嫁いできた花嫁が男なのだが?

SIN

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 森の中を彷徨うこと……多分2日か3日。
 魔物が出れば討伐し、疲れたら木に登って休憩をする生活は、さほど辛くはない。
 食料だって森の中にはキノコに魚、野草まで揃っているし、狩りをすれば肉も食べられる上に新鮮なビタミンが摂取できるフルーツまで豊富だ。
 なんなら、屋敷に戻って残っている食料を探す方がひもじい。
 ゆっくりと体を横にして、1時間でも良いからしっかりと眠りたいと思うだけで……。
 魔力で防御魔法を自分にかけられれば、堂々と地面に大の字になって寝転んでいても安全なのに。
 兄さんが、侯爵家に戻っていれば良いな……それで王子様と結婚……兄さんは王子様が男だってことを知っていたのだろうか?
 結婚が嫌で逃げたんだろうとは思っているけど、婚約者には会ったことがないって聞いた気がするし、もしかしたら知らない可能性があるのか。
 もし帰ってきて、婚約者が男だって知った後、兄さんはそのまま結婚するだろうか?
 「……あれ?」
 あ、いや……。
 なんだ?
 俺、なんで森の中にいるんだっけ……そりゃ森で出現する魔物が森から出ないためなのは分かる。分かるんだけど、それ、俺だけがやらなくても騎士だって強いんだから魔物の巣の1つや2つ壊せるよな?
 なのになぜ騎士は森の中までは入って来ず、俺1人が夜の見張りとして森に入るんだ?
 え?
 俺はそれを今になって疑問に思ったのか?
 遅すぎない?
 ここは騎士を鍛えるためだと思って今夜は森に出る魔物を退治せずにいようかな?
 いや、いきなり全部の魔物を騎士に向かわせるのは無謀だろうから、10体位わざと森の外に逃がしてみよう。
 魔物を退治するために兄さんが慌てて姿を現す可能性だってある。
 そうと決まれば、そうだな……まずは戦利品の換金に街へ行こう。
 森の入り口に向かって歩き、なんとなく気まずいから騎士の目に触れないようにコソコソと移動していると、騎士達の会話が聞こえてきた。
 それによれば、ここ数日魔物が現われないから体が訛っているのだとか。
 それは悪いことをしたな……。
 「んでもさー、こうして座ってるだけで他の騎士団より給料高いんだから美味しいじゃねーか」
 座ってるだけ?
 体が訛るのなら魔物が出てこない時間帯は、素振りなりなんなり体を動かした方が良いんじゃないか?
 「実質働くのは夜間だけ、その夜間だってバケモノが魔物倒してくれるしな」
 魔物を退治してくれるバケモノが出るのか……初耳だな。
 もしかしたらレッドドラゴンのことか?
 魔物を倒せるまでに成長したと?
 たった2日か3日で?
 「あいつ、出てこないけど大丈夫かな?」
 「魔物が出てこないんだし大丈夫だろ。あのグラオザーム・プッペだぞ?」
 どうやらバケモノとやらも俺と同じで森にー……ん?そのグラなんとかって、俺の大層な二つ名じゃなかったっけ?
 あれ?
 あの、その……バケモノって、もしかして俺のこと?
 「あいつが働いて、俺達が報酬をもらう。申し訳ないけど間抜けだよな」
 「ある程度は仕方ないさ……そうなるように侯爵様がお育てになったんだ」
 やばい……なにか、色々と聞いちゃ駄目なことを聞いた気がする。
 えぇ~、怖っ!
 皆そうやって俺を間抜けだとかバケモノだとか思いながら従ってたのか?
 父さんがそうなるように俺を育てた……魔物退治しかしなくて良いとか、それ以外のことは学園にさえ通わせてくれなかったこととか、友だちを作る時間さえくれなかったことも?
 それで兄さんが失踪したから、兄さんの代わりに結婚しろって?
 よし決めた。
 今日の夜は騎士達に丸投げしよう。
 高い給料もらってるんだったら、それに見合う分は働かないとな!それに体が訛ってるってボヤいてたし嬉しいよな?
 俺も兄さんみたいに失踪しよう。
 それにはまず街に行って換金だ!
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