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40:パン大会が始まったんです
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「はじめーー!」
司会役の人が旗を振り上げて、パン大会が始まりました!
朝早くから準備をしてくるのが当たり前なので、あとは焼いて食べてもらうだけなんだけれど。
先に焼き上がった人から順番になっていて、食べてもらっている間は当然待たなければいけないのでタイミングと時間を読んで焼かなければいけない。
「……なあ、お前の応援する組ってもしかして…」
「目の前の二人ですが?」
「あれ、クロハーラ王子じゃないよな?」
…………。レ、レオは随分と勘が鋭い。
帽子を深く被っていて、かつ後ろ姿だけなのによく気付いたな。
わたしが顔を背けて「チガウイマスワ」と誤魔化してみたけど、深い溜め息が返ってきたからきっとバレバレなんだろう…。
「…レオ様、実は」
上兄様も同じ前世を持つ人間だったと伝えなければと口を開いたところで、歓声が沸き上がる。
どうやら第一陣が焼き上がったようだ。
上兄様とマルコは…生地を眺めて談笑している。って、のんびりしている場合じゃないのでは!?
わたしの心配をよそに二人はのんびり窯の中のパンを眺めて笑っている。
「あの二人、大丈夫なのかよ…」
「……き、きっと作戦ですわ!ああやってのんびりして周りを油断させる戦法ですのよ!」
きっとそう…と信じたい。
上兄様がこっちに振り向いたかと思えば、おろおろしているわたしと訝しげに見ていたレオに向かってにこやかに笑って手を振ってきた。うーん相変わらず爽やかな笑顔だ。
上兄様に手を振りかえせばようやく二人が動き出す。
「あのさ」
レオが言い辛そうな顔をしながら言ってきたので、首を傾げながらレオの顔を見てみればなんだか寂しがっている子犬みたいな顔をしていて。
「どうしましたの?」
「今でもパン屋になるとか、本当に思ってんのか?」
パン作りの才能が全くもってないことがわかってしまったので、無謀な夢を持つつもりはない。
「ありませんわ。今回の件で、才能がないってはっきりわかりましたもの…」
思えば、パン職人は男性が多いのも力仕事なこともあって、女性にはそもそも向いてないんだろう。わたしの前世みたいに機械が発達しているわけでもないしね。
残念だけど、諦めるしかない。
「どうしましょう、アリスが来るまであと数年しかないというのに…」
破滅エンドは逸れてきている…とは思うけど、それでもやっぱりアリスが帰ってくればわたしの居場所は城にはない。だから、どうにか手に職をつけなきゃいけないんだけど…。
今から始めてどうにかなるものか……うーんと首を捻っていれば、右手に温かい感触がして。
「そ、れなら…俺のとこに来れば将来安泰だろ」
「え……それって…」
レオが顔を真っ赤にして、わたしを真っ直ぐ見る。
それって、つまり……。
「レオ様のお家で雇ってくださるってことですね!?レオ様、お優しいですのね!」
「ちっげーよ!」
メイドとして雇ってくれるっていう話だと思っていたらすぐさま突っ込まれてしまった。
それ以外に何があるんと言うんだろう?
わたしが聞こうとした瞬間、会場がざわめく。
どうやら全部のチームが焼き終わったみたい。最後は……やっぱり上兄様たちだ。
みんな上兄様たちが焼いたパンを見て驚いている。そりゃもちろん、開発に開発を重ねた特別な――
「え、食パン!?」
こんがりと良い色に焼けた食パンが、一斤まるまるお皿の上に飾られておりました。
司会役の人が旗を振り上げて、パン大会が始まりました!
朝早くから準備をしてくるのが当たり前なので、あとは焼いて食べてもらうだけなんだけれど。
先に焼き上がった人から順番になっていて、食べてもらっている間は当然待たなければいけないのでタイミングと時間を読んで焼かなければいけない。
「……なあ、お前の応援する組ってもしかして…」
「目の前の二人ですが?」
「あれ、クロハーラ王子じゃないよな?」
…………。レ、レオは随分と勘が鋭い。
帽子を深く被っていて、かつ後ろ姿だけなのによく気付いたな。
わたしが顔を背けて「チガウイマスワ」と誤魔化してみたけど、深い溜め息が返ってきたからきっとバレバレなんだろう…。
「…レオ様、実は」
上兄様も同じ前世を持つ人間だったと伝えなければと口を開いたところで、歓声が沸き上がる。
どうやら第一陣が焼き上がったようだ。
上兄様とマルコは…生地を眺めて談笑している。って、のんびりしている場合じゃないのでは!?
わたしの心配をよそに二人はのんびり窯の中のパンを眺めて笑っている。
「あの二人、大丈夫なのかよ…」
「……き、きっと作戦ですわ!ああやってのんびりして周りを油断させる戦法ですのよ!」
きっとそう…と信じたい。
上兄様がこっちに振り向いたかと思えば、おろおろしているわたしと訝しげに見ていたレオに向かってにこやかに笑って手を振ってきた。うーん相変わらず爽やかな笑顔だ。
上兄様に手を振りかえせばようやく二人が動き出す。
「あのさ」
レオが言い辛そうな顔をしながら言ってきたので、首を傾げながらレオの顔を見てみればなんだか寂しがっている子犬みたいな顔をしていて。
「どうしましたの?」
「今でもパン屋になるとか、本当に思ってんのか?」
パン作りの才能が全くもってないことがわかってしまったので、無謀な夢を持つつもりはない。
「ありませんわ。今回の件で、才能がないってはっきりわかりましたもの…」
思えば、パン職人は男性が多いのも力仕事なこともあって、女性にはそもそも向いてないんだろう。わたしの前世みたいに機械が発達しているわけでもないしね。
残念だけど、諦めるしかない。
「どうしましょう、アリスが来るまであと数年しかないというのに…」
破滅エンドは逸れてきている…とは思うけど、それでもやっぱりアリスが帰ってくればわたしの居場所は城にはない。だから、どうにか手に職をつけなきゃいけないんだけど…。
今から始めてどうにかなるものか……うーんと首を捻っていれば、右手に温かい感触がして。
「そ、れなら…俺のとこに来れば将来安泰だろ」
「え……それって…」
レオが顔を真っ赤にして、わたしを真っ直ぐ見る。
それって、つまり……。
「レオ様のお家で雇ってくださるってことですね!?レオ様、お優しいですのね!」
「ちっげーよ!」
メイドとして雇ってくれるっていう話だと思っていたらすぐさま突っ込まれてしまった。
それ以外に何があるんと言うんだろう?
わたしが聞こうとした瞬間、会場がざわめく。
どうやら全部のチームが焼き終わったみたい。最後は……やっぱり上兄様たちだ。
みんな上兄様たちが焼いたパンを見て驚いている。そりゃもちろん、開発に開発を重ねた特別な――
「え、食パン!?」
こんがりと良い色に焼けた食パンが、一斤まるまるお皿の上に飾られておりました。
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