時の記憶

66

「いつの間にかこうなっていた・・・俺は化け物なのか？」

何処か寂しそうな顔をして雅は言う。

「違う！君は人だ。今までも、これからもだ！もう一度一緒に過ごそう」

村長は彼に手を伸ばそうとした。

だがそれを雅は制止し、首を静かに横に振った。


「俺はもう、お前の元には帰れない」


「なにをいって・・・」

村長が言い終える前に、彼は手を空に向けて掲げた。

すると、彼の手元に黒い渦が集まる。

八咫烏はハッと我に返った。


「みんな逃げろおおおおおお！！」


鴉たちは飛び去った。


「村長！あんたあぶねぇ！！」


八咫烏が叫んだと同時に、村長と雅の間に割り込んだ瞬間、雅の手から黒いいくつもの槍が空から落ち



それが村長をかばった八咫烏へ、真っ逆さまに墜落した。



「がはっ・・・・」



八咫烏は地面へ落ちた。


「あぁ！君！君っ！！」

村長の声が遠のく。


ものすごい音がしたことにより、村の人がこちらにやってきた。

その中にりんの姿もあった。



ーーりんーーー来ちゃだめだーーー

八咫烏の声は届かない。


「見つけたぞ、りん」

雅はりんを指さした。

りんは目の前の、もはや人間とは呼べない者に戸惑いを感じながら、一歩一歩後ずさりした。

ーーりんーーーー逃げてーー

八咫烏は体を動かそうとしたが、ピクリとも動かない。


ーーうごけっ！－うごけうごけっ！！


「来い！りん！」

「やめてくれ雅ぁぁ！！！」

「きゃっ！」

雅はりんの腕を強引につかみ上げると、口元にタオルを押し当てた。


「んーー！！んーーー！！！！」

りんはもがき苦しむ。


そして、りんはくったりと動かなくなった。


ーーーあぁーーーりんーーーり・・・んーーー


（ごめん、旦那・・・りん・・・守れなかったよ）


雅がりんを担いで森に消えていく姿を目に焼き付けて、八咫烏の意識はそこで途絶えた。