嫁いできた花嫁が男なのだが?

SIN

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 屋敷に着き、門の所にいた兵に馬を任せると今度は走って姫様の部屋を目指した。
 途中で呼び止められるんだろうな、部屋に押し入ろうとしたら止められるんだろうな、とか思っていたのに、姫様の部屋の前まで来るのに専属メイドらしいメイドに会わなかった。
 時間が早過ぎるからか?
 メイド達の朝が早いとはいっても、日の出と共に活動はしないか。
 ってことは姫様もまだ寝てる可能性が高い……マズイ、レッドドラゴンを向かわせてしまった。
 起こしただろうか……って、ここで変に気を使って部屋に入らなかったら、俺はただただレッドドラゴンをけしかけて姫様の睡眠を邪魔しただけの奴になってしまう。
 よし……部屋に入って姫様が起きていたら、起きてたー?とか起こしたかな?とか言ってから謝ろう。
 コンコン。
 そうだ、レッドドラゴンも姫様が熟睡していたら起こさないかも知れないのか。
 なら、このノック音で起こしてしまった可能性?
 もう少し待ってみて、返事がないようなら2時間……3時間くらい時間を潰してから出直そう。
 「入って」
 あ、起きてたのか。
 声を聞く限り寝起きって感じではあるけど……。
 では失礼して。
 「お邪魔しまーす」
 うん、間違った。
 起きてた?朝早くにごめんねー。だろ俺ぇ!
 えー……。
 「えっ!?」
 姫様はベッドの上で寛いでいて、俺が来ることを伝えるようにと頼んでいたレッドドラゴンを膝に乗せて撫ぜていた。
 ここまでは非常に微笑ましい光景なんだろうけども、いやはやまさか上半身裸とか思わなんだです。
 そんで見まごうことなき男体!
 先に朝早くに来たことを謝れば良いのか、性別をはっきりと確認するのが先か迷う。
 いや、もう見た目は完全に男だよ。
 なんかちょっと小柄で線が細くて、顔が綺麗だけど、子供が宿せるのかどうかって所だよな?跡取りさえできれば侯爵家的には問題ない……わけあるかっ!
 結婚式あげるとしたらどっちがドレス着るんだ!?って、それは姫様にしてもらおう。
 俺がドレス来た所で、フンッと力を入れたら腕の所とか一瞬でボロ切れになりそうだし……普通に姫様のウエディングドレス姿は綺麗だと……。
 うん、ちょっと待とうか俺の思考。
 まずは、急いで姫様の部屋に来た理由はなんだ?
 身体が痛いって言ってたんだよな?だからまぁ……大怪我をしたって感じじゃなくて安心したよ。
 「おはよ。痛くて動けないって言ったってのを聞いたんだけど、大丈夫?早朝にいきなりごめん」
 「おはよう……ございます。えっと、私……その……」
 非常に気まずそうにしながらも、姫様はなにかを言いたそうに俺を見上げてきて、そしてゆっくりと立ち上がった。
 上半身裸に見えていたのは、ただパジャマの前がはだけ過ぎていただけのようだ。
 「お腹冷えるよ?」
 もっと他に言うべき言葉はあるだと思うんだけど、思考が追い付かない。
 「……この通り、私……俺は、男です……」
 あ、そうなんだ……。
 うん。
 でしょうね!
 俺も今まで胸がないのは特殊な訓練による大胸筋の発達によるものだーとか声が低いのはハスキーボイスなだけだーとか色々思考を逸らしていたけど、至って普通だったのかーい!
 だけど、これでようやく話を先に進めることができる。
 「島の王様は、侯爵家になにを求めてんだ?男に嫁がせるために王子を送って来るなんておかしい話じゃない。姫様……王子様はその、両性具有で子供が宿せるとか?」
 まさか、本当の結婚相手ってトリシュだったりするの?
 確かにトリシュは何処から見ても女性だし、ガッチリしているから侯爵家の一員としても戦えそうな感じはする。
 島の王族特有の青色を持っていないだけで王族に変わりないし、侯爵家からしてみれば色は重要じゃないし。
 だけど、なんでかな……トリシュにはそんな気持ちが出ない。
 結婚式のドレス姿の想像とか、結婚した後の生活の妄想とか、具体的に出てくるのって姫様……王子様なんだよ。
 初対面の時には既にこの人が花嫁になる人だーって思ってたからかな?
