31 / 88
31
しおりを挟む「ごきげんよう、リュクレース様。また、一緒でしたね」
「ごきげんよう、フィリベール様。また、一緒でしたね」
10月20日の正午に少し前。マトローシュルズ湖の湖畔。あの日偶然会ったその場所で、わたし達は微苦笑を浮かべていました。
「お手紙が届いた時は、ビックリしましたよ」
「わたしもです。開封して驚きました」
「相手のもとに到着する日に、自分のもとに届く。僕達は出すタイミングもおんなじでしたね」
「そうですね。伝え方、その内容だけでなく、タイミングまでおんなじでした」
クスリと微笑み合いながら、お互い何も言わず歩き出します。
――やっぱり、そうでした――。
どちらも、行き先を相手に伝えてはいません。ですが示し合わせているかのように、ピッタリ同じ方向に進んでいって――わたし達は船に乗り、マトローシュルズ湖の中央にやって来ました。
「ここしか、ありませんよね」
「はい。ここしか、ありません」
わたし達を出会わせてくれた場所。
わたし達を繋げてくれた場所。
わたし達をひとつにしてくれた場所。
フィリベール様もわたしも、そう。『行うならその中心で』との想いがあって、ここを選びました。
「……こういう場合、ズル、になるかもしれませんが。お許しください」
「フィリベール様は悪くありませんよ。仕方がないことですからね」
わたし達は貴族。貴族のルール――伝統があるのですから、そちらは守らないといけませんよね。
「ありがとうございます。……では、失礼します」
船を揺らさないよう静かに動いてくださり、わたしに向かって片膝をつかれました。
「僕は貴方と出会い、たくさんの喜びをいただき、分かち合いました。そしてあの夜、大きなものをいただきました」
「わたしも貴方と出会い、たくさんの喜びをいただき、分かち合いました。そしてあの日、大きなものをいただきました」
どちらも思い出を振り返り、
「そんな出来事であり日々が、僕に特別な感情をもたらしてくれました」
「そんな出来事であり日々が、わたしに特別な感情をもたらしてくれました」
今この胸の中にあるものを、伝えます。
そうしてわたし達は見つめ合い、先に動くのはフィリベール様。フィリベール様は左手をご自身の胸に添え、
「ですので、もう一つお伝えしたいことがございます。……リュクレース・ハルトーン様。僕フィリベール・レイオズンは、貴方様を愛しています。この想いを受け取ってはいただけないでしょうか?」
その言葉と共に、もう片方の右手をこちらへと差し出されました。
「……フィリベール・レイオズン様」
その名前を持つ人は、同じ思いと想いを持つ方。あちらがそうなら、こちらもそうなのです。
ですのでわたしは――
「喜んで。その想い、受け取らせていただきます」
――その手を取り、手の甲に口づけをいただいたのでした。
「…………応えてくださりありがとうございます、リュクレース様。これ以上ない喜びを感じています」
「…………こちらこそ、応えてくださりありがとうございます。わたしも今、これ以上ない喜びを感じています」
「……改めて、これからもよろしくお願い致します」
「……はい。こちらこそ、これからもよろしくお願い致します」
どちらも瞳を揺らしながら言葉を交わし、抱き締め合う。
10月20日。
わたし達が偶然出会ってから、およそ9か月後。
こうしてわたし達の関係は、ひとつ、変化したのでした。
「ごきげんよう、フィリベール様。また、一緒でしたね」
10月20日の正午に少し前。マトローシュルズ湖の湖畔。あの日偶然会ったその場所で、わたし達は微苦笑を浮かべていました。
「お手紙が届いた時は、ビックリしましたよ」
「わたしもです。開封して驚きました」
「相手のもとに到着する日に、自分のもとに届く。僕達は出すタイミングもおんなじでしたね」
「そうですね。伝え方、その内容だけでなく、タイミングまでおんなじでした」
クスリと微笑み合いながら、お互い何も言わず歩き出します。
――やっぱり、そうでした――。
どちらも、行き先を相手に伝えてはいません。ですが示し合わせているかのように、ピッタリ同じ方向に進んでいって――わたし達は船に乗り、マトローシュルズ湖の中央にやって来ました。
「ここしか、ありませんよね」
「はい。ここしか、ありません」
わたし達を出会わせてくれた場所。
わたし達を繋げてくれた場所。
わたし達をひとつにしてくれた場所。
フィリベール様もわたしも、そう。『行うならその中心で』との想いがあって、ここを選びました。
「……こういう場合、ズル、になるかもしれませんが。お許しください」
「フィリベール様は悪くありませんよ。仕方がないことですからね」
わたし達は貴族。貴族のルール――伝統があるのですから、そちらは守らないといけませんよね。
「ありがとうございます。……では、失礼します」
船を揺らさないよう静かに動いてくださり、わたしに向かって片膝をつかれました。
「僕は貴方と出会い、たくさんの喜びをいただき、分かち合いました。そしてあの夜、大きなものをいただきました」
「わたしも貴方と出会い、たくさんの喜びをいただき、分かち合いました。そしてあの日、大きなものをいただきました」
どちらも思い出を振り返り、
「そんな出来事であり日々が、僕に特別な感情をもたらしてくれました」
「そんな出来事であり日々が、わたしに特別な感情をもたらしてくれました」
今この胸の中にあるものを、伝えます。
そうしてわたし達は見つめ合い、先に動くのはフィリベール様。フィリベール様は左手をご自身の胸に添え、
「ですので、もう一つお伝えしたいことがございます。……リュクレース・ハルトーン様。僕フィリベール・レイオズンは、貴方様を愛しています。この想いを受け取ってはいただけないでしょうか?」
その言葉と共に、もう片方の右手をこちらへと差し出されました。
「……フィリベール・レイオズン様」
その名前を持つ人は、同じ思いと想いを持つ方。あちらがそうなら、こちらもそうなのです。
ですのでわたしは――
「喜んで。その想い、受け取らせていただきます」
――その手を取り、手の甲に口づけをいただいたのでした。
「…………応えてくださりありがとうございます、リュクレース様。これ以上ない喜びを感じています」
「…………こちらこそ、応えてくださりありがとうございます。わたしも今、これ以上ない喜びを感じています」
「……改めて、これからもよろしくお願い致します」
「……はい。こちらこそ、これからもよろしくお願い致します」
どちらも瞳を揺らしながら言葉を交わし、抱き締め合う。
10月20日。
わたし達が偶然出会ってから、およそ9か月後。
こうしてわたし達の関係は、ひとつ、変化したのでした。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる