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22:生まれ故郷に帰ってきたんです

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 街道から、森の中へ。
 バスタ村は思っていた以上に田舎の方らしい。森の中を少しして抜けると、田んぼや畑があるのどかな村が見えてきた。

「あれがバスタ村?」
「ああ、静かなところだな」

 王都はいつも賑わっているから、こんなのんびりした空気は新鮮だなぁ……。風がほんのり冷たくて気持ちいい。

「っくしゅ!」
「窓なんて開けてるから寒いんだろ。ったく…ほら」

 この辺りはもう冬に入っているみたいだ。ちらほら霜が見えて、気温ががくっと下がったのを感じる。
 レオが羽織っていた上着を放り投げられて、返そうとレオを見るが顔を背けられて……その耳がちょっとだけ赤いのを見て、好意に甘えることにした。
 少しだけ…レオの匂いがしてドキドキするって、変態みたいだな、わたし!

「レオ様、ありがとうございます」
「別に…」

 瞳を細めてお礼を告げると、もっと赤くなった耳に口元が緩む。
 無愛想だけど優しいなあ……これならきっとアリスもレオのことを好きになっちゃうだろうな。
 ……なんだろう、今ちょっとモヤってしたような…?うん、これは寒いからだろう、きっと。
 上着を羽織り直して、レオの視線の先を見る。

 バスタ村はもう、すぐそこだ。

***

 漫画で見た風景がそのまま広がっていた。
 広くてのどかで、温かい。……ここがわたしの生まれ故郷か。ここで育っていたら、どんなわたしになっていたんだろうか。

「俺はこの村に居る男爵家と用があるから」
「はい、いってらっしゃいませ」
「…………」

 バスタ村の男爵家…といえば、バスタ令嬢だろうか。この子もライバル令嬢の一人で、レオに片思いをしているんだっけ?
 だいぶ薄れてきてしまっている記憶をどうにか掘り起していれば、レオがじっとわたしを見ていることに気付く。

「どうしまして?わたくしなら一人で大丈夫ですのよ!お忍びで来ている設定ですから!」
「いや……なんでもない」

 はあ、と溜息を吐きながらレオが村で一番大きな家に向かっていく。バスタの令嬢は純粋だけどやきもち焼きなので、きっとレオ一人が良いと言ったんだろう。わたしはちょっとだけ派手じゃないドレスに着替えて、ちょっと様子を見に村を歩く。
 国境近くなので、旅人も多く訪れるところみたいだ。ちらほら見慣れないような恰好をしている人がいる。
 アリスはどこらへんに住んでいるんだろう。本当のお母さんに会えるかな――…

「姫様、一人でこんなとこうろついてると怒られちまうぞ」
「ひゃあっ!?」

 後ろから肩を掴まれて驚いてしまう。慌てて振り向けば、シキが困った顔をして立っていた。いくらお忍びとはいえ、護衛も無しにふらふら歩いていってしまったものだから慌てて追いかけてきたんだそう。
 というか、シキも護衛に混ざっていたのね……ちょっと長めの旅だったけど、ドーラとレオ以外は関わる機会なんてなかったから気付かなかったわ。

「まさか本当に姫さんだったとはなー…」
「ごめんなさい、黙ってて…あの時は助けてくれてありがとう」
「姫様を助けられたなら騎士の本望だ」

 明るく笑って、膝を付いて指先に口付けるシキ。こ、こんな往来で主従みたいな真似をされるとお忍びじゃなくなって……ちらちら見ている人もいるし。
 恥ずかしくて顔が熱くなってきているわたしの手を引いて、馬車まで連れ戻されてしまった。
 自由には出歩けないらしい。のどかな村と言っても、森には盗賊だっているし良いところの令嬢くらいには見えるから狙われたら危ないから、だって。

 折角ここまで来たのに、何もしないでいるなんてつまんないわ。
 馬車の外を見れば、何かあったのか、護衛の騎士たち何人かが馬車を離れていく。見張りは新人のナイだ。騎士たちは睡眠時間がずっと少ないからだろう、ちょっとうとうとしてしまっている。

 ――――ふと、視界の端に、お母様と同じ髪の色をした小さな頭が見えて。

「あ、アリス…!?」

 わたしは思わず寝ているナイの横を通り抜けて、森へと向かっていくその頭を追い掛けた――――。
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