改造人間

SIN

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ジュタ 3

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 ゆっくりとカプセルが下ろされたのはそれから大分経ってからだった。
 何処に連れて行かれるのだろうと警戒していたのに、ガシャンガシャンと走るロボットの振動でウトウトしてしまえる程なんだから、相当な時間だ。
 カプセルが下ろされた事だし、隣の奴を起こした方が良いのだろうか?っても、体が動かないんだから、どうやって起こせば良いのか。
 「ん……あ、寝てた……」
 あ、起きた。
 何か声をかけようかと思うよりも早くにカプセルの蓋がいきなり、勢い良く、パカッと開いて……。
 「ラッキー、生きてるのが2人もいた♪」
 妙にハイテンションな男の顔が視界に入ってきた。
 人間?だとしたらカプセルを運んだこのロボットは何だ?じゃあこの男もロボット?いや、そんな事の前に何故俺達を助けた?
 助けた……のか?
 「目的は何だ」
 妙に胡散臭い男に俺は動けないなりに警戒してみた。
 「そんなのは後々。とにかくスグに改造~♪」
 かっ改造だぁ?冗談じゃねーぞ!?
 動けない俺の抵抗など何の障害にもならず、俺の体は淡々と改造を施されていく。自分の体なのに配線とか色々ある事が不思議で、何か途中から抵抗する気力すら失ってしまった。
 それからどれ程の時間が経ったのかは分からないが、目覚めてみると……特にどうともない自分と、ニッコリと笑顔の男と……俺と一緒にここに連れて来られた奴が1人いるだけの空間にいた。
 「どう?」
 気持ちの良い笑顔で聞かれた所で、これと言って変わりがないのだから答えられるような事はなにも……。
 「あれ?」
 ちょっと待て、この景色可笑しくないか?
 制御装置を起動されていた俺が動けているのも可笑しいし、改造中の不備で全く動けないまま破棄になった筈のアイツがどうして立ってる?
 コイツが施した改造って、制御装置の取り外し?
 ますます怪しいな……コイツ何者だ?
 「で……目的は何だ?」 
 溜息を吐いた男は大袈裟に肩を落として見せると、 
 「君はそればかりだねぇ。俺は元AS777で名前はリオン。好きな方で呼べば良いよ」
 いきなり自己紹介を始めた。
 元AS……改造人間なのか。
 「あ、俺はCF4738で名前はスイ」
 怪しい男に自己紹介しても良いのか?けど、スイにとっては恩人になるのかも知れないな。いや、俺にとっても、か。
 「CF1519……ジュタ」
 満足そうに頷いたリオンは話しを続けた。
 「俺は研究員のやり方が気に入らなくてね、反乱軍を作ってんの。でね、近いうちにあの研究施設ブッ壊そうと思ってるんだ」
 しようとしている事に対しては特に異論はないが、まだ分からない事があるし、気になる事がある。
 「リオンのスイッチは誰が取った?それにあの施設を壊せば誰がロボットと戦う?」
 隣にいるスイも頷いているだけで特に追加質問もないようだし、とりあえずこれ位かな。
 「俺のスイッチはね……おいで」
 おいでと言ったリオンの後ろから数体の、研究施設で見せられた“新型”と呼ばれているロボットが現れた。
 多分、今頃はタイキ達と戦っているであろうロボットと、改造人間であるリオンが一緒にいるのはどうしてなんだ?
 「俺のスイッチを外したのは彼らだよ。それから、ロボットが人間を使って実験していたってのは嘘なんだよ」
 リオンはロボットの鉄板で出来た頭をヨシヨシと撫ぜながらとんでもない事をかなりサラッと言うと、横にあった椅子に座った。
 人間を実験材料に選んだ事で人口が減って、それがこの戦いの原因になったんじゃないのか?
 俺は子供の頃からそう聞いてたし、そう信じて疑った事もない。
 「じゃあ、人間が減った訳はなんだよ」
 リオンはロボット側にいるから、何か嘘を教えられたんじゃないか?とまで思う程……。
 「信じられないのも無理はないよ。俺だって最初はそう思ってたんだしさ。でも、人口が減ったのはウイルスのせいなんだ」
 リオンは椅子に座ったまま引き出しに手を伸ばし、中から古い新聞を出して俺の前に差し出した。
 日付は俺が生まれるよりもずっと昔。
 その新聞には“新種のウイルス”の文字がハッキリと書かれている。
 「えっと……“有効な治療法はない”だって」
 新聞に書かれた文字を読んだスイは、俺から新聞を奪い取ると熱心に読み始めてしまった。
 「ロボットが人を殺した事がないかって言われれば答えはNOだ。けど、この戦争の切っ掛けは改造人間を作ってロボットを止めようとした人間にある。ロボット達は保守の為攻撃を開始させただけだよ……まぁ、あくまでも切欠の話ね」
 今となってはお互い潰す事が目的って事か。
 じゃあ、何故ここにロボットがいるんだ?
