嫁いできた花嫁が男なのだが?

SIN

文字の大きさ
14 / 66

13

しおりを挟む
 魔法使いについて尋ねられ、口でうまく説明できる気がしなかった俺は、その場にしゃがみ込むと落ちていた石ころで地面に簡単な魔方陣を描いた。
 「これは?」
 と、質問者のトリシュではなく姫様の方が興味津々なご様子。
 「姫様は魔法使ったことある?」
 王族だから、もしかしたら魔法使いとか身近にいたかもー……
 「ありません」
 あ、ないのね。
 「この陣は簡単な風を起こすもので、特になんの攻撃性もない魔法なんだけどー……姫様、陣の真ん中あたりを魔法使いっぽく叩いてみて」
 別に魔法使いっぽくなくても良いんだけどね。
 「え……こう、ですか?」
 と、ソロリと手を伸ばした姫様は、魔法陣の中央辺りを人差し指でトントンと2回、軽く叩いた。
 ちょっと魔法使いっぽさを意識してくれたのだろう。
 良い人だな。
 フワッ。
 スゥっと消えた魔法陣と、優しく吹いた風。
 どう、かな?
 分かってくれただろうか?
 「……え?」
 「……ん?」
 無理だったか……。
 「えっと、魔法陣とかスクロールとかって魔力を他の物から補って放つ?みたいな……例えばさっきのなら風から魔力を借りて、風を起こしたんだけど……」
 流石に座学不得意なだけはあるよな、説明まで下手糞だ。
 「ようするに、魔法陣やスクロールがあれば、魔力を持たない者でも魔法が使える。と?」
 すごい、めっちゃ分かりやすい説明だ!
 「そう!それ!だから魔法使いってのは……あ、ゴメン。質問の意味はき違えてたかも」
 トリシュは魔法を使える者は多いのか?ではなくて、魔法使いは多いのか?って聞いてきたんだったわ。
 「いえ、魔法陣やスクロールさえあれば誰でも魔法が使える……ホーンドオウル領に限った話ではない。というのは理解出来ました」
 凄まじい理解力!
 トリシュは文武両道なんだな。
 「……姿を消すとか、人の動きを封じるとか、そういった魔法はあるか?」
 トリシュを眺めていると、姫様がズイッと横から視界に入ってきた。
 やけに真剣な表情と声色の姫様が説明した魔法は、恐らくは馬車が襲われた時に受けた魔法なのだと思う。
 とは言え、姿を消して人の動きを封じる、か……。
 姿をどんな感じに消すかによって変わるんだけど、単純に地の魔法で自分の前に岩を出して隠れたとかだろうな。
 他の方法では大掛かりになり過ぎる。
 人の動きを封じるのは……風魔法で押さえつけるとかかな?地魔法でも押し潰しの方向で考えるならいけるか。
 「姿を消す方は、岩を召喚して後ろに隠れるとかそういうのなら簡単にできるよ。動きを封じるのは……どんな感じに封じられた?」
 それを聞けば多分わかると思う。
 「風……風が吹き荒れていた。それで、手をこうやって前に出して目を守って、その腕が後ろに回って拘束具をはめられた」
 細かな再現までしてくれた姫様は、今は後ろで手を組んだ姿で俺の顔を真っ直ぐと見ている。
 犯人探しが難航してるんだろう、少しでも手掛かりが欲しいのか。
 「風は目隠しだ。腕は犯人が直接姫様の腕を拘束した可能性が高い。なにも見てない?トリシュも同時に拘束された?」
 あ、風が凄かったんなら見てる余裕はなかったか。
 「それは誰にでもできる芸当か?なにか、特別な人物でなくとも出来てしまえるのか?」
 なんだか様子が可笑しいな……なにか相当なことがあった?
 馬車の中に姫様達の荷物がなかった理由かもしれない……つまり、大事なものをその魔法使いに盗まれたとか。
 仕方ない、まだ昼食を食べていないけど先に確認しておかないと2人が可哀想だ。
 「ちょっとついて来て。構築されている風魔法の中で、1番強力なものを受けてもらう」
 魔法陣やスクロールを使って、誰にでも魔法が使えるようにするために研究する者が魔法使いと呼ばれている。
 例えば戦いに慣れた騎士が発動させても、産まれたばかりの赤子が発動させても、威力に差はない。
 だから、一般的に出回っている魔法陣とかスクロールは、直撃を受けても大した怪我をしない威力しか出ないものばかりだ。
 魔物の討伐とか盗賊の捕縛とか、実用的で攻撃にも使えるだけの威力がある魔法陣は、一部の騎士達にしか使用は許可されていないし、魔法陣の描き方ではなくスクロールだけが与えられる。
 ほら、騎士を引退した後とか反逆を企てた時、魔法陣の描き方を知っていたら色々問題があるから、描き方は魔法使いか侯爵家しか知らない。
 魔法陣はインクで描いて視覚的に見えている必要がないから、模写される心配もない。
 つまり、姫様達を襲ったのはスクロールを与えられた騎士の誰かか、スクロールを盗んだ盗人の2択しかないってこと。
 でだ、その一部の決められた騎士達が使えるスクロールの中で、1番強い威力を持っている風魔法を今から受けてもらいます。
 風が吹き荒れていただけで攻撃性がなかったのなら、敵の目潰しや逃げる時の目隠しとして使われる魔法陣だろう。
 街から少し離れた所で魔法陣を描き、一声かけてから姫様達に向かって発動させた。
 ビユーっと強風が吹き荒れ、姫様の長い髪が踊りはしているが、姫様達の姿を見る限り、さっきの再現とは違って余裕が感じられる。
 「……魔法陣の中で1番強い魔法はこれだけど、これよりも強い風だった……んだよね?」
 2人はコクリと頷く。
 魔法を使う一般人でも一部のスクロールを使える騎士やスクロールを盗んだ盗人でもないなら、後はもう魔力を持つ者以外には考えられない。
 「あの、これ以上の魔法はもうないのですか?」
 姫様達を襲ったのは島の国の者ではなく、近隣領地の暗殺者って訳でもない……なら、もう1つ確認がしたい。
 「姫様、トリシュ、ちょっと……いや、かなり集中して風を感じて。瞬間最大風速を感じて。良い?本当に一瞬しか吹かないから頼んだよ!」
 「え……?あ、はい!分かりました!」
 「いつでも大丈夫です!」
 2人の返事を聞いた後、一呼吸おいてからカラッカラの魔力をかき集めて風を呼び、姫様達に向けて放った。
 多分、2秒くらい。
 どうだろうか……。
 「少し弱いですが、この感じです」
 弱いって言うけど、これ俺の全力だから!
 なんなら2秒吹かせることができて、過去1くらいだから!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」 魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で――― 義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!

「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される

水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。 絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。 長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。 「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」 有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。 追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

処理中です...