時の記憶

知る人ぞ知る

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やがてしっかりと息を整えた後、二人は再び歩き出した。

すると、時を間もなくして、紅葉に隠れるように赤い何かが見えた。

思わず村長は目をこすってその何かを見た。


「鳥居だ…」


「とりい?」

村長の言葉がわからず聞くと、村長は笑顔を見せた。


「もうすぐ祠につくよ」

りんは首をかしげていたが、村長の言葉で目をキラキラ輝かせた。


「ほこらっ!ほこらっ!!」


りんは再び走り出した。


「さ、さっきまでの疲れはどこに行ったんだい、おーい、りんちゃん!」


りんは村長との手を、いつの間にか放してしまっていた。


けれど、りんのポーチに付いている鈴の音で、なんとなく場所は掴める。

村長さんは胸をなで下ろしたのだった。




―――…

――……?


(あぁ、そうか…俺は眠っていたのか)


重い瞼をこじ開ける。まるで眠気と戦っているような感覚で、何度も何度もまぶたは堕ちる。

けれど、なんとかそのどっしりした重たさに耐えながら開いたその虚ろな目には、ぼんやりと外の世界が映った。


紅色の紅葉らしきものが見える。金木犀の甘い香りが辺りに広がっている。

色も匂いも、土に触れるこの感触も、微かにだが感じることができる。

けれど、その感覚は無に等しいものだった。



「八咫烏《やたがらす》、そこにいるか?」


自分のものとは思えない掠れた声。

けれどその声がちゃんと届いたのだろう。左上側から木の葉が揺れる音がした。


彼は再び目を閉じる。

もう目を開く力は残されていなかった。



「ここにいるぞ」


体全体に、柔らかな羽が触れた。


「もう、目は開けていられないのか?」

「…………そうだね。例え見えたとしても、今じゃ俺は小さすぎて、君の足一本見上げるのがやっとさ」


そう答えてやれば、八咫烏は心配そうな音色から、急に明るいトーンで話しだした。


「なぁ、たまには俺の背に乗って旅でもしないか?」


八咫烏が元気付けようと、必死に問いかけてくれる。

気を使ってくれているのだろう。俺はもうこの世に存在できなくなるから。

けど

「勘弁してくれ、風に飛ばされてしまうよ」

嬉しい誘いではあったが、風の抵抗に耐えられないほど自分の体が弱くなっていることを感じていた。


「俺は人の信仰がなければ力を失い、体が小さくなって消える」


「小さくなったのは、三年前の土砂崩れからだな……」

「あぁ」


男はため息をついた。
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