 あぁ、あの研究施設を壊す事はロボット側からしてみれば力を貸すのに充分な理由にはなるか。俺達もあの気に入らない施設を自分の手で壊せるんなら……手を貸したい。
 スイッチを取り除いてくれた恩もあるしな。
 「俺も、反乱軍に加えてくれ」
 「じゃあ俺も」
 新聞を読みながら俺の意思に乗っかってきたスイは、かなり重大な決断をした後だと言うのにも拘らず新聞を読んだまま顔すら上げない。
 「俺達のやろうとしている事は、終わってから初めて認められる事。つまり始めは何処も彼処も敵だらけだよ?」
 今更そんな説明を?
 そして更に、嫌なら良いんだよ。と付け加えた。
 反乱軍って名前からして敵だらけだってのは分かってた事。俺達の意思を尊重してくれるやり方は、流石反乱軍、施設の方針とは全く違う。
 スイッチを取ったんだからと恩を着せる事だって出来るのに、それもしない。
 だけど、それとは対照的に、逃げ道を奪っている。
 スクラップにされている身で研究施設に戻る訳にも行かず、こんな話しを聞かされた後前線に行って戦う気にもならない……そうしておいてからのこの質問だ。
 いや、逃げ道が全て奪われている訳ではないか……例えば何処にも属さずにボンヤリと時を過ごすってのも手だし、月に行くシャトルに乗り込んで月で暮らすってのも手だ。
 「スイ、俺達は本当にツイてるな」
 「そうだね」
 そう言って顔を見合わせて笑った俺達をリオンは不思議そうに見ていたが、
 「……じゃぁ施設の真似。明日、家族に会いに行って良いよ」
 そう言って仕切り直した。
 会いたい家族なんかいないから明日は1日ボンヤリして過ごそうと思ったが……会わなきゃならない奴はいるんだっけ。
 ガドル……俺の兄貴。
 今がどんな善人だとしても、到底許す事など出来ない男……けど、あのルルとか言うガキが必死になって弁解するからさ、何か今更気になったんだ。だから、話をするとかそー言うんじゃなくて、遠くから様子を見る位なら……。
 翌日、シャトルに乗って月にやって来た俺達。
 初めて歩く月の感覚は思っていたよりも普通で、巨大なクレーターの中に密集して建てられたビルとビルの間に立ってみると昔の地球と大差ないように感じた。
 住み易い様に似せて作ったのだろうか?
 と、そんな事よりもアイツの施設は何処だろう?聞いてみるにしたって施設の名前も知らないしな……。
 「えっと、ガドルって人……知ってますか?」
 俺はこのエリアに1件しか無いと言う薬屋に行き、店主にそう聞いた。
 施設で子供を保護してるってんだから薬は必須アイテムな筈、ここで聞いて知らないなら他のエリアに移動した方が良いだろう。
 「あぁ、ガドルさん?ガドルさんならこの時間施設にいると思うよ?」
 当たり。
 「施設ってここからどう行けば良い?」
 親切に地図まで描いてくれた薬屋の店主に手を振り、案外アッサリと施設の前に来る事が出来た。
 施設は結構立派な作りで、中では6人程のガキが笑いながら遊んでいた。
 アイツ、どんな手を使って更生させてんだ?あのルルってのも一癖も二癖もあっただろうに……。
 「ガドルさん、2丁目に子供がいるそうです」
 そんな声がすぐ近くで聞こえ、思わず近くにあった植木の陰に身を潜めた。
 「分かった、スグ行こう」
 そしてまた近くで返事。
 ガドルと呼ばれて返事をするって事は……。
 顔を確認しようと少しだけ身を乗り出して見る。
 最後に会ったのは俺が改造人間になるよりもズット前の事だから、雰囲気が随分変わった気がするけど……間違いない。確かに奴はガドルだ。
 去って行くガドルの後姿を確認した後施設の中に忍び込み、偵察を兼ねて少し歩き回ってみた。
 もっと迷うかな?と思っていたが施設の中は誰が来ても迷わないようにしているのだろう、あちらこちらに施設内の案内板やら看板があって……だからガドルの部屋にもすぐに忍び込む事が出来た。
 鍵もかけずに部屋を空ける事が出来るなんて、この辺は平和なのだろう。
 部屋の中には大きな本棚があって、そこには本ではなくアルバムが並んでいた。
 何気なく眺めて見るとそれらは全て保護した奴らなのだろうな、ガキばかりで、下の方には日付が書き込まれていた。
 一目で分かる……改造人間にされた日付だ。
 ここにある写真全員が改造人間に?吐き気がする……。
 アルバムを元の位置に戻して机の上を見ると、そこには2枚のルルの写真が置かれていた。1枚は多分保護した直後の顔写真で、後の1枚は……多分前線に出る前にここに来て撮ったものだろう、ルルとガドルと……タイキが写っていた。
 3人共笑顔で、これから戦いに出なきゃならない不安なんか微塵にも感じさせない程楽しそうな……。
 お前はどうしてここに来たんだ?どうしてこんな楽しそうに笑ってる?こんな笑顔、俺には見せなかったじゃねーか。
 もしかして、親友だって思ってたのは俺だけだったのか?