 それも可笑しな話で……王子様は、兄さんの花嫁じゃないか。
 「両性……俺は男としての生殖機能しか持ってない……子供が欲しいなら、少し待って欲しい」
 あ、もう完全に男なんだな。で、子供が欲しいなら待てってどういう意味だ?側室的な?
 「大陸では一夫一妻だから、王族ではない限り側室は持てないよ」
 まぁ、愛人を持ってる貴族なんかはかなり沢山いる訳だ。
 嫡子だの私生児だのと色々問題が起きたりしてるけどさ。
 「では、子はどうされるつもり……破棄、でしょうか」
 破棄?
 あぁ、確かにそれが1番の正解かも知れない。
 王子様は兄さんが好きだけど、兄さんが失踪したから日を開けずに俺の花嫁として侯爵家に来た。
 それなのに結婚が破棄ってことになったら……。
 「王子様は兄さんと結婚したいんだよな?島の王も俺の父さんも2人の結婚に納得したから婚約って流れになったんだろ?やっぱり兄さんが帰ってくるまでは保留にした方が良いと思うんだ」
 失踪の時点で、兄さんの答えになってる気がしなくもないけど……それを王子様に言うのは人間のすることじゃないと思う!
 コンコン。
 あ、誰か来た……王子様の専属メイドかな?
 専属メイドなら、王子様が実は男だったと気が付いて良そうなものだけど、なんの報告もなかったのは、ちょっと悲しいぞ……。
 パパッと前を整えた王子様はドアの前に立つとチラリと俺を振り返ってきた。
 出て行けってことかな?それとも隠れた方が良い?
 いいや、堂々と座っておこう。
 でもベッドに座るのはなにかと問題がありそうだから、ソファーに座ってレッドドラゴンと遊んでおこう。
 「チビおいで」
 「(ご主人の前でチビって言うな!)」
 とか言いながらフヨフヨと飛んできたレッドドラゴンは、俺の横に並んで座った。
 「ふふっ」
 後ろから小さな笑い声が聞こえる。
 どんな顔して笑ってるんだろう?
 もっとちゃんと見ている時に笑って欲しいな。
 「入って」
 「失礼いたします」
 やってきたのは専属メイドではなく、トリシュのようだ。
 「おかえり。今日の見回りはどうだった?」
 王子様、先に部屋に招かれている俺の説明をしないと……。
 「っ!こ、ここに何故小侯爵が!?」
 ほら~。
 普段は使わない名称で俺のこと呼ぶ位ビックリしてんじゃないか。
 「さっきね、俺の体を心配して来てくれたんだ」
 そうそう、体が痛いって聞いたからね。
 「体、どうかされたのですか!?」
 トリシュが俺になにも言って来なかったのは、トリシュも知らなかったからなのか。
 今度からはトリシュやレッドドラゴンからの話しを聞かなくても分かるように、時々……1日に1回は王子様と顔を合わせよう。
 「あ、いや……大したことないから」
 大したことないってことは、確実にどこから痛いようだ。
 「どこ?怪我?打撲?それとも内傷?」
 心配になって思わず紹介前に話しかけてしまった。
 「えぇ!?あの……お腹を、その、筋肉痛で……」
 あぁ……。
 最近になって夜に走っているから、それで筋肉痛になったのか。
 「運動後に柔軟しておくと筋肉痛になり難いよ。筋肉痛が酷い時は運動しない方が良いから、痛みが取れるまではゆっくりして」
 今日は市場に行って、盗まれたものが売られているか見て回ろうと思ってたけど、延期だな。
 なら今日は俺も休んで……明日の昼までゆっくり寝て、溜まりに溜まった疲れを取ろうかな?
 それに切れ味の悪くなった剣のメンテナンスもしないとなぁ。
 寝て起きたらその辺りのことをやるかな。
 「あ……あの、騎士達から伝言を頼まれました」
 うん?
 もしかして大型の魔物が出たとか!?
 あ、でも1体とか2体なら騎士達で対処できるよな。
 「なに?」
 だとするとなんだろう……軽く手をあげただけでちゃんと挨拶できてなかったし、怪我はないかー?とかおやすみなさいーとか、その辺かな?
 「……アイン様、今夜の見張りもよろしくお願いします。と」
 ふぅん。
 ん?
 なにを当たり前なことを伝言させてんだ?
 なぞなぞか?
 分かったぞ!今夜の見張りってことは、夜までゆっくりお休みなさいってことだな?
 今日は王子様にもゆっくりしてもらいたいし、ノンビリ寝て過ごそうじゃないか。
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