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番外編1:バレンタインデーです!前編

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とっても出遅れましたバレンタインデーネタです。どうしても季節ネタに乗っかりたかったので大遅刻ですがおおめに見てください!
※本編と関係あるようでありません。たぶん最新話までのネタバレはありません。
各登場人物の初登場を見返したい方は登場人物一覧をご覧ください。

普段に比べてかなり長めの文字数ですが、番外編なのでお許しを…!

***

 そろそろ、前世で言うところのバレンタインデー!この世界では、バレンタインデーではなくて愛の日と呼ばれている。
 お城のなかも、城下町も男女みんなソワソワしている。
 日本のバレンタインデーと違うのは、女性からではなくて男性から女性にプレゼントをすること。…海外では普通にこのスタイルなんだったかな?よく知らないし、覚えてないけど。
 ともかく、愛の日は男性から女性にプレゼントを贈る日なんだけど、恋人や好きな人にだけじゃなくて家族にも贈ることも普通だ。
 他にもいくつか暗黙のルールがあって…。

「フィアーナ、愛の日には何を贈ろうか」
「欲しいものがあれば言え」
「う、うーん…」

 上兄様と下兄様から聞かれて、困ってしまう。豪華なものなんてとても受け取れないし…だからといって要らないと言っていいものか…。

「仕方ないね。今回も適当に選ぶとしよう」
「ああ、贈り物は早い者勝ちですからね」

 困ったように二人が溜め息をついて行ってしまった。
 そう、この愛の日の最大の暗黙のルール…それは、贈り物は他の人と被ってはいけないこと!
 もし被ったとして、先に受け取ってしまったら後の人は泣くことになる。先の人が贈ったものを受け取らなければ、後の人のを貰ってもいいんだけど……なんでこんな面倒なルールになったのかは知らない。
 なので、この日が近付くとみんな好きな女性や家族に欲しいものを聞くのだ。女の子の方も別々に欲しいものを言っておけば被ったりしないしね。

 ……ちなみに、婚約者から絶対に贈らなくてはいけない、というルールはない…ので、レオからは貰ったことはない。
 レオから欲しいなんて烏滸がましいのでねだったこともない。

「でも……花の一本くらいは欲しいわ…」
「誰に?」
「わぁっ!?」

 ぽつりと呟いたら後ろから声を掛けられて驚いてしまった。
 慌てて振り向けば、そこにはしっかりメイクをして、可愛いドレスを着たアスフェリオスの姿。その後ろにはドーラが睨みを利かせて立っている。どうやらドーラがアスフェリオスを通したようだった。

「アスフェリオス!どうしたんですの?」
「そろそろ愛の日だろう?姉さんに贈り物と…フィアーナ王女にもと思って」

 ぱちんとウインクするアスフェリオス。うーん、可愛い。すっかり美少女が板についている。女装することは許されたみたいで、きっと淑女の勉強を一生懸命しているんだろう。
 もしもわたしが男だったら一目見ただけで惚れてただろうなあ…。

「王女様は花が欲しいの?」
「い、いえ、そういう訳では!」

 花が欲しい、といえば欲しいけど…それは、別の人から貰いたくて…。

「…ふーん。貰いたい人がいるのか。といっても僕が持ってきたのは花そのものじゃないんだけどね。はい!」

 複雑そうな顔をしてしまったわたしの心情を読み取って、わざとらしいくらい明るい声で笑って、目の前に差し出したものは…

「香水、ですか?」
「そう、花から採った香りだからきっと気に入るよ」
「わぁ…ありがとうございます、大切に使わせて貰いますわね」

 香水は大人の淑女がよく使っている。同年代で香水を使う令嬢は居ないので、少しだけ大人の階段を登った気分だ。

 にまーっと笑ったアスフェリオスが思い切り顔を近付けてくる。男の子だということを忘れてしまいそうなほどの美少女顔というのは、女でもドキッとしてしまう。

「どういたしまして。お礼は王女様のちゅーでい…いたっ!?」
「調子に乗るのもそこまでになさい。アスフェリオス。さ、渡すものが済んだのならさっさと帰りなさい」
「えー!折角ならこのままお茶会にさあ」
「か、え、り、な、さ、い!」

 あと少しで、くっついてしまいそうというところでドーラが思い切りアスフェリオスの頭を叩く。
 ハッ思わず見惚れてしまってたけど、あとちょっとでキスしてしまうところだった。あ、危ない…。美少女顔、恐るべし…。

 二人が言い合いながら、ドーラに引き摺られてアスフェリオスが部屋から出ていった……。


 庭に出れば、騎士団数人が訓練をしているのが見えた。木で作られた剣には重りがついていて、筋トレも兼ねた訓練みたいだ。
 …自主練なのかな?

「よっ王女様。散歩か?」
「シキ、ごきげんよう。はい、今日はいい天気でしたので」

 わたしに気付いたシキが駆け寄ってくる。その後ろからナイが泣きながらシキを追ってきて……

「王女様あぁあぁぁ…!?!」

 転んだ。
 顔からいったのでかなり痛そう…。

「ナイ、あの、大丈夫ですか…?」
「いてぇっス……うわぁ!鼻擦りむけたー!シキセンパぁイ!」
「うるさい。向こうで治療されてろ」

 鼻の頭が擦りむけたようで血が滲んでしまっている。シキに背中を蹴られてよろめくナイは「見捨てないでくださいよおぉぉ」とシキにしがみついて、シキがナイの頭を思い切り叩く。
 これが騎士団の日常なんだろうか。残りの騎士団の人たちはシキとナイのやり取りを見て笑っている。

 …痛そうだけど、賑やかで楽しそう。

「ふふ、ナイ、よろしければこちらをどうぞ。汚れても構わないものですから、気になさらないで」
「お、王女様!?いいんスか!?」

 わたしがハンカチを差し出せば、ぴたりと泣き止むナイ。鼻にあてるまでは良かったんだけど、に、匂いを嗅がれるのはちょっと引いた。

「王女様は優しいな。あんな馬鹿ほっときゃいいのによ…。ハンカチ、本当にいいのか?王族のものだろ?」
「ええ、いくらでもありますし」

 ハンカチくらいならいくらでもあるし、何よりわたしならぼろ布だって構わないからね。
 わたしがそういえば、シキは腕を組んで何か悩んでいるようだった。

「…じゃ、これ。代わりになんて全然なんねーだろうけど。愛の日も近いしな、受け取ってくれるか?」
「え、でも、シキが使うものではないのですか?それに新しいものですよね、これ」

 少しして差し出してきたのは、綺麗なハンカチ。どうやら一度も使われてない新品のようだ。
 訓練で汗をかくだろうし、受け取ってしまうわけには…。

「元々姫さんに渡そうとしてたモンだから受け取ってくれねーとちょっと寂しいんだが?」

 少し照れたように視線を逸らして、頬をかくシキ。

「…では、受け取らせて貰いますね。ありがとうございます、シキ」

 まさかシキまで何かを用意してくれてたなんて…何度も助けてもらったのはこっちだし、お返しはきちんとしなくちゃね。
「あー!センパイ抜け駆けっスよぉ!?」とナイが騒ぎだして、シキがまた頭を叩いているやり取りはまるでコントのようで。
 微笑ましく思いながらわたしは庭を後にした…。

***

後編へ続きます。
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