 そう……なのかもな。いつまでも腐ってた俺なんかより、戦いを終わらせる為に働いてるガドルの方が立派だよな……。
 「あ、ガドルさん。お帰りなさい」
 もう帰ってきたのか……で、会うのか?会わないのか?勿論会わないに決まってる。
 唯一の親友……友達?いや、知り合いが俺よりもお前を選んだってだけでも恥ずかしいってのに、更に惨めな姿を見せるとか死んでも嫌だ。けど、折角ここまで来たのに何もせずに帰るのは逃げ帰ってる事になってしまう。
 何か……来てやったぞって証を残せれば……。
 そうだ。
 俺は着ていたボロボロの上着を脱いで机の上に放り投げると、窓から飛び降りて、後は走って打ち上げ場に戻った。
 「アレ?やけに早かったね。君達家族に未練無いのかなぁ?」
 シャトルの所に戻ると、リオンとスイが雑誌を読みつつそこにいた。
 俺はともかくスイは早過ぎるよな……母親に会うの楽しみにしてたのに。
 「俺は母さんの薬代の為に自分から改造人間になった。だから母さんがちゃんと薬買って良くなってるかって気になってたんだ。でさ、すごく元気になってた。だからそれで良いんだ」
 晴れやかな表情でスイは言った。
 その台詞、エロ本片手にじゃなければ感動的だったのになぁ……。
 「俺は……見て来たから、もう良い」
 俺達の話を聞いた後“そう”と短く言ったリオンがシャトルに乗り込んだから、俺達も後に続いて乗り込んだ。
 間もなくエンジンがかかり、アッと言う間に地球。
 これだけ早いと、さっきまで月にいた事が嘘みたいだけど、上着がないから嘘でも夢でも幻でもない。
 「早速で悪いんだけど、作戦会議始めるよ」
 リオンは手書きの地図を机に広げて徐に赤ペンで印を付けた。
 「この場所が俺達のアジト。つまりここで、この地点がロボットと改造人間が戦ってる前線。で、こっちが改造人間を作ってる施設。最後にここがロボット達の本拠地、マザーのある場所。勢力は3つだけど、弱小の俺達は何処を攻めるにしても不利」
 位置からして1番近いのは施設だが、中にどれだけの改造人間がいるか分からない上に前線にいる仲間が戻って来たらまず間違いなく勝ち目なんか無い。戻って来る改造人間に釣られてロボットが来て混乱になった所で余計に関係をややこしくするだけだし、それはマザーの場所を攻めても同じ事。そればかりか、仲間にいるロボット達まで敵に回す可能性まである。となると残るは前線……でも両者から一気に攻撃されたら勝ち目はない。
 「どうするつもりだ?」
 何か考えがあるから作戦会議を開いたんだろ?
 「前線に赴き仲間になりそうな子を探す。マザーの所に行ってロボットを回してもらう。施設に忍び込んでスクラップにされた改造人間の中からまだ動ける子を連れて来る……反乱軍は全員で3人と5体だからね、仲間集めが活動内容になるかな」
 3人と5体……俺達改造人間と、ロボットが5体か。この規模じゃあ反乱軍ってよりもグループだな。
 「俺は君達を連れて来た方法で施設に行く」
 「だったら俺は前線に行く」
 リオンとスイはそう言って早速出発の準備を始めたから、俺は消去法でマザーの所に行く事に決まった。すると奥から1体のロボットが出て来て一緒に行ってくれるのだと言った。
 「南西の方向に行くと円形の建物が見えるから
 そんなリオンの言葉を信じて南西に歩く、歩く、歩く……歩く……。
 日が沈むまで歩き続けたものの、一向に円形の建物なんか見えて来ず。それでもお供について来たロボットが迷わずに前を向いているから、方角的には合っているのだろう。
 早く仲間を連れて帰りたい一心で歩き続け、夜が明ける頃になってやっと目的地が見えた。
 確かに円形の建物。物凄く大きな、円形状の建物。
 で、どうやって中に入れば良いんだ?
