、ここにまだ滞在していた神父に助けられたそうです。自暴自棄になっていた自分に居場所と役割を与えてくださったと彼から聞きました。神父はその後病で亡くなり、後を継ぐ後継の神父は王都から送られて来られなかったと。

 ここはあまりに深遠の森に近く辺境なので戦うすべを持たない神父は来るのを嫌がったとか……。
 世話になったこの建物が荒れていくのが忍びないと、ホルストが自分の身銭を切って修理し管理してきたのだそうです。
 それをみたこの地の冒険者たちが自分の出来る範囲で寄付をして何とかなっているのですって。危険な魔獣に立ち向かっている彼らだからこそ、心の片隅に信仰心が残っていたのではないかしら。


 でも、この裏手に孤児院が有ったというのを知ったのは彼からではありませんでした。

 
 あの日、私はイリスと買い物に出ていました。良いものが購入出来て嬉しかったのでしょう。小躍りでもしていたのでしょうか、足がもつれて転んでしましました。買ったのは小麦粉、蜂蜜、林檎とジャガイモ。それと牛もどきのミルク。荷車や畑を耕すのに飼われているそうなのですが、ちょうど出産後でミルクが取れたらしいのです。脂肪分たっぷりのミルクです。これでバターのような物が出来たら嬉しいと思っていました。

 小麦や蜂蜜、ジャガイモ、ミルクはすぐにマジックバッグにしまいました。でもその日の食事に蜜林檎のケーキを作ろうと思っていたのでイリスに林檎を見せ、話しながら歩いていた時でした。
 つんのめった感じで転んだものですから、手にしていた林檎の入った籠は放り出してしまい、林檎は通りに散らばっていきました。
 そばにいた人たちは笑いながら林檎を拾ってくれていたのですが、ふと通りの向かい側をみると、汚れた服の子供が林檎を二つ三つ拾い上げると走って行って……

「あぁあ。あの子たちにとられてしまったね。まあこれだけ有るんだから見逃してやってくれないか?」といわれました。

 ええ、二つやそこらは商店の人におまけしていただいたので、私からは何もいいませんが。
 あの子たちという言葉に引っかかりを覚えたので聞いてみると。
 なんという事でしょう。この町には孤児院というものはなく、教会の裏手の小屋に数人で住み着いているとの事でした。収入も無いので人々の寄付で暮らしているらしいといいます。親の亡くなった子、捨てられた子、育てられない親が預けた子などがいるのですって。
 寄付といっても、みな自分の生活に余裕なんてありませんから、たくさん肉が獲れたり、畑の野菜が出来たのを持っていくそうです。
 それくらいなら私も手助けが出来ると思い、礼拝所でお祈りをして神様に色々教えて貰った後に教会裏に行きました。
 小屋が有ると聞いていましたが……
 これに人が住めるのかしらというような小屋です。
 確かに屋根が有ります。柱も有ります。
 壁も……少しだけ有ります。
 ……私にはコンナ村で見た馬小屋にしか見えませんでした。もしかするとあの馬小屋の方がましかもしれません。


 異臭がします。これはこちらに来て初めての臭いでした。トイレの浄化槽……馬小屋には確かに有りませんでしたね。
 本当にここに人が住めるのでしょうか……


 すると小屋の中から小さな声がします。
 子供が二人出てきました……男の子でしょうか?


「おばあさん、ごめんなさい。林檎を取ってしまってごめんなさい」

 力なく頭を下げているのです。えっと……もしかして怒りに来たと思われたのでしょうか。
 背の高い方の男の子が、もう一度言いました。

「ごめんなさい。これをかえしま……」

 持っている林檎にはすでに齧られた跡が……

「酸っぱかったでしょう? その林檎。それはね、熱を通すと美味しくなる林檎なのよ。もう齧っちゃたのね」

 頷く二人……

「ごめんなさい。牢屋には入れないでっ」

 涙をこらえているのか、下をむいたまま謝ってくる。
 少しだけ、お節介を焼きましょうかね。私だって色んな人に助けられているのですもの。少しくらいはお返ししないと。

「お料理出来る場所はあるかしら? それを食べやすくしてあげるわ。もう齧ってしまったのでしょ? ついでに食べちゃいなさい」




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