 扉的な物が何処にもないように見えるんだけど?建物をグルリと回って入り口を探さなきゃならないのだろうか?けど、お供のロボットは動かないし……。
 「コンニチハー。俺、リオンの仲間でー。ロボットを回して欲しいんですけどー!」
 声を張り上げ建物に向かって直接用件を言った後になって、もしかしたら呼び鈴的な物が付いているかも?と思い至り、やっぱり建物を1週見て回った方が良いのかも知れないな……なんて考えていると、
 「3体。新しく与えよう……要望は、なんだ?」
 思いの他近くから金属的な声と言うのだろうか、物凄く分かりやすいロボットの声で返事があった。
 俺の用件を聞き入れてくれたようで、要望まで聞いてくれるなんて……でも、どんなのが良いんだろう?
 1回戻ってリオンに確かめるか?いや、往復するだけの時間が惜しい。だったら俺の独断で良い……のだろうか?
 仲間集めだの施設を壊すだの言う前に、通信機の重要性よ……。
 改造人間に通話機能でもついていれば良かったのにな。まぁ、ないものはしょうがない。
 「マザー……あんたは1体の内に入るのか?」
 そんな訳ないけど、一応。
 「私は、1体の内には、入らない」
 分かってた。けど、そんなハキハキとした口調で言われると恥ずかしいわ!
 えっと、気を取り直して……どうするかな。施設を壊すんなら
 遠距離攻撃が出来る大型なのを3体頼んだ方が手っ取り早い。でも、施設には大勢の改造人間がいる……家族に売られて傷心してる連中をバズーカやらミサイルで吹っ飛ばすのは余りにも哀れだ。それに、施設の偉い奴だけを倒す事が出来れば多くの改造人間が仲間になる所か、施設内にある武器も使いたい放題。それを一緒にブッ飛ばしちゃー芸がないよな。で、3体……。
 「極端に小さくてすばしっこいの1体。デカクて遠距離攻撃重視でパワーもあるのが1体。後は近距離攻撃重視の1体」
 小さいのは偵察、遠距離で大きければ敵の目をひきつける事も出来るだろう。そして一緒に施設内で戦える近距離。俺なりにどんな作戦でも平均的に戦える3体にしたつもりだ。
 「……用意しよう。連れて行くが良い」
 そう聞こえてから待つ事数時間、中からスッと2体のロボットが出て来た。
 なるほど、この建物の入り口は真上にあった訳か。じゃなくて、後1体はどこに……これか。
 現れた戦車程の遠距離攻撃ロボットの上に、掌に乗る程の可愛らしいサイズのロボットが立っていた。
 3体のロボットを出してくれたマザーに礼を言い、俺は足早にアジトに向かった。
 物凄く遠い道のりではあるが、新しい仲間を連れている安堵感や幸福感で、来る時みたいに足が重くないし、全く疲れないし、思ったよりも早くに戻って来る事が出来た。
 アジト内の奥の部屋からは物音がして、改造中と書かれた札がドアにかけられているから、多分リオンが礼の改造手術を行っているのだろう。
 って事は、少なくとも1人は仲間に出来たんだと思ったのに、奥の部屋から出て来たのはリオンとスイの2人だけだった。しかもスイの体には彼方此方治療した跡が……。
 「前線の戦闘があまりにも激しかったそうだよ。で、反乱軍の勧誘を始めた途端攻撃されたんだって」
 どうしたのかを問う前にリオンから説明されて、改めて俺達は改造人間にとって敵なんだなって……そうだよ、前線に行くのが危険だって作戦会議の時点で答えが出てたんじゃないか!それなのにスイはたった1人で行った……生きて戻って来れただけで奇跡だ。
 「ゴメン……役に立てなかった……」
 包帯だらけにされた痛々しい体でそんなに頭を下げられたら、1人で前線に行かせてしまった俺はどうやって謝れば良い?
 なんて声をかけたら良い?
 「スイの回復を待って研究施設を壊しに行こう」
 リオンは項垂れているスイの頭をヨシヨシと撫ぜ、俺が連れて来た3体のロボットの詳しい能力の分析に入った。
 策を考えているのだろう、赤ペンを口に咥えたまま地図に見入っている姿は、実に人間っぽかった。
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